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illusion is mine - 16

 ジュイスはコンテスト会場の近くにあるベンチに座ってコンテストを眺めていた。傍には、大きなが木が聳えて立っていた。

 ベンチのある場所はステージからは遠く、人の姿も米粒ほどの大きさでしか見えなかった。人の動きもかろうじて分かる程度だった。ただ、この会場には多くのスピーカーが散りばめられているおかげで、ステージで演奏する人たちの初々しさ溢れる音楽を楽しむには十分こと足りていた。

 あの二人の出番を待っていると、乱入者が現れたと騒動になり、加えて暴れている様子であった。ジュイスは迷惑よりも、その人が持つ見境の無い情熱が底知れないと昔を懐古しながら、遠くのステージを見守った。

「さあ、みなさん! 乱入者は消えました! そしてこれから出てくる人たちが本当のラストです! 皆さん暖かい心を持って演奏をお楽しみください!」

 いきなり司会の人の声が響いてきた。どうやら乱入者騒ぎは収まりを見せ、最後の出場者が演奏できるようになったらしい。

「では、『美少女とぶっきらぼう』でアネロの『Alchemy』です!」

 司会の紹介と共に表れたのは二人組みだった。紹介された名前や出番の形跡から、あの二人、レベンとシュタンであることはすぐに想像がついた。

「こ、こんばんは!」

 レベンの可愛らしい声が響く。その後は、落ち着きも無くキョロキョロと 何か探している様子だった。その様子を見かねてか、シュタンが後ろから話しかけ、何か話していた。何かの打ち合わせかなとジュイスは思った。そしてレベンは落ち着いて前を見つめなおし、

「聞いてください」

 そうレベンが言うと、優しいアコースティックギターの音色がこの会場を包み込んだ。オリジナルよりもカントリー調のコード感がさらに優しい雰囲気を醸し出していた。きっとシュタンの手癖なのだろうとジュイスは感じた。


 冷たくなった手を握りしめて暖めて合おう

 くすぐたくって笑うような未来を想像するよ

 歩くのが怖いならその傍に駆けつけるよ

 転んだって支えるよ そのために両手があるんだ


 アコースティックギターの音に続いてレベンの歌声がジュイスの耳にすっと入ってきた。何色にも染まらない透明感ある声が鼓膜に浸透していく。ジュイスだけではなく、会場にいる全ての人々が目を瞑り、心地よい気分に浸っていた。


 つまりは単純の積み重ね ポケットの中に眠るもの

 そうだ この目がその輝きに気付かなきゃ

 星は回る 命を燃やして 静かな夜にあなたを照らした

 目を閉じれば浮かぶ全てに 私は歩いていくだろう


 サビが終わり、イントロと同じメロディーが流れていく。優しい音色の中、会場はレベンの歌声を待ち焦がれていた。


 震え出した手を握り合って暖め合おう

 陽だまりの下で笑うような未来を想像するよ

 忘れてしまったなら何度でも呼びかけるよ

 好きな唄を歌うようにその声はやさしさを超え


 つまりは勇気の使い方 ポケットの中に閉まったもの

 そうか この先にあるものばかり探していたんだ

 花は咲いた 命を灯して 寄り添うようにあなたと揺れた

 落としたものがそこにあると信じて 私は歩いていくよ


 握りしめた手を離して 最後の言葉を紡ぐとき

 何を言っていたのか分からないでしょう

 あなたがいた季節を 太陽が忘れてしまったとしても

 私は忘れない だからこの歩みを止めたりはしないよ


 星は回る 命を燃やして 静かな夜にあなたを照らした

 目を閉じれば浮かぶ全てに 私は歩いていくんだ

 花は咲いた 命を灯して 寄り添うようにあなたと揺れた

 落としたものがそこにあると信じて 私は歩いていくよ 


 レベンのハミングが始まると、ギターの音がぱたりと無くなった。少しの間、レベンのハミングだけがアカペラで流れていく。

 そしてそこに、他の音が鳴っていた。

 それは金管楽器の甲高く澄んだ音だった。

 ジュイスはその音に聞き覚えがあった。驚く気持ちそのままに目を開ける。

 するとそこは、さっきまでいたコンテスト会場とは違う場所だった。あの二人の音は聞こえてくるのに、周りの背景は真っ白いキャンバスに紫色の水玉模様がそこいらに散らばっていた。さらに足元に目を移すと、黄色に輝くタンポポが顔を覗かせていた。

「おばあ」

 優しい少年の声が聞こえてきた。ジュイスにとって聞きなれているその言葉が、なぜか昔のように感じられ、懐かしいといった感情さえ芽生えさせた。

「クスナ……なの?」


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