#scene03-23
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ダールベルクの門をくぐり、町の中へと入る。
他の国ではこのように街中を四輪自動車が走っている風景など見たことはなかったが、この街では違った。
道は特殊な石畳でできており、歩道と車道が確保されている。
「これはすごいな」
「確かに、大陸一発展している街だな」
「道路と一緒に本当は鉄道を通すための計画もしているんだけど、優秀な技術者が捕まらなくてね」
「軍用の物は整備されているんだろう?」
「良く知っているね。ダールベルクとペルシュを繋ぐだけの短い線だけど試験運用はしているよ。でもまだ効率的とは言えないかな」
「見た感じ帝国で作られている機巧エンジンでは馬力が足りないんだろうな。とりあえず国内から線路を引いて行って……」
ナギが帝国地図を取り出すと、ペンで赤い線を引いていく。
「とりあえず、こんなものか?各地に行けるように結べば貴族から融資も得られるだろう。あとは、鉄道専属で警備隊つけて、輸送の安全性を向上させるか。そうすれば作物の大量輸送や生鮮食品を痛む前に届けられる」
「なるほど……これは面白い。肝心のエンジンは?」
「土地をくれたら量産体制は整う。後は線路の規格とかを調整しないとだな」
「……もしかしてシュヴラン男爵を引き込めばこの計画完成するのではないですか?」
「奇遇だね、ペトラ。僕もそう考えてた。ナギ。明日あたり弟に相談してみるよ」
「いや、別にやるとは言ってない……」
「ちょうど陛爵の話もあったし」
「なぜ?」
「亜竜二頭の盗伐、オーシプでの政治的利益、アーダ海の利権獲得、イネス王国との停戦合意。まあ、確実に上がるよね」
「それは殆ど交渉を行った文官と女王陛下のおかげでは」
「土地を与えるなら領地を与えて縛った方が国に利益が出るし、税金も取れるし」
「飼い殺しかよ」
「あとは新たに開拓した東部・オールディス半島側の開拓が遅れてるからね。そこの発展のためにも中央や西部とつながないと」
「そう言えば、そんなことが」
「まあ、今日は遅いから僕の屋敷に泊まっていくといい」
「いいのか?」
「ああ、使ってない屋敷があるからそこを使ってくれ。使用人はいないけど掃除はされてると思う。まあ、好きにしてくれていいよ」
「ありがたくお借りする」
返事をしたタイミングで車が停車する。
「明日の昼頃に迎えに来るよ、たぶん。どこか行く予定はあるかい?」
「いや、行ったとしてもギルドぐらいだろう。せっかく屋敷を借りたことだし、宿代代わりに魔改造でもしておくよ」
「ほう、ここは貴族外でも端にあるからあまり使ってなかったんだけど、そういわれるとちょっと住みたくなるね」
「流石に住むのは……」
「僕としては早々に王都から出ていきたいんだけど。ここにいると余計な貴族たちが絡んでくるからね」
「大変だな、王子様も」
「だろう?じゃあ、また明日……そうだね13時とかそのあたりに」
「了解した」
リムジンが去っていくのを見送った後、渡された見取り図と鍵束を確認する。
「寝室は二階だな。大浴場もあるが今日はどうにもならんだろうな。簡単な風呂とトイレならば全室についてる。さすが貴族の屋敷だ。今日は早々に休むか」
「う、こんなお屋敷で寝れるかな……緊張する」
「それではリュディは私と一緒に寝ましょう」
「いいの?お姉ちゃん」
「いいですよ」
軽く食事をしたのち、各々すぐに就寝することになる。
何やかんやでここまでの旅が疲れていたのであろう。幸いベッドなどはすぐに使える様な状態であった。
そして、翌朝。
ナギが起床し、廊下に出るとアイヴィーの使っていた部屋の扉がゆっくり開くのが見えた。
「おはよう、アイヴィー」
「おはようございます。すいませんが、階段を下りるの手伝ってくれますか?」
「ああ、もちろんいいよ。車いすでも上り下りできるようにしないとな。昇降機でも作るか」
アイヴィーを抱えて階段を下り、食堂へと入るとシャノンが朝食の準備をしてくれていた。
「おはよう、シャノン」
「おはようございます、ナギ様。今日はギルドに行くんでしたよね?」
「ああ、いろいろ手続きが残っているしな」
シャノンの入れたコーヒーを口に含む。
そうしている間にシャノンの手伝いをしていたリュディが朝食を並べてくれる。
「朝ごはんの材料を買いに出たときに少し見ましたけど、すごいんですね帝都って」
「ああ、これほど整備が整った街は珍しいな。しかし、ここに線路を引くのは難しいだろうな……」
「そうですね。すでにしっかり区画割されてますし」
「まあ、また考えてみる必要があるな」
朝食を食べ終わったころに起きてきたパンドラ、早朝から剣を振りシャワーを浴びた後のアーリックが合流した頃には11時ごろになっていた。
そこから全員そろって帝都の“剣と車輪”へと向かった。
それなりに混雑しており、少し待たされた。
そして、パンドラの加入手続きやギルドへの報酬の受け取り、婚姻届けの確認を行い、ナギが受付を去ろうとした直後、音速に近い速度で人影が飛来し、ナギを吹き飛ばした。
「ぅえ!??」
「ナギ様!?」
「なんだ!?」「敵襲!?」
アーリックとパンドラが武器を構える。
「結婚して半月で浮気とはいい度胸ね、ナギ」
「いやいや、お前。オレじゃなかったら死んでるぞ!」
「クレハ、流石にそれはどうかと思うで」
「というかさっきので死なないの?」
派手に吹き飛んだはずのナギは無傷。
アーリックとパンドラは依然として殺気を放ち、シャノンも武器を手に取れるようにしている。
リュディはアイヴィーに言われて共に少し下がっている。
一触即発の雰囲気でギルド内は凍り付いている。
「まあ、いいわ。久しぶりね、ナギ」
「ああ、うん。出会い頭にドロップキックはやめような、クレハ」
「ナギ兄、大丈夫?生きてる?」
「辛うじてな。キーリー、久しぶりだな」
「いやー、兄さんがいるって聞かされたときはびっくりやったけどな」
「だろうな。オレもびっくりした。アーリック、パンドラ、警戒解いていいぞ」
「大丈夫なの?」
「見えなかったぞ……」
「こいつは、俺の嫁だ。あと妹。それと……誰だ?」
「新メンバーのエレノラ・ソランジュ・ザヴィアーです」
「そうか、よろしく」
「軽すぎん?」
「クレハが選んできたならはずれはないだろう」
「すごい信頼感やな」
「出会い頭にドロップキックされる程度のな」
「次からサマーソルトにするわね」
「ごめんて」
「まったく、とりあえず説明してくれるわよね?」
「いったん屋敷に戻ろう。これいじょう騒ぎを大きくしたくないし」
ナギがシャノンの手を借りて立ち上がる。
するとクレハはナギの手を引いて先に外へ出ていく。
「……あれがクレハ様ですか」
「シャノンさん、あれで第2夫人とかいってたら私たち殺されませんか?」
「そこまではされないとは思いますが、ナギ様はボコボコにされるでしょうね」
「とにかくいったん戻りましょう、大急ぎで」
「……やはり浮気はダメだな」
「浮気というよりはナギさんが一方的に食われてただけにも見えるけれど……でも、まあ、浮気したら私もドロップキックぐらいするかもしれない」
「……気を付けよう」
「是非そうして」
「いやぁ、まさかいきなり飛び蹴りするとは」
「クレハも寂しかったんじゃないの?」
「あのクレハが?びっくりやわ」
「というか屋敷とか言ってなかった?」
「そう言えばそうやな。買うたんやろか?」
「……もしかしてすごいお金持ち?」
「さあ?その辺は聞いてみないとうちにもわからん」




