プロセス6 強くなるために
「……どこここ?」
少年は見慣れない天井を見つめ呟いた。
寝起きで物事が整理できていない。記憶も混乱しているのは仕方のないことだった。
「えっと……! そうだ!! 村が!!」
「もう終わったりましたよ」
「えっ?」
声のするほうを見るとメイドがドアから入ってくるところだった。
「どうも、ジンガー伯邸メイドのナタリーです。よろしくお願いいたします。包帯を変え、服を着替えましょう」
そう告げると、ごく自然な動作で少年の服を脱がし始めた。
「…………。はっ! や、やめてください! 自分でできますから!!」
「いえいえ。もう一週間もお着替えや下の世話まで、私が担当しておりましたからそう恥ずかしがらず」
「いや、問題大有りでしょう!! 意識無いときは不可抗力ですけど!!」
「いえいえ、これが私のしゅ……仕事でございますから」
「今、趣味っていいかけましたよね!!?? そんなの不安しか残りませんけど!!!」
コンコン
「!!」
ドアからノックの音が聞こえると、そこには可憐という言葉がよく似合う美少女が立っていた。
「ナタリー。あなたの性癖は知っていますが、少し自重してください。さらに言えばこれを知ったらエドウィンが悲しみますよ?」
「私としたことが、少し取り乱してしまったようですね。このことはどうかお二人ともくれぐれもご内密にお願いします」
そういって頭を下げたナタリーは、着替えと包帯を置いてそそくさと部屋を出て行った。
可憐な少女はベッド近くの椅子に腰かけた。
「すみませんね? うちのメイドたちは良くも悪くも我が強くて」
「いやいいんだけど、君は誰?」
「自己紹介がまだでしたね? ジンガー伯爵家現当主の四男、ドイル・ウィンダム・ジンガーです。あなたが村の危機を教えてくれたおかげで被害が広まらずに済みました」
「ドイル……っていうことは男なのか?」
「よく聞かれますが男です。四男と言ったはずですがね? 最初ですからいいですが、今後その話題はNGです。非情に不愉快なので」
「わかった、今後気を付けるよ。俺も自己紹介しよう。ジョン・ブルース、ボンダレフ村の村長の長男だ」
ドイルはジョンの自己紹介を聞き終えると、ゆっくりと事件について語りだした。
「ボンダレフ村の盗賊たちはほとんどが殺処理されました。村の本体にはほとんど被害はなく、怪我人も騎士団に少々といったところでしたが……」
「……」
「君のお姉さんは、残念ながら発見時にはもうすでに息をしていなかったそうです」
「……そうか」
「悔しいですか?」
「当り前だろう……俺のせいで姉さんは……」
ジョンは俯きながら悔しさを声として搾り出した。
「酷ですが、君から聞き取りをしなければなりません。本当は騎士団がする仕事ですが、無理を言って僕が担当することになりました」
そう言うとドイルは立ち上がり、こう告げた。
「部屋の外にいます。着替えて落ち着いたら、呼んでください」
ドイルが部屋から出るとジョンは毛布を握りしめて、声を殺して、泣き始めた。
「入ってくれ」
一時間ほどして部屋から呼ぶ声がした。
ドイルが入ると着替えたジョンが屈伸をしていた。
「一週間も寝ていると体がなまって仕方ないな……」
「その通りですが、急な運動は体に悪いですよ。徐々に戻していけばいいでしょう?」
「そうだな……」
ジョンは言葉を切ると、近くの椅子に静かに座る。
ドイルはその体面になるように部屋の隅にあった予備の椅子を持ってきた。
「貴族っていうのは何でも召使にやらせるって聞いてたんだけど」
「それは貴方の父君のご実家がそうだったからでしょ? ジンガー伯家は自分が出来ることは自分ですることが代々当り前ですから」
「ふーん」
ジョンの父親は公爵家の出身だが、出奔して平民の女性と結婚したという過去があった。
「それじゃ、まず盗賊団のアジトを見つけた経緯についてですが……」
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「さて、最後に言い残したことや聞いておきたいことは?」
「……ない」
ジョンは聴取の途中から下を向き、何かをこらえるように両手を握りしめていた。
「そうですか……。ではこれで聴取は終了です」
「……」
「ここで提案をします。受ける受けないの選択するは貴方次第ですが、決して悪い提案ではないと思います」
ジョンは俯いていた顔をドイルに向けた。その瞳は多くの感情が押し殺されいるとドイルは感じた。
「ジンガー伯家に残りませんか?」
「はぁ?」
「ここの騎士団で訓練を受けませんか? あなたは強さも覚悟も足りなかった。ならばそれをここで手に入れませんか? 僕としては年齢の近いあなたがいてくれると張り合いになりますし」
「……」
「地元に戻ってお姉さんの墓前で泣き続けるよりも、有意義だとは思いませんか?」
「……本当に強くなれるのか?」
「あなた次第です」
「……そうか」
顔を上げたジョンの顔には悲愴感はもうなかった。強い意志を宿した瞳がそこにはあった。
「頼む、俺を強くしてくれ!」
ドイルはにやりと笑った。