illusion is mine - 3
シュタンは昨日のあの場所に向かって走った。行き先が分かっているためか、走る足取りは、昨日と比べるまでもなくとても軽かった。
早く、早くあの場所へ!
しかし、その気持ちと裏腹に前へとうまく進むことができなかった。
「焼きそば、おいしいよー」
「そこのお若い人、寄って行きなさいな」
「おじちゃん、たこ焼き一つ」
「あいよ。お嬢ちゃん可愛いから、一つオマケだ」
「うわぁ~、おじちゃんありがとう!」
まだお昼だというのに、お祭りは盛況で人波が途切れない。道の端で開かれる露店は道の幅を狭くし、その道を若い男女は道を塞ぐようにして横に並ぶ。さらに、子どもたちは楽しさに従順で、周りの人などお構いなしで走り回っている。何とか人の隙間を見つけて通り過ぎようとしても、すぐに違う人でその部分が無くなってしまう。別の、自分だけが知っている道があればいいものの、この街に対してそのような土地勘など持ち合わせていない。ゆえに、人に流されて進む他に手段がない。
「こっちは急いでいるんだ。早く行かせてくれ!」
無意味だと分かっていても、シュタンはこの鬱陶しさに黙ってなどいられなかった。その言葉を口にする度、隣にいた人には一瞥をくれられる。急いで前に行こうとすれば、人にぶつかり、睨みつけられる。その度に「すいません」と言わなければいけない。
こんなことをしている場合ではないんだ。早く、昨日のあの場所まで。シュタンの乱暴な足音は人々の喧騒の中へと消えていった。