#scene03-34
ナギたちとワイバーンの群れとの戦闘を遠くから陣を敷いてみていた宰相と元帥。
「シッファー宰相、殿下はあんなに強かっただろうか?」
「戦闘関連のことは私に聞かれても……あなた方の方が詳しいと思いますが」
「法国との戦争で最前線で活躍してた魔法使いがよく言う。やはり、力を隠していたのだろう。殿下もペトラ嬢も奥義未修得とはいえLv.7だ」
「まあ、周りの者が強すぎてルイテル様が霞んで見えるような気もしますが……シュヴラン伯とはこれからもよい付き合いをしていきたいものです」
「貴様、他の家は接触させないように抑えておいて、抜け駆けか?」
「接触させないように抑えているのはヴィーラント公爵ですよ。それに私も彼と同じく東部貴族ですから」
「ふん、つい最近、やっと自分に与えられる領地を選んだ、最近伯爵になった若造は違うな。それも牧畜ぐらいしかメリットのないラングときた。貴様、シュヴラン伯に与える領地を先に決めていたな?」
「元帥こそ、そろそろ御歳でしょう、引退されては?まあ、あなたが引退されたらあなたの家が元帥職に就くことはもうないと思いますが」
「言われなくてもわかっている。あの馬鹿息子共がもう少し賢ければさっさと引退するのだがな」
「公国なんかに留学に出すからすっかりバカ貴族に染まってきましたものね」
ため息をつく元帥と宰相。
「まあ、後釜は普通に今の大将に任せるだろう」
「そうしてくれると助かります」
◆
ナギたちはいろんなところから説明を求められるのをルイテルの言葉だけですべて抑えて、立ち寄った“青の翼”で大量の報酬をもぎ取って、屋敷へと戻っていった。
初めての集団戦闘という事で、食堂で反省会を実施することにした。
「さて、とりあえず暴れてみたんだけど、ルイテル軍事顧問、どうだった?」
「そうだね、連携とか取るにはもうちょっとそれぞれの能力を詳しく調べないと無理そうだね。まあ、今日の時点だとナギの振り分けは間違ってなかったけど」
「オレも実際に殺し合いしたことあるのクレハとシャノンだけだからなぁ。後の奴らの本気はわからん」
「何で嫁さん2人と殺し合いしてんねん……」
「キーリー、殺し合いから生まれる愛もあるのよ」
「そうですね」
「こーれだから狂人は……」
「ペトラもその銃じゃ高速戦闘についていけてないね」
「申し訳ありません、ルイテル様。加えて言うなら、普通の弾丸ではワイバーンクラスの魔物に有効なダメージを与えるのは難しいです」
「……というわけなんだけど、何とかならない?」
「そうだなぁ……ちょっと、銃借りていいか?」
「え、はい、どうぞ」
ペトラの銃を受け取ったナギがアイヴィーを呼び寄せ何やら相談しながら図面を引き始める。
ナギの話を聞きながら、図面を見てアイヴィーが機巧式を描いていき、より正確なものが出来始めている。
「あーあ、ああなったら完成するまで動かんで?」
「私はお茶でも淹れてきますね」
「シャノンさん、私も手伝います!」
「キーリー、手伝ってくれ。素材なんだけど……」
「はーい」
結果として20分ほど会議が中断されたが、その結果、ナギが少々武骨なデザインの銃を持ってペトラとルイテルの前に戻ってきた。
「機巧銃ができた。テスト機だけど、後は調整してデザインをいじるだけだな」
「とんでもないことするね……」
「普通何年と掛けるような作業を20分で……」
「これ、ヘルミオネ様的には大丈夫かな?滅ぼされない?」
「どうだ?クラ。行けそうか?」
「にゃ」
「大丈夫そうだぞ?」
「猫にしか見えないけど、これでもヘルミオネ直下の神獣なんだよね……」
ルイテルが黒猫ののどをなでながらつぶやく。
「で、何の話してたっけ?クレハ」
「全員の 能力を調べるためにとりあえず戦ってみようって」
「ああ、そうだった」
「え?そんな話やっけ?」
「それでしたら、ナギ様。ナギ様の超越奥義を使えばよろしいのでは?」
「ああー……使いどころに困るあの奥義か」
「……?コピーしてナギが実際に使ってみるってこと?」
「え?いえ、それは能力の副産物では?」
「……???」
「あれ、もしかして、クレハさん。戦って時にあれ見てないんですか?」
なぜかシャノンが挑発的にほほ笑む。
ナギを挟んで交差する二人の視線と、あふれだす殺意に空気が凍った。
「ナギ」
「……何でしょう」
「説明して」
「……はい」
ナギが立ち上がると、全員の周囲に複雑な、見たことのない様な術式が展開された。
「あー、特に害はないからそのまま受け入れてくれ。あと、気絶するから座ったまま突っ伏してたほうがいいかも」
次の瞬間全員の視界が灰色に染まった。
今までいた場所と同じ、しかし、すべてが灰色の世界。
「なにこれ」
「まあ、本当はこういう技なんだよ」
そういうとクレハの周囲に人影が立ち上がる。
その顔は紛れもなくクレハだった。
「ほぼ100%再現だから同じぐらい強いぞ」
「ほんとに?で、デメリットは?」
「現象が理解できないと発狂して死ぬかな。身体的ダメージは全部なかったことになるんだけど」
「じゃあ、今からナギが全員と殺し合いすれば、全員の力と技術を盗めるってことね?」
「それもある。実際この空間で何回も殺して殺されてるシャノンの方がクレハより再現度高い」
「聞き捨てならないから、私が一番になる様に殺しあいましょう」
「……なんでちょっと病んでるんだよ」
ため息をついたあと、手を二度うって注目を集める。
「じゃあ、アーリックから行くか」
「いいのか?」
「ああ、本気でやっていいぞ。死んでも治るし、“狂化”したら戻してやる」
「自分では本当に使えるのかわからないのだが」
「じゃあ試しにオレが使ってみようか?」
そういうと、ナギは重めの剣を取り出し、地面に挿した。
そして、駆動装置を右手に着ける。
「シャノン」
「はい」
ナギが投げた上着をシャノンが嬉しそうに受け取る。
「もし、制御効かなくて暴れ始めたらシャノンとクレハで全力で殺しに来い」
「わかったわ」「ご武運を」
赤黒い魔宝石をナギがセットした瞬間、禍々しい魔力がナギからあふれ出した。
「グっぁ――きっついなこれ」
しばらく、頭を押さえて苦しんでいたナギだが、10分もしないうちに掴んだようで、大きく息を吐いて、頬を叩いた後立ち上がった。
「よし、いきなり100%は無謀だったかと思ったけどまあ、いけたわ」
魔眼ではない左眼の色が赤く染まり、全身から禍々しい魔力を依然として放っている。
「ごらんのとおり、これが使えるからヴェルカ人が魔人って言われるんだよな」
「なるほど……」
「この力を上手く制御できないと理性まで吹っ飛ぶ。で、暴走する」
ナギが剣を抜く。
「アーリック、行くぞ」
「ああ!」
先ほど少し重そうにしていた剣を軽々と振るい、アーリックの剣に打ち付ける。
ナギの細い腕から放たれたとは思えないほどの衝撃がアーリックを襲った。
「ぐぉ!?」
「っ――――――!!これ、骨砕けるぞ!やっぱヴェルカ人の体のつくりじゃないと無理か!?」
大きく跳ねて距離を取るナギ。
今しがた振り下ろした腕を少しさすっている。
「体内の魔力を一気に活性化させる感じだ。今、枷付けてるから一気に100%まで活性化はしない。安心してやってみろ」
「わかった」
剣を一度床に差したアーリックが目を閉じて集中する。
魔力が集まっていき、そして――一気に爆発、したと思われた瞬間その魔力は半分ほどに抑えられた。
「ギ、グ、これは、つらいな」
「さあ、こい!」
力の制御を探り探りしながらアーリックが剣を抜き、ナギにとびかかった。




