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魔王プニル その2

「ん、んん〜? たくみ、我いまちょっとよく聞こえなかったのだが」

「おねえちゃんを、たっくさん、気持ちよくしてあげる!」

「きゃあ大胆! この子大胆ですよ魔王さま!」


 いつの間にか復活していたチュルシーがいやんいやんと身悶える中、プニルは頭を抱えた。


「あのな、たくみよ。そういうことを軽々しく言ってはいかんぞ。おまえのお父さんはそれはもう最低クソ野郎だったかもしれんが、お前までそういう」

「おねえちゃん、そこ座って?」

「ん? ああ、これでいいか?」


 プニルは玉座に座った。


「んん。お前までそういうところを真似する必要はないのだぞ? それにだ。お前はまだ11歳だ。そういうことを言い始めるにはまだ早いし」

「おねえちゃん、おくつ脱いで?」

「ん? ああ、これでいいか?」


 プニルは靴を脱いだ。


「んん。それでだ、お前はまだ若い。我々魔族からすればひよっこもひよっこだ。変に背伸びなどしなくとも、我々はお前を」

「おねえちゃん、おあし出して?」

「ん? ああ、これでいいか?」


 プニルは素足を差し出した。


「それでだ……ってちょいちょいちょいちょーーーい! お前はいったい何をしているのだ!?」

「え?」


 気がつくと、なんとたくみはプニルのつるつるおみ足を両手でさわさわとまさぐっていた!

 何という早業! なんという自然体! こうして直接触れられるまで、プニルはまったく気付いていなかった。この一連の流れに、魔王であるプニルでさえ、まったくついていくことができなかったのだ!

 催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてない、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったプニルは、不覚にも少しぞくぞくしていた。


「あのね、おねえちゃんを気持ちよくしてあげようとおもって」

「やめろ! なんか凄くぞわぞわするぞ! それに足を触られて気持ちイイだなどと、そんな話は聞いたことがない!」

「えーっ! ぜったい気持ちイイよ! ぼくが足さわると、みんな「ンアーッ!」っていってビクビクするんだよ!」


 たくみは「ンアーッ!」の部分を何故か裏声で言った。


「なんなのだ「ンアーッ!」って! 我は絶対に「ンアーッ!」だなどと言わん!」


 プニルも倣って「ンアーッ!」の部分を裏声で言った。それを聞いたチュルシーが拳をぐっと握ったが、特に深い意味はない。


「いうよ! ぜったいいう! みんなビリビリしびれて気持ちイイっていってくれるもん!」


 たくみが少しむきになって、そう言い返したその時、プニルの瞳が邪悪に光った。


「……ほほう? 痺れるだと? この我が?」


 聞き捨てならない言葉を聞いたプニルは、ピクピクと頬が動くのを止められなかった。


「いいだろう。たくみよ。そこまで言うなら我に試してみるがよい。よりにもよってこの我を、完全状態異常耐性を持つ魔王プニルを痺れさせると申したからにはな!」


 そう。プニルは仮にも魔王。魔界を統べるボスの風格を漂わせる、絶対の支配者である。

 そしてボスキャラと言えば、状態異常に対する完全な耐性を持つことはあまりにも有名な話である。ボスキャラは断じて魔法によって眠らされたり、痺れたり、石化させられたりはしない。アイドルがトイレに行かないと言い張るのと同様、それは魔王プニルが魔王たらんとする上で、守り通さなければならない誇りにして矜持であった。

 たくみは今、知らずしてプニルの逆鱗に触れたのだ。


「たくみよ、特別に我の素足に触ることを許可する。さあ、我を痺れさせられるものなら痺れさせてみよ! さあ! さあさあ!」


 プニルには、例えたくみが何をしようが絶対に痺れたりなどしないという絶対の自信があった。勇者とはいえ、所詮は11歳のお子様である。しかも、たかが足を触られたぐらいで魔王たるプニルを痺れるだなどと、この世の常識で考えれば世迷い言にしか思えない。

 余裕綽綽のプニルは、ほれほれなどと言いながらたくみを挑発した。身の程を弁えなかったたくみへの報いのつもりだった。

 見た目こそ同年代に見えるたくみとプニルであったが、その年齢差はおよそ100年。そう考えれば実に大人げない光景ではあったが、それだけプニルは本気だった。


 だが、プニルにとっては不幸なことに、たくみもまた、極めて本気であった。

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