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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#03 黒の勇士編
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#scene03-30



ペトラの制止を無視したルイテルが食堂に突っ込んでいく。


「ナギ、すまないけどちょっと会ってほしい客が……あれ?この部屋こんなのだっけ?」


食堂に入ったルイテルは驚愕する。

昼までは確かに大きなテーブルやそれに合わせた品のいい調度品があるナギに言わせるところの西洋風の作りだったのだが、現在は大きな円形のテーブルが2つ置かれた、赤と金を基調とした装飾――ナギに言わせるところの中華風の部屋に改造されていた。


「これは、また」


調度品の調整をしていたキーリーがルイテルに気付き、こちらにやってくる。


「あれ?どうしたん?ルイテル様」

「いや、そのとってつけたような様付けは不要だよ?ところでこれは?」

「ああ、ナギ兄がせっかくだから料理の雰囲気に合わせて変えてやろうかと思って、って言ってたで。最終調整でいい感じに仕上げてといて、って丸投げされたけど、どう?」

「うーん、なかなかいいんじゃないかい?」

「それで、ルイテルは何の用事?」

「いや、ちょっとナギに会ってほしい客がね。今大丈夫かな?」

「ああ、もうすぐ終わるはずやけど。さっき聞いた時はもうデザートやったし――あ、終わったみたいやな」


厨房の方から腕まくりをしてエプロンを付けたナギが現れる。

よく見るとかなり汗をかいているように見える。


「なんだかすごい汗だけど」

「ああ、悪い。ちょっと火力の限界に挑戦しててな。それで、どうかしたのか?」

「宰相が尋ねてきたから、ちょっと会ってほしいんだけど」

「ああ、了解。キーリー、後の設置任せていいか?」

「ええで、聞いたとおりにやればええんやな?」

「ああ。じゃあ、行くか」


そういうと、ナギは汗を魔法で消し去り、一瞬でいつものスラックスとベストに着替えた。


「悪いね、面倒掛けて。僕もこういうのめんどくさいから嫌いなんだけど」

「まあ、宰相が直接来たなら仕方ないだろ?」

「宰相だけじゃなくて弟も来たんだけどね?」

「正気かよ皇帝」

「ぶっちゃけライズは僕よりかなり弱いからねぇ」

「暗殺とかされても責任持たないからな……」


そういいながらナギが貴賓室の扉を開ける。


「遅くなりました。ナギ・シュヴランです」

「で、呼んできたはいいけど何の話なの?」

「いや、話しとかは特にないんですがね……」

「兄上が随分入れ込んでるから宰相も気が気じゃないんだよ」

「なるほど……まあ、安心してよ。ナギの手借りれば革命とか速攻でできるけど、そんなことお互い興味ないからさ」

「今のどこに安心できる要素があるんですか?兄上」

「ははは――そういえば、ペトラ。お茶とかって」

「ああ!?申し訳ありません!気づきませんでした!」

「いや、いいよ。うん」

「そうだぞ、ペトラ。そういうのはオレに任せてくれ」

「……2人揃って何を言っているのですか?」

「ほほう、仕方ないな。ペトラ、シッファー伯爵にお茶を。ライズ、君はどうする?」

「いや、私はいいです、兄上」


備え付けられていたお茶用の道具ですぐにお茶の準備をしたペトラがシッファー伯の前にカップを置く。

それを一口口に含んだシッファー伯が茶を噴出した。


「な、なんですか、これ!?」

「ナギ、一応確認するけど」

「普通の紅茶だ。共和国の商店で買ってきた、そこそこいい奴だ」

「宰相、ペトラは昔から料理センスが絶望的でな。知らなかったか?」

「知ってたなら止めてください」

「シャノン、すまないが」

「畏まりました」


ルイテルはもう慣れた様だが、他の3名は驚愕に目を見開いていた。

ナギが声を掛けると同時に、湯気の立つカップの乗ったトレイを持ったシャノンがソファに腰掛けるナギの隣に現れたのだ。


「本日の茶葉はクロイツ産です」

「ありがとう、シャノン」

「あ、兄上、そちらの方は?」

「ナギの2人目のお嫁さんのシャノンだけど」

「シャノン・レヴェリッジと申します――ああ、ナギ様。キーリーが部屋の準備が整った、と」

「了解。じゃあ、夕食にしようか」

「いやあ、お茶要らなかったね。すまないことをした」

「いえ、お気になさらず」


「シャノンさん、今度お茶の入れ方を教えていただけますか……」

「ペトラさん、物事には向き不向きというものがございまして」

「うぐ………」

「さあ、食堂に行きますよ。私は他の皆さんを呼んできますので」


「ライズ、それとシッファー伯はどうする?一緒に食事をとるかい?」

「量だけは作ってるから問題ないが、王族と宰相閣下に食わしていいものか?」

「僕だって王族だよ?」

「そう言えばそうだった。幼馴染の悪友ぐらいの距離感だから忘れてた」

「いいね、その設定。次からそれでいこう」


何やかんやでルイテルに連れられて食堂に入った2人は圧倒言う間に席に座らされ、またどこからか現れたシャノンによって食器が揃えられていく。


それに遅れて、食堂へアーリックたちが入ってきて、ライズたちとは違うテーブルに付く。

シャノンとクレハだけは同じテーブルに付く様だ。

ルイテルはというとライズの隣で何やら楽しげな表情でテーブルの作りを眺めている。


「このガラスの盤は何のためにあるんだい?」

「ああ、趣味で作ったものだけどな。大皿の料理をいくつかここにおいて、自分の食べたいものを取るときに回すんだ」

「なるほど……面白いね」

「いつの間にこんなもの創ったの?」

「さっき」


ペトラは未だにルイテルの隣――というよりも皇帝と宰相が同じテーブルにいることに耐えられずあわあわしている。

クレハとシャノンは流石に肝が据わっているので特に気にした様子はない。


「たぶんこの世界で最初の中華料理だな」

「ほんとに凄いわね。何が大変だった?」

「八角と丁香を見つけるのが大変だった」

「なるほど、スパイスとして使われてなかったのね?」

「田舎の村独自の漢方薬みたいなのから必死に探したんだよ」

「お疲れさま。じゃあ、食べましょうか」

「そうだな。もう一つの方はキーリーに任せてあるから」


そういうといくつかの3つの大皿を硝子盤の上に出した。


「まずは前菜から」

「賢者の腕輪をそんなことに使う人を初めて見たよ。まあ、料理が冷めてなくていいと思うけど」

「北京ダックはあるの?」

「いや、流石にそれは無理」

「ああ、やっぱりね」


率先して棒棒鶏を取り分けて自分の皿へ置くクレハ。その後にはなるがナギのさらにも取り分けていく。

ルイテルも牛タンの煮込みを嬉々として取り分けている。そしてまたペトラがあわあわしている。


「どうしたんだい?ライズ」

「いや、食べ方――もそうなんだが、見慣れない料理すぎて」

「あっはっは、そうだね。ナギ、この肉はなんだい?」

「牛の舌」

「ほう、それは何とも」

「騙されたと思ってたべてみ」


「クレハ様、これはどうやって作るんでしょう」

「これって……煮卵?」

「そうです」

「以外にもシンプルなのが好きなのね、シャノン」

「基本的に卵料理は好きなので」

「なるほど」


「うん。これも美味しいじゃないか。ペトラ、なんかあんまり食べてないみたいだけど?」

「いえ、あの、どうしていいのか」

「ああ、そうか。じゃあ、僕がとってあげよう」

「いえ、そんな!あああ……ありがとうございます」


「宰相」

「なんですか、ライズ様」

「なんかあきらめて普通に食事をしていないかお前」

「ルイテル様が気に入ったお方です。ある程度は覚悟してました。それより、早く食べなければなくなりますよ」

「そのようだな……」


こちらのテーブルもクレハとルイテルが容赦なく食事を進めていくが、向こうのテーブルはそれ以上の戦争となっていた。


「くっ、エレノラ。その最後の牛タン煮込みは」

「譲らない」

「……パンドラ、オレのをやろう」

「!!――ありがとう」

「それでええんか、聖女様」

「いいんです!ああ、美味しい……!」

「というかこっちもう前菜終わりそうなんやけど、ナギ兄」

「キーリー、食べないならもらう」

「あ、こら!それうちの鶏!」


「クラ、さっきから鶏ばっかり食べてるんですけど……」

「猫は鳥好きですからね」

「そうなんですか?アイヴィーさんはさっきから胡瓜ばっかり食べてますね」

「だってみんな残すから……ソースと合って美味しいのに。ほら、ミトも野菜食べてますよ」

「この形態の時は野菜の方が好きみたいですね、ミト」


「ミト、付け合わせのレタスをあげよう」

「きゅい!」

「エレノラ、そんな無理に皿を空にせんでもええんやで?」

「でも、喜んでる」

「きゅう!」

「ミトがそれでええならええけどな……」


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