#scene03-25
◆
再び統括ギルドまで移動する。
ドアを開けたナギたちの顔を見て、受付がざわつき始めるが、その後ろから入って来たルイテルの顔を見て全員が硬直する。
「……まあ、こうなるよな」
「普通はね」
クレハが婚姻届けを出してもらい、シャノンとアイヴィーがそれにサインをしている間、ナギはルイテルとともにギルド加入の手続きをしている。
リュディ・アーリック・パンドラ・エレノラ・キーリーは外で適当に昼食の調達をしている。
「じゃあ、あとは皇子とペトラさんのサインだけなんだけど」
「いいね、こういうの。なんだかわくわくしてきた」
「……本当に入るんですか?」
「入るよ?」
「オレが言うのもなんだけど、もうちょっとまとものギルドの方がよくない?」
「あ、それあなたが言っちゃうんですね……」
「んー……まあ、そうなんだろうけど、別に狩りとか傭兵とかがしたいわけじゃないしねぇ。車の中で方針聞いたけど、まあ、退屈しなさそうだし良いかなって」
「絶対弟に怒られるぞお前」
「その時はその時さ」
さっさとサインをして手数料を払うルイテル。
それに慌てて続くペトラ。
しばらくして、貴族用のカードとギルドカードが返還される。
「こんなに簡単に手続き終わるものなんだね」
「まあ、後のことはギルドの内部でやることだし、統括がするのはリスト管理だけだな」
「なるほど、じゃあ、改めてよろしく、ナギ」
「ああ、よろしく、ルイテル」
「じゃあ、僕の皇子としての最後の仕事をしようかな。行こうか」
「皇帝陛下の前に出るならそれなりにちゃんとした服を着た方がいいのか?」
「制服ならそれでいいと思うよ。そんな上等な生地、僕でも初めて見たぐらいだ。何でできてるんだい?」
「エクトル鋼糸だよ」
「……それってもしかして鋼の鎧より硬いんじゃ?」
「そうだな、魔法も弾くし」
「……ルイテル様、この人性格はあれですけどとんでもないですね」
「だね」
「性格があれとかいうなよ、自覚してんだから――クレハ、そっちは?」
「終わってるわよ」
「じゃあ、キーリーたち拾って城に乗り込むぞ」
「装備は?」
「もちろんフル装備で」
◆
数分後、ルイテル・ペトラの後ろには、異色の黒系の装備を付けた人間が立っていた。
前衛職のクレハとアーリックは見える位置に剣を差している。
「これ、僕がクーデター興しに来たって言われても否定できないね」
「クレハ、帝都落とすとしたら何分かかる?」
「100分あればできるんじゃない?」
「どうする?やるか?」
「いや、やらないよ?」
そういうとルイテルは門に立つ警備に話をつけて、中へと招いてくれる。
帝都の白は広大な広さを持つが、最奥以外は行政機関となっており、用があれば一般人でも入ることが出来る。
奥に行けば貴族用のエリアとなっており、ここにはパーティーようのホールなどもある。さらにその奥、近衛兵が立つエリアは一部の貴族と皇族しか入ることのできない場所である。
「へぇ……こうなってるのか?」
「ナギ兄、なんか見えてるん?」
「侵入者除けのトラップとかは見えるけど……あ、ここに抜け穴が」
「あの、ルイテル様。機密がダダ漏れなんですけど……」
「仕方ないね」
「やはり、こんな奥のエリアまで来なくてもよかったのでは?」
「僕も知らないような面白いものが見つかるかもしれないでしょ?――ということで、ナギ。何かあったかい?」
「そこの通路を使用したら、強制的に向こうの方にある強い魔力を放つ何かが、地下に射出されて、下で脱出者と合流するようになってる」
「緊急時でもアーティファクトは持ち出せるようにしているのか……」
「皇族でも知らなかった秘密が……」
ペトラが愕然としているが、ルイテルは特に構わず、正面の扉を開いた。
そこには玉座が用意され、冠を頭に乗せた若き皇帝が座っていた。
脇には宰相が立ち、部屋の中にはさらに数人の貴族たちが立っている。
その中でも大物といえば、先代の盟友である北部のエッゲルト公爵、公国と法国に対して睨みを利かせている南部のザイフェルト公爵。
そして最近侯爵家へと陛爵されたディースブルグ侯爵とオイレンブルグ侯爵。この二人は帝国東部オールディス半島の開拓に尽力したため陛爵となりその地に領地を与えられている。
「やあ、ライズ。連れてきたよ」
「……兄上――ではなく、ヴィーラント公。その扉は基本的に自分で開ける様なものではないのですが」
「今は王族でもないし、さっさと済ませたかったからね。偶然いたから立ち合いを頼んだけれど、エッゲルト公もザイフェルト公も暇ではないんだから」
後方にペトラと他の面子を残してルイテルとナギは前に進む。
「では、この方が?」
「ああ、アウグスト・シュヴランの後継者、ナギ・C・シュヴラン男爵だよ」
「お初にお目に掛かります、陛下」
「後ろの者たちは?」
「彼――いや、僕らの仲間だよ。ねえ、ナギ」
「そうですね」
「どうしたんだい、緊張してるのかい?」
「いや、ルイテルだけならまだしも、皇帝陛下やその他貴族様に失礼をするわけにはね」
「そこで早速僕を省くのが君らしいよね」
「……どうして兄上はすぐそうやって誰でも仲良くなるのだ」
「そんなことはいいさ。さっさと手続きと仕事の話をしようじゃないか。バルテン公がいないのは残念だけど」
「はぁ……まったく、兄上は。――宰相」
「はい。それでは、オーシプでの亜竜討伐の協力、オーシプでの駐在軍行動権の拡大、王国からのアーダ海での利権の承認、イネス王国との停戦合意、前イネス王国軍盗伐、法国国境での亜竜の盗伐、イグナート山脈鉱山利権獲得――以上の功績から、翠玉勲章1つ、蒼玉勲章2つ、紅玉勲章2つ、黄玉勲章2つ、ヴァルデマル帝国伯爵位と領地としてクニス州エストール、さらに報奨金として聖貨30000枚――3億Eを与えるものとする」
「……ありがたく」
「まあ、新領地設置にしては少し報奨が少ない気もするけど」
「それは別途で支給します。ディースブルグ候とオイレンブルグ候からもいくらか出資してもらう予定ですから」
「なるほどね」
「伯爵位は今この瞬間から適用される。貴族証も新規発行する。これを城に持って来れば年一回年金が支払われる。伯爵だと、年間聖貨1枚。勲章7つの分も合わせると年間聖貨4.5枚だ。領地の方はこれから手続きを行うため半月ほど待ってもらいたい」
「承知しました」
「それでは報奨の話は終了として、次に仕事の依頼をしたい」
「構いませんよ」
話しが切り替わり、4人の貴族の顔もぐっと真剣なものになる。
そして、一番の重鎮・エッゲルト公が紙を広げながら口を開く。
「貴君がヴィーラント公に渡したこの鉄道路線図だが、これにはどういう意図がある?」
「それなんですが、書き直したのでこっちを見てくれませんか」
「いつの間に……」
取り出した用紙を人数分に増やし、ルイテルに手渡す。
それを受け取ったエッゲルト公の眉が動く。
「……これは」
「クロヴィス大陸鉄道路線図です。やるとすれば統括ギルドを巻き込まなければいけませんが、列車の規格をこちらで決めてしまえば、安定して帝国に利益が入るでしょうね」
「なるほど……しかし、これをなすにはまず」
「帝国内での安定稼働が必須ですね。鉄鋼の技術は他のどの国よりも帝国が高いです。精密な線路を作ることや列車に必要な機械を作ることはできるでしょう。問題は、」
「機巧式エンジン、だね」
「はい。一般乗用車では現在使われているもので十分ですが、大量の貨物輸送や高速輸送を実現するには馬力が足りません」
「ヴィーラント公の話では貴君にはそれを作る技術があると?」
「ええ、作れますが、私一人が作れるだけではどうしようもないですね」
「確かに。必要となるであろう鉄の備蓄は進んでいるが、国外へ国力を見せつけるためにも素早く完成させる必要がある」
「まずは、私が機巧式エンジンの量産体制を整えます。ご安心ください、伝手はありますから」
「伝手とは?」
「シャノン」
「はい。ナギ様」
「お爺様――アーケイン・レヴェリッジ殿に場所は用意できたので、ヴァルデマル帝国クニス州エストールへの移転をお願いしてくれ。近いうちに迎えに行くと」
「終わりましたら、すぐに」
「機巧装置に関してはレヴェリッジに勝る者はいませんから。彼らならすぐに量産体制を整えてくれるでしょう」
「……なるほど。面白いな若造」
「光栄です。陛下、鉄道に取り掛かる際は、ゲアラッハとダンツィを結ぶ東西線、ペルシュ-ヴェンツェル-グーラを結ぶ南北線、ハイン-ディンガー-エストールを結ぶオールディス支線を優先して作らせてもらいたいのですが」
「理由は?」
「国内に線路を引くための物流を確保するためと、陛下が懸念されているオールディス半島の開発を加速させるためです」
「許可する。エッゲルト公、ザイフェルト公、それにディースブルグ候とオイレンブルグ候も構わないか?」
「私は構いません」「私も」
「私も構わない、が、ザイフェルト公はどうだ?」
「……我が領地では自動車の生産を行っているのだが」
「わかりました。自動車はしばらく生産しないことにします」
「列車の本体をうちで生産するのは不可能だろうか?」
「交通網が整えば不可能ではないと思いますが、どう考えてもメリットはあまりないですね」
「……やはり、そうか」
「第二期の線路の設置に入ったころにまた相談させてください。そのころにはエストールは中心から遠いですから、エンジンをそちらに送ってそちらで組み立ててもらう方がコストがかからなくなるでしょう」
「わかった。ならば、組み立ての部分だけでいい、うちから10名ほど職人を参加させる事はこのうだろうか」
「はい。わかりました」
「それならば、私も文句はない」
「では、そのように。あとは頼んでよいか、宰相」
「お任せを」
「では、」




