#scene03-31
宴はしばらく続き、結果としてライズとシッファーは大いに楽しんだ。
前菜の後に、クレハがナギを唆して秘蔵の梅酒と杏酒を出させたため、メンバーは半分ほどほろ酔いである。
「ナギ、氷を貰えるかい?」
「ん?ああ――ルイテル、大丈夫なのか?」
「僕はお酒強いからね」
「ペトラはダメそうだけど?」
クレハが眠そうにふわふわとした空気を漂わせているペトラを見ながらそう告げる。
シャノンがペトラの前に水の入ったグラスを置き自らの席に戻った。
向こうのテーブルはアーリックとパンドラがまだ飲んでいるのとそれに付き合って話をしているアイヴィー。
リュディは眠ってしまった2匹を抱えてエレノラとともに寝室に向かった。
キーリーは皿などを適当に片付けている。
「それで、ライズ、帰りは?」
「ん、ああ、どうしようか、宰相」
「一応、車は待たせていますが、酒も入っていますし――まあ、ルイテル様のお屋敷ですから泊まっても問題はないと思いますが……」
「ナギ、客室は?」
「一応整備はしているが、皇帝陛下を泊めれるような広い部屋ないぞ……」
「寝れればいい」
「だ、そうだよ。宰相は帰るかい?」
「私は朝一の会議に間に合えば特に問題なく。どうせ今日は城に泊まる予定でしたし」
「じゃあ、階段上って左側すぐの2部屋を使ってくれ。ペトラ――はダメか」
「私が案内しよう」
寝ているペトラの代わりに、ナギが立ち上がり、二人を部屋まで案内する。
「中の物は好きに使ってください」
「感謝する」
「すまないな、急に。すまないついでに、表で待機している運転手と護衛に言伝を頼む」
「使用人室でよければ貸すが」
「ありがたい。今日は帰って明日の朝7時に迎えに来るか、ご厚意に甘えて泊まらせていただくか選ばせてくれ」
ナギはその足で外へ向かい、護衛の軍人1人と運転手の男(おそらくこちらも軍人)に声を掛けた。
「護衛2人ってお忍びだとしても大丈夫なのか?――まあ、いい、宰相閣下から伝言があるんだけど」
「どうかしましたか、えっと、すいませんが、お名前をお伺いして構いませんか」
「ナギという。それより、伝言だが、酒飲んだこともあって、陛下がもうこのまま泊まっていかれるそうだ。護衛の2人は明日朝7時に迎えに来るか、この屋敷に泊まるかしてほしいそうだ」
「どうする?」
「オレは今日は運転手だからな、判断は護衛にお前に任せる」
「ならば、泊めてもらってもいいでしょうか」
「わかった。空き部屋がないから使用人室になるが構わないか?一応1人1つベッドはある」
「問題ありません」
「それと、お前ら飯は?」
「……まあ、携帯食料が」
「……ああ、美味しくないがな」
「すまん、晩餐に呼べばよかったな。簡単なものを後で作って持っていこう」
「ありがたい」
護衛の二人を連れて、屋敷の中へ入る。
「流石はルイテル様のお屋敷ですね。なんというか、あからさまではない高級感があります」
「そういうものなか?」
「ええ、ナギさん、もそう思いませんか?」
「んー……王国の貴族の屋敷とかは見たことがあるが、あれはひどかったな。絵やら壺やら像やらが見せつけるように置かれてた」
「へぇ……」
「ナギ兄、うちはもう寝るけど、食堂大丈夫?」
「アーリックたちがまだ飲んでるんだろう?」
「うん。クレハは蟒蛇やけど、他は違うからそろそろ潰れるんちゃうかな」
「わかった。潰れてから片付ける。すまない、御両人、まだちょっと私の仲間が飲んでますけど食事を先に用意しましょう」
「あれ?まだいたんや?」
「たぶんだけど、少し話したらすぐ帰るつもりだったんだろ。ルイテルが半ば強引に晩餐の誘ったから」
「ああ、護衛の軍人さんも大変やなぁ。あ、うちは、キーリー・シュヴラン。ナギ兄の義妹や。よろしく」
「いもうと、ということは……」
「あんたがシュヴラン伯だったのか!?」
「え?ああ、うん。知らなかった?」
「先に言ってくだされば……」
「まあ、気にせんでいい。師匠の後継いだだけだし」
「ですが、王国との諸問題を片付けた御仁だと」
「何となくそういう結果が出来ただけだ」
食堂の扉を開けるとテーブルの上に突っ伏して寝ているペトラと、他に残ってるみなと談笑しながら楽し気にグラスを傾けているルイテルが目に入った。
「おや、そうか、そりゃ護衛ぐらいいたよね。すまなかった。ライズはもう寝たし代わりに謝罪しておくよ」
「いえ、滅相もありません」
「お前らもうやめとけ、パンドラがそろそろ限界だ」
ぐったりとアーリックに寄りかかっているパンドラを差す。
「ナギ、なんかシメに作って」
「おっさんみたいになってるぞ、酔っ払い」
「可愛いお嫁さんの頼みでしょう?」
「仕方ないな……」
ナギが厨房に引っ込む。その間、行き場を失った護衛2人は酔っているルイテルに絡まれて困惑していたが、10分少しで戻ってきたナギに助けられ、別のテーブルに座った。
2人には少し大きめの椀で、酔っ払いたちには少し小さめの椀でもってこられたそれはあたたかな湯気をうかべる中華粥だった。
「シメにはピッタリね」
「さいですか」
「うん、あれだけ料理食べたけど、これはこれでいいね。胃が埋まってても食べられるよ」
溶き卵と余ってた大根を葉ごと刻み、鶏がらスープで味付けたシンプル極まりないものだったが、酔っ払いたちはその味に満足したようだった。
「うまいな、これ」
「確かにお酒の後に食べるのも美味しいかもしれませんが、そのままでも十分に美味です」
「すきっ腹に染みるな」
「アーリック、この後大浴場に行くかい?」
「悪いが、少し飲み過ぎたからこれを食ったらシャワーで水だけ浴びて寝ることにする。パンドラ、大丈夫か?」
「うう、私も食べたい」
「……気持ち悪くなるぞ?」
「うーん、流石に僕もお酒入ってるから一人で行くのもな……ああ、そこにちょうどいい人材が」
ナギに感謝を述べている2人をロックオンするルイテル。
「シャノン、クレハ、ペトラを頼んでいいか?」
「ええ、問題ないわ。あなたは?」
「とりあえず、ルイテルを部屋に放り込むまでは起きてるよ。仕方ないから風呂に行くかね。たぶん2人だけ連れて行かせるとこいつら緊張で死んじまいそうだし」
「お願いします、シュヴラン伯。王兄殿下とマリスだけとか私が死んでしまいます」
「さらっと俺を役立たず扱いしたのはいいとして、たしかにアルトと3人だけだと気まずいな……」
ナギはパンドラを抱えて部屋を出ようとするアーリックに二人分の水筒に入った冷たい酔い覚ましの茶を渡している。
シャノンはすこし頬が紅潮しているように見えるが、その程度。クレハは特になんてことはないという顔でペトラを起こして2階に連れて行った。
その後、大浴場でしばらくルイテルと喋り、護衛の二人を寝室に案内した後、ルイテルを部屋に叩き込んで、ナギは自分の寝室に戻ったが、
「えっと、クレハさん、なにしてらっしゃるんです?」
「シャワーなら浴びたわよ?」
「いえ、そうではなく……まあ、いいや」
流石に体力がなかったので、ナギはクレハを抱きしめてすぐに眠りに入った。
「ふふ、おやすみなさい」




