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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#03 黒の勇士編
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#scene03-35




結論から言うとアーリックの“狂化”の制御は80%まで成功した。

そこまでの間にナギは4回ほどクリティカルヒットを貰い、死亡したが案外ケロッとしている。

また、最後に90%までリミッターを解除してみた際、制御に失敗し、アーリックが暴走。

ナギが一瞬でミンチになったため、クレハとシャノンが四肢を落とし、パンドラが聖魔法で封印を行った。

この時点でこの灰色の世界の屋敷とその周辺は塵になっているのだが、続けてエレノラとパンドラが本気で魔法の打ち合いをしたせいで貴族区は壊滅。

他のメンバー全員の腕試しが終わり、悪ふざけでチーム戦をしたり、ミトとクラとのガチ戦闘をしたりした後には王都は瓦礫になっていた。


「いやー、楽しかったね。ここまで自分の力が及ばないとは。どうだった?ペトラ」

「いえ、あの、ルイテル様さっき死んでましたよね?なんで普通なんです?」

「幻属性だから夢みたいなものだろう?まあ、びっくりするほど痛かったけど。アーリック調子はどうだい?」

「制御に失敗したときは自分でも恐ろしかったが何とか止めてもらってよかった」

「四肢落とされてたけどね」

「正直理性も記憶も吹っ飛んでいたからそれぐらいはしなければ止まらんだろう。しかし、この枷の重要さがよくわかった……」

「パンドラさんの聖術の封印も効いてましたね」

「そうだな。ありがたいことだ」

「あの術式は先にナギさんに教えてもらってたんだけど、ショートカットですぐに使えるように機巧装置に設定しておいてよかったわ」

「本当にできた嫁だ」

「照れるからやめてよ」


「ナギ、今日何回死んだ?」

「20ちょっと?」

「それで、大丈夫なの?」

「え?うん。正直、シャノンとやったときの方が死んだし」

「――シャノン、私ともう一戦しましょうか」

「嫌です。ナギ様は搦め手のタイプですが、クレハ様はシンプルに強いので一人ではつらいです」

「まあ、魔眼のせいで姿消してても普通に攻撃当ててくるからな……」

「それはナギ様も一緒です」

「―――さて、じゃあ、戻すぞ」


ナギが手を打つと全員が元の世界へと戻ってくる。


「今までのが全部幻だったとは……信じられないな」

「一応、向こうで負った傷をすべて本物だと思い込めばそのまま安らかに死ねるけど」

「そんな怖いこと後付けで言わないでください!」


ペトラに怒られつつ、ナギが椅子から立ち上がる。


「さて、領の準備が整うまでは“青い翼”で適当に仕事をしつつ色々な手続きを片付けるか……」

「ナギ兄、ちゃんと錬金術の手ほどきもしてや?」

「ああ、それはもちろん。オレが基本的に引きこもることになるからクレハ主導で狩りとかしてきてくれ」

「ええ、わかったわ」

「貴族関係のことは僕が付き合うよ。僕がいるだけで牽制になるだろうし、せっかくナギが建ててくれてる遊びの計画を邪魔されてもつまらないからね」

「ああ、頼むよ、ルイテル」


「それならオレはクレハとともに狩りに行くことになるか。政や研究の役には立つまい。パンドラはどうする?」

「私は術式研究と実験の繰り返しになりそうね。エレノラもそうでしょう?」

「うん。でもたまに魔物も狩りたい」

「行くときはクレハさんやアーリックについていきましょう」


「私は、ナギ様が屋敷にいるときは、いつも通りナギ様についてまわります。城でお仕事する際は流石に同行しませんが。リュディもそんな感じでいいですか?」

「私はシャノンさんと一緒で大丈夫です。たまにミトとクラを走り回らせてあげたいのでその時だけクレハさんにお願いしてもいいですか?」

「ええ、大丈夫よ」


「私は機動性が悪いので基本的にお屋敷ですね。ナギさんやキーリーと一緒に研究です」

「機動性悪い?さっき車いすで高速移動しながら、即席で組んだ機巧銃乱射してうちを撃ち殺したのに?」

「ふふふ、キーリーさん。あれは隣に素材を提供してくれるナギさんがいなければできない芸当ですから」

「車椅子なだけで、機巧を使わせたら異常な戦力になることがよーわかったわ……」

「ナギさんがいなくても大丈夫なようにあらかじめ車椅子に仕込んでおくか、いえ、腕輪にいくつか用意しておきましょう」

「すごく物騒な計画建ててるし」

「万が一兄さんが来たら私の手で倒してやります」

「思想がすごく暴力的になってる」

「――はっ!?私としたところが少々血に酔ってたようです」

「もうそれアカン気がするで……キャラクターが崩壊しとる」


「じゃあ、反省会終了。夕食までは自由行動」

「私お風呂入ってこようかしら。なんか気分的な問題で」

「あ、あの、クレハさん、私もご一緒していいですか?」

「ええ、もちろんいいわよ」


リュディとクレハが部屋を出ようとしたとき玄関の方から訪問者の音が聞こえた。


「おや、誰かな?」

「私が」


ペトラが急いでドアへと向かう。


「どちら様でしょうか」

「ああ、ペトラ。よかった。しばらく家に戻らないから確認だけしに来たんだ。ルイテル様のところにいるのであれば特に要はない」

「あ、そういえば、連絡していませんでした!すいません、お父様」

「なんだフェーレンシルト子爵か。上がっていくかい?」

「ル、ルイテル様!そういったことは私が!」「ルイテル様!お久しぶりです!ああ、すいません、そういったつもりではなかったのですが」


慄く親子に笑いながらルイテルは貴賓室にフェーレンシルト伯を通す。

その際、食堂に顔だけ出して、ナギに声を掛ける。


「改めて、お久しぶりです。フェーレンシルト子爵」

「そ、そんな、恐れ多い!娘はご迷惑をお掛けしてませんでしょうか?」

「そうだね、ナギのおかげで戦力もいくらか上がったし、僕のパートナーとしては申し分ないね」

「あ、ありがとうございます!あとはお茶ぐらい入れられるようになります!」

「んー……それは長い目で見ていくよ」

「失礼します」


ナギが部屋に入ってくる。


「ナギ、紹介しよう。ペトラの父親、リアン・フェーレンシルト子爵だ。騎士系の家系でね、父上と仲がいいんだ」

「なるほど、ペトラがついてるのはそういう関係か。初めまして、フェーレンシルト子爵、ナギ・シュヴランと申します」

「初めまして、シュヴラン伯爵。リアン・フェーレンシルトです。ペトラの安否確認だけすればすぐ帰るつもりだったのですが、お騒がせして申し訳ない」

「僕から連絡しておけばよかったね」

「いえ、そんな」

「とりあえず、この屋敷を少し改造させて、その時にペトラの部屋も作ったから安心していいよ」

「そ、そんな。もったいない」

「あと、ペトラを嫁にもらおうと思うんだけど、いいかな?」

「え!?あの、ルイテル様、冗談ですよね?」

「何でペトラが驚いてるんだい?話してただろう?」

「まさか、本気だとは思わず……」

「ペトラが嫌なら考え直すけど」

「そんなわけありません!―――――っ!!!」

「ペトラさん、こちら冷たい濡れタオルです」

「あ、ありがとうございます、シャノンさん――っていつの間に!?」

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あの、あの、ルイテル様、うちは子爵家でして!?王族の方との婚約は……」

「一応、ただの公爵のつもりだよ。父上やライズから反対されたらそれぐらいは押し通すから」

「うちの娘は相当強いですし、たしかに嫁の貰い手は厳しいですが……」

「まあ、周りがもうそろそろ結婚しろってうるさいし、ペトラ以外は特に興味もないし……まあ、なんとかなるよね?ナギ」

「なぜこっちに振る」

「公国の伯爵の娘と無許可で結婚した猛者だからね」

「まあ、そういうこともあるし、親に殴られる覚悟もあるし、国ごと干し殺す覚悟もある」

「さすが僕の友だ。まあ、一応覚悟はしてるから大丈夫だよ。王としての才能は弟の方が上だろうけど、僕の方が賢いんだよ?知ってるかい?」


ルイテルがにやりと笑った。

ナギがシャノンからお茶を受け取り口をつける。


「いえ、あの、ペトラは昔からルイテル様のことを慕っておりますから、親としては否定することはありません。どうぞよろしくお願いします」

「――任せてください。必ず幸せに」

「ルイテル様!」

「ナギ、悪いけど、少し手伝ってもらっていいかい?ちょっと他の公爵を何人か味方につけてから父上とライズのところに殴りこもうと思う」

「仕方ないな、悪友の頼みは聞かざる負えない。後で悪だくみをしようか」


ナギが答えるとルイテルが満足そうに笑った。


「……そういえば、ルイテル様、そちらの女性は」

「ナギの奥さんの1人で、」

「シャノン・レヴェリッジ=シュヴランと申します」

「……とんでもないお嬢さん捕まえましたな、シュヴラン伯」

「損得を一切考えなかったと言えばうそになりますが、彼女もしっかりと愛していますよ――まあ、まさかこの歳で3人も嫁さんが出来るとは思ってませんでしたけどね」


ナギが苦笑いで答える。


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