#scene04-02
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「……なるほど、事情は分かった。すぐ対策にかかろうか。それにしても、テオ。なぜ殴った?」
「あまりにも典型的なクズ貴族だったもので、申し訳ありません」
「いや、別にいいよ。オレもその場にいたら殴ってただろうし」
「流石お館様、男らしいー」
「まあ、さっさと片付けてジーナの勧誘に入ろう」
「ですね。ああ、テオ、ミシェル、サルド。今はこういうものの方が嬉しいだろうと、ナギ様が用意してくださいました。今日まで潜入お疲れ様です」
シャノンがフルーツと生クリームが大量に乗ったタルトをサルドの手に渡した。
「うわあ、すごいですねこれ。おいしそう」
「うんうん。お館様は女心もわかってるね!」
「女心?」
「ん?テオ、何か言った?」
「ナンデモナイ」
「後で食べましょう。テオしまっておいて」
「あ、ああ」
「テオ、甘いものは大丈夫か?」
「え?大丈夫です。結構好きな方です」
「そうか。じゃあ、問題ないな――よし、仕事に入ろう」
ナギが無駄にコートを風に流しながら格好つけて歩いていく。
その周りには同じように黒い仲間たちが笑いあっている。
久々の“青い翼”の中は、理由は明確だが前来た時よりも騒がしい。
冒険者たちと“お客さん”が喧嘩をしているのだろう。
ナギたちがドアを開くと――
「ちょっと、離してください!」
「おい、クソ貴族!ジーナちゃんに触れてんじゃねぇよ!」
「煩いぞ愚民共!僕は貴族で、こんなところで暮らしている貴様らは蛮族みたいなものだろう!口の利き方に気をつけろよ!」
「くそが!なめやがって!ベアルさんが怖くて下手に強硬手段取れないくせに」
「はっ、そんな奴相手する価値もないね!貴族である僕に手を出したら、どうなるかわかってるだろう?オーシプがなくなっちゃうかもね?」
「……お館様」
「どうしたミシェル」
「あのクズ殴っていいですか?」
「ふむ、どうだろうみんな」
一応、背後の皆の顔を見るナギ。そして全員が同時に頷いたので、ゴーサインを出した。
すると、高速で踏み切ったミシェルのソバットがバカ貴族の脇腹にクリーンヒットし、錐揉み回転をしながら壁にぶち当たった。
「よっしゃー!クリティカルヒット!」
「おー、よく飛んだな」
「あれ、死んでないですか!?」
「大丈夫さ、ペトラ。貴族だったらこのぐらいじゃ死なないから」
「謎の解釈ですね!ルイテル様」
「よお、ジーナ。迎えに来たぜ」
「え……?ナギさん!?帝国に行ったんじゃ!?」
「一回行って領地貰って、迎えに戻ってきた」
「えええ!?そんな無茶苦茶な」
「そろそろ、家の取り潰し食らったこのクズ貴族がジーナを頼ってガルニカまでやってくる頃だろうと思ってな」
「あ、あの資料はやはりナギさんからのものでしたか」
「そうそう。もう王国は以前までの体制とは違うからな。こういうどうしようもないのは淘汰されてる」
「そ、そうなんですか」
「坊ちゃん!大丈夫ですか?!」
「ぐぅぇお」
「クソ!なんだあの女!」
「ああ、坊ちゃんが泡噴いてる!?ポーションを!」
「で、どうする?」
「えっと、本当にいいんですか?正直、この人が来た時点で辞表出して旅に出る予定だったんですけど」
「基本的にここより寒いところで開拓するのを手伝ってもらうことになるけど」
「故郷が寒いところでしたからそれは問題ないですけど……あの、後ろにいる皆さんは?クレハさん以外は初めましてですね」
「ああ、オレの集めた最強の仲間たちだ」
その場にいたベアルがそれぞれの顔を見て、何かを悟ったように頷いた。
そしてそのタイミングでバカ貴族が復帰する。
「おのれ、そこの女!この私に」
「おい、お前。何言ってんだ?ミシェルはどっからどうみても可愛い男の娘だろうが」
「えへ、お館様。可愛いなんて照れるなー」
「えええ!?ナギさん、それほんとですか!?ていうか、その3人もナギさんの仲間!?」
「いえ、私たちは」
「お館様の部下だ」
「私たちもお館様と一緒にガルニカ出るからついでに挨拶しに来たよ」
「はあ、そうですか……」
「ええい、そんなことはどうでもいい!おい、そこの男。貴様がボスか!?気高き身分であるこの私に――」
「気高き身分?――おい、ルイテル・ヴィーラント公爵、ちょっと、これに気高さとは何かを教えてやりなさいな」
「はっはっは、何言ってるんだよ、ナギ。僕は皇帝の長男で、国の運営とかしたくなかったから弟に皇位譲って、ふらふらしてるだけのしがない公爵だよ?」
「いえ、ルイテル様は立ってるだけで気品がにじみ出ています!」
「まあ、容姿は超一級品だものね。私はナギの方が好きだけど」
「ありがとうクレハ」
「まあルイテルもナギ兄の腹の中どす黒いけどな」
「褒めないでよ、キーリー」「褒めるなよ、キーリー」
「褒めてへんわ!」
「な、なんでこんなところに帝国の公爵が!?」
「いや、ナギに遊びに誘われたからねぇ。あんまり国外に出れる機会もないからほいほいついて来たわけさ」
「なんでこんなよくわからない男と公爵が」
「おいおい、何言ってるんだ。この僕とナギ・クレセント・シュヴラン伯爵が親友なのは帝国じゃ有名な話だよ?」
「うわ、話には聞いてたけどマジなんだ」
「流石、お館様だね」
「まあ、ルイテル様が変わってるという説も濃厚だが」
「ナギさんいつの間に陛爵を……」
「ちょっと、王国のクーデターに参加したり、そのあと、追ってきた元王国貴族を蹂躙して、対応しなかった法国を脅迫したりしてたらいつの間にか、な」
「意味わかんないですよ……」
「貴様が陛下を討ったという傭兵か!」
「まあ、傭兵っちゃ傭兵か?どうだと思う、アーリック」
「依頼を受けたのは冒険者ギルドだった気がするが」
「雇い主は女王陛下と市民だったしな――というか、貴族でもない難民ごときがなんで他所の国で貴族なのってんだよ。死にたいのか?」
「ふん、誰が何と言おうと私は貴族だ!下賤のものとなれ合う気はない!」
「まあ、どうでもいいけどさ――じゃあ、ジーナ。一緒に来てくれるなら手続きにいこう」
「こちらからお願いしたいくらいなんですが、私、これに追われてるので面倒なことになると思いますよ」
「ああ、それなら大丈夫」
ナギは腕輪から勲章を出して見せる。
「ヴィオレット・フォン・グスト・イネスの名において、オレが王国の外で前イネス王国所属の元貴族に会った場合、問答無用で処分してもいいという許可をもらってるから。“剣と車輪”に行けばこいつらの手配書もあるし、処分すれば賞金ももらえる」
「そうなんですか」
「国に所属もしてないのに、イネス王国の貴族を名乗ってるただの犯罪者だからな。なるべく派手に殺すように言われてる」
「なるほどなるほど……そういえば、うちの家はどうなったんでしょう」
「シャノン、アルティエリ家はどうなってる?」
「そちらは問題ありません。今はオーブリーで領主代行をされていますが、近いうちにオーブリーはルーツに返還されるはずなので、アルティエリ騎士爵は首都に戻されるはずです」
「そうなんですか……安心しました」
「次の交渉がまとまれば飛び地の王国領とオーブリー、ガーガ、それと法国のカントがルーツに返還されるはずだ。まあ実際に戻されるまではしばらく時間がかかるだろうが」
「そうなんですか」
「帰りに王国による予定だし、運が良ければ会えるかもな。ジーナの親父さん、ルーツとの最終会議で王都にいるかもしれない」
「そうなんですか!?」
「ナギ、そろそろ飽きたわ。ほらエレノラとリュディが猫いじって遊び始めた」
「ああ、悪い悪い。じゃあ、そっちの自称貴族も長生きしたけりゃ真っ当に働くことだな」
ナギが来てからジーナは一度も彼を見ようともしなかった。
それどころか、ナギが話題に出さなければ存在すら認識しようとしていなかった。
ガルニカのギルドとしてはジーナがここから去るにはかなり痛手だが、全財産を使い果たしてここまで来た厄介者がやってきてしまったため、ジーナはここに居たくないだろうという気持ちもわかるので、ジーナの次の生活の場が見つかったことで受け取っていた退職願を受理した。
実力もなく、護衛の二人へと払う給金も持ち合わせていない元・貴族の青年が、弱肉強食の都市ではたして何日生きていけるだろうか。




