#scene03-26
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一礼してナギたちが部屋を出ると、ナギとルイテルだけ侍女に連れられ別の部屋に通される。
他のみなはペトラの案内で先に帰ったようだった。
しばらくすると二人の侯爵が部屋に顔を出す。
二人とも30手前といったぐらいの比較的若い領主である。
「すまない、シュヴラン伯爵。どうしても礼を言いたくてな」
「ああ。これで、やっと開発の目途が立つ。船での輸送は金も時間もかかるからなぁ」
「いえいえ。こちらこそ。かなり重要な領地をいただいたようですし……」
「確かにエストールは我々の領地につながる唯一の陸路だからな。だが、そういったところが寂れていると人も集まらないのでな」
「我がヴェルテ州のエストマかハインに来てもらってもよかったのだが、流石に遠すぎると宰相閣下から怒られてな。君をディースブルグ候に取られてしまったというわけだ」
「まあ半島はどこも寂れた漁村か農家ぐらいしかない。私もオイレンブルグ候も半島の残りの部分の開拓をしながら開発となると手が回らなくてな」
「今はどのような産業を計画しておられるのですか?」
「私たちの州、クニス州ではディンガーは州都としての機能があるためそれなりに人が集まりつつある。テアとアレントはリゾートとしての開発を予定している。反対に、フェッツやダンツィでは農林業、特に果樹栽培に力を入れる予定だな。エストールは漁村があるだけだな。鉱山を掘ろうにも人手が足りない」
「うちもザンドラ湖畔にリゾートを建てたいのだが、距離的な問題で完全にテアに客を食われるだろうな……それ以外となると基本的には造船が主産業だな」
「なるほど……戴く領地の位置関係から、立場上ディースブルグ候を優先せざるえないのですが、何か思いついたらオイレンブルグ候にも協力させてください」
「ありがたい」
「ところで、王子……じゃなく、ヴィーラント公はなぜ同行を?」
「まあ、僕とナギは友達だからね。僕もナギについてエストールに行くと思うからその時はよろしく」
「「え゛」」
「なんだい?いやなのかい?」
「いえ、あの、我々というよりも、ディースブルグ候がエッゲルト公あたりから睨まれる様な気がするのですが……」
「その時は僕が相手しておくから」
「ただでさえ、シュヴラン領のおかげで税収が跳ね上がりそうだというのに、この上王子という発言力を得ると……」
「いや、もう継承権ないし……」
「そんなこと関係ありませんよ。軍系の貴族、特にギルベルト候なんかは何とかしてルイテル様に取り入ろうと必死なんですから」
「まあ、それについてもこっちで気を付けておくよ。しかし、僕なんかに取り入ってもどうにもならないと思うけどね」
「ルイテルは自分の影響力を考えた方がいい」
「君がそれを言うかい?まあ、いいや。今日のところは帰ろうか」
「そうだな。それでは、ディースブルグ候、オイレンブルグ候。今日のところは失礼します」
「今日はどこへお泊りで?車で送りましょうか?」
「大丈夫です。少し王都を見て回りながら帰りますので」
「じゃあ、僕もついていこう」
「あの、ヴィーラント公。護衛は……」
「ナギがいるじゃないか。竜でも出ない限りは大丈夫だよ」
「一応、護衛される側だと思うんだけどなぁ……」
「僕も即席で剣を作ってくれればそれで戦うさ」
「王子を前衛に置くという判断は普通しないんだよなぁ」
「でも君、前衛タイプじゃないだろう?」
「ええ。錬金術師ですから」
ナギとルイテルが話しながら部屋を出ていくのを見送ったのち、ディースブルグ候がつぶやく。
「……オイレンブルグ候。シュヴラン伯は想定のはるか上を行く大物かもしれないな」
「彼に見捨てられたらオールディス半島の未来はないだろうな。くっ、やはり、我が州に来てもらいたかった」
「しばらくは残りの領域の開拓もある。ザンドラ湖東岸・アーダ海側はお前に任せるつもりだ。ゆっくり取り組んでいけばいいさ」
「……ああ。陛下からアーダ海側まで開拓が終われば海軍基地を設置するというお話も戴いているしな」
◆
「さて、これでしばらく貴族と話はしないで済むよな?」
「そうだね。普通の宿にでも泊まってたらここから今日接触できなかった伯爵以下の貴族が押し寄せるだろうけど、さすがにうちの屋敷に来ることはないだろう」
「じゃあ、戻ってルイテルの屋敷を魔改造するか」
「僕は普段使わないから好きにしてくれていいよ。一緒に住んでもいいけど流石にそれは文句言われるだろうしね。あ、でも、僕の部屋は確保しておいてくれないかい?帝都にいるときにたまに泊まりに行くし」
「了解。ペトラと隣り合うように確保しておくよ」
ルイテルとともに市場を冷やかしてから屋敷に戻ると、時刻は18時前になっていた。
帰ってくるのが遅いとクレハに文句を言われながら食堂へと入る。
「さて、じゃあ、全員そろったことだし、食事にしましょうか」
「用意してくれたのか。クレハ、シャノン、ありがとう」
「ふむ、見事な出来だね。見慣れない料理の方が多いけど」
「私も手伝いました!」
「そうか、リュディ。ありがとう。しかし、この人数の量は大変だっただろう」
「逆に楽しかったわ」
「そうですね。まあ、パンドラさんもエレノラさんも多少はできるようですし、これから鍛えていきます」
「……え、私は食べる専門でいいのに」
「私は少し練習しないとダメかな?どう?アーリック」
「多少できてくれた方がオレは嬉しい」
「なら、きちんと教わってみようかしら」
「そういや、キーリーは?」
「アイヴィーと一緒にあなたの作ったキッチン用品の最終チェックをしてるわ」
「そんなの渡してあったっけ?」
「図面だけ預かってたわよ。アイヴィーが速攻で機巧式引いてキーリーが設置と調整をしているわ」
「いいコンビネーションだ。屋敷の改造は明日から取り掛かるから」
「お、ナギ兄。かえってたん?じゃあ、夕飯にしよう」
「お帰りなさいませ、ナギさん」
キーリーがアイヴィーを押しながら厨房の方から現れる。
「ところでペトラは何をしていたんだい?」
「えっと、お恥ずかしい話ですが、私、料理は全くで」
「包丁も握れないとはね」
「まあ、食べようぜ」
テーブルの上に並んだイタリア風のコース料理――に擬態したなにか。
やたらと肉料理が多いのはなぜだろうか。
「お肉……!」
エレノラが目を輝かせている。
「教会にいると肉は制限されますからね……」
パンドラも目を輝かせている。
「いやぁ、使用人を紹介しようかと思ったけど、これならいらないね」
「うーん、いても構わないけど、できれば嫁さんの手料理が食べたいかなぁ」
「ご安心ください、ナギ様。何時でも私がおつくりしますので」
「シャノン、何抜け駆けしてるの?」
「そうですよ。ダメですよ」
「うわ、ナギ兄も大変やなコレ」
「「「何か言った?」」」
「ナンデモゴザイマセン」
「エレノラ……さん?料理取りましょうか?」
「リュディ、そんなに年も変わらないし呼び捨てで構わない。あとお肉を取って」
「さすがに呼び捨ては、じゃあ、エレノラちゃん?」
「……なんかくすぐったい」
「ふむ、これも美味いな」
「そうねぇ。食べ過ぎたら太るから気を付けないと……」
「魔物狩りでもして運動すればいい。魔力も使えばエネルギーを消費する」
「なるほど……でもそれって余計におなかすくんじゃないかしら」
「……一理あるな」
「アーリック、ワイン飲むか?」
「いただこう」
「ナギ、僕ももらっていいかい?」
「ああ。共和国で買った安物だけどな」
「まあ、安くても味が良ければなんでもいいよ」
「そうだな」
「ナギ、私にも」
「おっけー」
クレハのグラスにワインを注ぐ。
ルイテルはワイングラスが珍しいのか中のワインを揺らしながら眺めている。
「見事な造形だね」
「ルイテル様。大丈夫ですか?」
「ああ、毒とかはないよ」
「そうではなく……帰りの車を手配しましょうか?」
「いや、いいよ。ナギ、僕ら泊まっても大丈夫だよね?」
「もともとルイテルの屋敷なんだから許可をとる必要はないだろう?」
「ほら、ペトラ。問題ないよ」
「あの、私も泊まるんです?お父様にどう説明すれば……」




