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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#03 黒の勇士編
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#scene03-22



わずかな時間でボロボロになった平原を歩きナギとシャノンは頭のなくなった竜のもとへとたどり着いた。アイヴィーも来たがっていたが、流石にこの足場で車いすは無理だった。


「本当に威力絞ったんですか?」

「絞ってなかったらここら一帯焼け野原になってるはず」

「もう慣れましたけど、4S級の魔法なんて撃って魔力枯渇しないんですか?」

「まあ、基本は機巧装置だよりだし、魔力だけは有り余ってるからな……おっと、牙とかは無理そうだけど、それなりに素材が取れるな」

「アーリックとパンドラがワイバーンの残骸を拾いに行ってますから結構な量の素材になりますね」

「前の亜竜は呪いがきつすぎて使い物にならなかったからな……」


ナギは竜の腹を裂くと、心臓部分から巨大な青い塊を取り出した。


「かなり長生きだったみたいだな」

「こんなサイズの魔石塊(ブロック)を見たのは初めてです」

「これでまた良い装備が作れるようになる。特に竜の鱗は嬉しい」

「国にいくらか納めないんでいいですか?」

「いいだろう。帝国としては短期間に亜竜を二体も仕留めている功績が出来たわけだし」


竜の死体をしっかり収納し終えたナギは元来た道を引き返す。

シャノンと二人で関所付近まで戻ったころにはアーリックたちがワイバーンの残骸や兵の装備などを集め終えていた。

どうやらルイテルが兵士たちに手伝わせたらしい。


「ああ、戻ってきたね。どうだった?」

「かなりいい塊が取れたよ。で、なんでわざわざ手伝ってくれたんだ?」

「まあ、こいつらを生かしたままおいておいても盗賊が増えて面倒なだけだしね。捉えて処分か交渉に使うとしよう。王国からは“犯罪者”という扱いで指名手配が来てるし、こいつらを証拠に法国をを脅すのにも使える」

「おー、お前様は案外えげつないこと考え得てるんだなぁ」


そういいながらナギは剣や鎧、ワイバーンの装備の山を一気に錬成した。


「これに含まれてたエクトル鋼は……そう多くないけどまあ、剣10振りは作れるぐらいはあるだろう。これは国に納めておこう」

「了解した。受け取っておくよ。これだけの量があれば相当な額にもなるしね」


ナギが用意したエクトル鋼のインゴットの山をルイテルの部下たちが運ぶ。

そのインゴットにはシュヴラン男爵家の秤の紋章と王家の紋章である不死鳥が刻まれている。


「意外と芸が細かいね」

「まあ、これでいいように誤解してくれれば儲けものってぐらいですけどね」

「それを僕に言っちゃだめだとは思うよ。さて、これからどうするんだい?」

「とりあえず、嫁さんと合流するために帝都に向かいますが」

「そうか、じゃあ、僕の車で送ろうか?少し話もしてみたいし」

「車、車か……やっぱり車創らないとダメか……」

「作れるのかい?あれは帝国の機巧術師たちが死に物狂いで開発した機巧エンジンを使っていると思うんだけど」

「残念だけど、義父とは違って私は機巧術に強いんです」

「なんだかそんな気はしてたよ」

「それに、今は優秀なエンジニアもいますし」

「えんじにあ?」


素材を回収し終えたシャノン達が合流したのを確認して、ナギは帝国への入国手続きをするべく関所へと向かった。


「ここを抜けて少し行くとルッツの町に着く」

「ヴァルデマル帝国ゲアノート州ルッツ市か……特に見るものもないし通過かな」

「今からだと危険じゃないかい?」

「まあ、車で行くならそう時間はかからないでしょう」

「ああ、結局乗ってくれるんだね」

「でもまあ、ここで一端車を作ってみるのも一興」

「へ?」

「ナギ様、工房を立ててからの方がよいのでは?(祖父と量産体制を確保してからというのも)」

「あー、それもそうだな……」


「ルイテル様、車の用意が出来ましたが、どうしますか?予定通りシュトフェルへ?」

「伯父上のところに行くのもいいんだけど、今日はダールベルクに帰るよ」

「わかりました」

「というか全員乗れるのか?」

「大丈夫だよ10人乗りだから」

「今何人いたっけ?」

「6人です」

「……オーシプ出たときは1人だったのに増えたものだ。シャノン、あとで昏き星夜に帝国に入ったって連絡しておいてくれ」

「わかりました」

「さて、皆。ルイテル王子が王都まで送ってくれるらしい」

「ええ?大丈夫なんですか?」

「どうなってるの、アーリック」「オレにもわからん」

「私はどうしましょう」

「アイヴィーはオレが運ぶ。気にするな」


リムジン型の車がすぐ近くに停まる。


「さ、乗って。聞きたいことがいくつかあるし」

「それは私の悪事についてでしょうか」

「シュヴラン男爵、貴方、いったい何をしてきたんですか?」


ルイテルのとなりのペトラに怪訝な目で見られながらナギはアイヴィーを抱え上げ、車へと向かった。


先に乗り込んだルイテルとペトラの向かいに座ったナギとアイヴィー。

ナギの反対側には連絡を終えたシャノンがすっと現れ、当然のように座った。そしてアイヴィーへと敵対視線を送っている。


「……なんだか、君も大変だね。その気持ちはわかるけど」

「あー……うん。それだけ顔と家柄良ければオレより――じゃないや、私より苦労しているでしょうね」

「もう敬語あきらめてもいいよ?」

「そうか?でも、隣の補佐官殿が許してくれるかどうか」

「私はルイテル様の意向に従いますので」

「相変わらずペトラは固いなぁ。付き合いも長いんだし、ペトラこそもっとフランクでいいのに」

「ルイテル様が緩すぎるんですよ」

「そうかな?仕事はまじめにやってるよ?といっても、もう継承権放棄したんだから放っておいてほしいんだけどね」

「ああ、そういえば何で継承権放棄したんです?」

「まあ、弟も普通に優秀だったし、そもそも内政は弟の方が強かったんだ。僕はこれでも側室腹でね」

「なるほど」

「あとは、弟の方がアーティファクトへの適性が高かった」

「アーティファクト?」

「そう、アーティファクト。有名なところでいうと、みんなが持ってるギルドカードや身分証は元々アーティファクトだったものだ。解析して広く使えるようにして今に至る」

「それは聞いたことがある。ギルドカードは確か、奇跡の盤上スペス・ディゼイディス……カミナ家が所有しているはずだ。爺様の研究ノートに解析結果が載ってた。それと、機巧装置の原型である力ある者(アニモス・イラ)も」

「なるほど、アウグスト翁が共和国に住んでいたのはそのあたりを学ぶためでもあったのかな?」

「さあ?今となってはわからないけど、義妹が爺様の研究ノートを受け継いでるはずだ」

「ほう、それは興味深いね。機巧術には特に詳しくないけど、伝説の賢者の手稿となると一度見てみたい」

「なら、発見したら連絡するから見に来るといい」

「ありがたい」

「ルイテル様、一応帝国の男爵ですが、そういった話を軽々しく決められては」

「大丈夫さ、もう王族じゃないしね」

「そうはいっても公爵家ですよ」

「そうなんだよね、公爵家といわれても領地は断ったし……ああ、でも」

「帝国は巨大だけどまだ若い国だから。公爵家はルイテル王子含めて6家しかないし――これは、結婚の申し込みがすごそうだな」

「貴族家ですし、領地はないにしても爵位が継げるならその価値は大きいですね」


ナギの他人ごとではない、という呟きにシャノンが同意する。


「継承権を捨ててもこれは離れないんだよね。あと、もう、面倒だからルイテルでいいよ。歳もそう変わらないでだろう?」

「ああ、うん。21だね。最年長はアーリックか?」

「そうか、私は25だ」

「僕が24だね。同年代の友達がほとんどいないからね、僕には。こうやって話せる機会も珍しいよ」

「それはルイテル様が私以外ほとんど近づけなかった――というよりは、仲良くなっても全部弟様のサポートに充てていたからでは」

「まあ、そのおかげで僕は王にならなくて済んだんだけどね。まあ、そういう事だから、良ければ友達になってくれ」

「拒否する理由はないけど、拒否できる立場でもないんだよな」

「ははは、そうだね。というか、ナギはわかるけどシャノンとアーリックが貴族と話し慣れているように思えるのは?」

「私の場合は、前の仕事でそういった付き合いが多少ありまして」

「私は実家が王家専属の騎士家だったのでな」

「なるほど……で、あとの子たちは固まってると」

「いかにも貴族って感じの奴と付き合いがないんだ。勘弁してやってくれ」

「パンドラは多少慣れていると思ったが」

「いえ、流石にこんなにちゃんとした貴族の方に会ったのは初めてで――法国貴族は須らく下種しかいなかったから……」

「容赦ないな……」


ルイテルの興味の向くままに様々な話をするナギ。

一同を乗せた車はルッツからトリカ、ヴェンツェルを通り、帝国の首都・ダールベルクへと向かった。


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