#scene03-17
聖騎士たちを無視したとしても、この父親であろう男、商人Lv.6とはかなりのやり手だ。道理で金のにおいに敏感なわけである。
「そちらの奥様、足がよろしくないようですな」
「生まれた時からのものです。治るとは思っていません。優れた術師である旦那様ではも治すことはできませんでしたから」
奥様、と誤解を受けたが特に気にすることもなく、むしろすこし嬉しそうにアイヴィーが演技に入る。中々同に入っていて、やはり商人の血は流れているのだなと思う。
「旦那様がどれほどの術師かはわかりませんが、聖女と呼ばれた我が娘ならば一瞬で治すことができしょう」
「本当にそうであれば、報酬を弾もう、宝石商」
「んな……報酬が約束していただけるのならば、パンドラ」
「はぁ……わかりました、お父様」
パンドラと呼ばれた聖女が術式を展開する。それをすぐ読み取ったナギが口を開く。
「聖治癒か。残念ながら、その程度の魔法では、妻の足を治すことはできない」
「旦那様の神与治癒が効かなかったのですからそれより下位の術式では何の意味もないでしょうね」
「ふむ、法国の聖女とはいえ、この程度か」
「所詮は金儲けのための偶像でしょう」
全くその通りなので何も言い返せず歯を食いしばる聖女と、憤慨で顔を真っ赤にする父親と聖騎士。もっとも、レベルの高いほうの聖騎士はため息をついているが。
「な、な、パンドラよりも優れた聖術を使うものなど!」
「そうだ、教会が認めた聖女様を愚弄するか!」
「昨今は敬虔な信徒も減ってきて教会も財政難なのだろう」
そういうとナギは機巧装置をとりだす。
聖騎士二人が身構える中、ためらうことなく術式を展開。描かれた巨大な術式陣から金色の雨が周囲の人々に降り注ぐ。
「SS級広域治癒魔法天恵輝雨だ。聖女を名乗るなら、これだけの病人ぐらい無料で治してやることだ、守銭奴ども」
今まで苦しそうな声をあげながらも、家族に支えらえて聖女に懇願していた病人やけが人たちが、一斉にその苦しみから解放され歓声を上げる。
聖女はというと、その声を聴いて悔しそうな表情を浮かべるも、どこか安心したような顔をしている。
「聖術師パンドラ・カステレード。オレたちと来ないか?なんかうちの剣士が君に惚れてしまったようでな」
「!?」「!?」
アーリックがナギの方を振り向く。
「おい!」
「気づいてないと思っていたのか?」
「……そんなにわかりやすかったか?」
「ああ」
突然、そんなことを言われたパンドラも驚きの表情を浮かべながらも、顔を赤く染めている。
「……脈ありかもしれませんね」
「なんでだ?」
「女の子は自分の檻を砕いてでも手を取ってくれる殿方を待っているものですよ、ナギさん」
「この場合は、アーリックでいいのか?まあ、いいか」
「そうです。すでに妻ならば3人いるではないですか」
「今自分を含めただろう」
「蛮族ごときが、聖女様に惚れたなどとふざけたことを!」
「そうだ!オランド殿、お任せしましたぞ!」
「ええ、お任せください、義父上」
どうやら、彼の頭の中ではパンドラを嫁にもらうことが確定しているらしい。父親の方も相手が聖騎士ならまんざらでもないのだろう。まあ、当の娘は嫌そうな顔をしているが。
この若い聖騎士はLv.6。一般的に見ればかなり強い分類に当たるだろう。
だが、強いのはもう一人の聖騎士だ。こちらも渋々といった形で剣を抜いた。名をフィルマン・バズレール。Lv.9の聖騎士だ。こちらならばアーリックでもかなり苦戦するだろうが、こちらが相手ではないようなので問題ない。
「ナギ」
「好きにやれよ。抜いたは向こうが先だ。ただ、この期に及んでフラれたりしたら流石に怒る」
「何としてでも彼女を手に入れる」
「その意気だ」
「あの、旦那様。私は」
「もう、その演技辞めていいぞ。まあ、向こうも動く気ないし待機かな」
その向こうの聖騎士に目配せしたところ、向こうも軽く頷いた。
だが、形式上にらみ合いは続ける。
聖騎士の剣は細身の剣。表面にエクトル鋼で加工してあるため、かなりの業物であることがうかがえるが、アーリックの剣は総エクトル鋼で、重さもかなりある。
当然打ち合えば、
「な!?」
力の弱いほうが砕ける。
剣を砕かれ呆然としているところに、アーリックの下段からの斬撃が入り、オランドと呼ばれていた騎士の鎧を易々と切り裂くどころか、一撃で重傷を負わせる。
「ナギ、思ったより弱いぞ」
「当たり前だ、強いのとやりたいならもう一人の方だな」
そういって視線を送るとフィルマンは小さく顔を横に振った。
「……おのれ、卑怯な」
「いや、単純な実力差だろ……」
この発言に関してはフィルマンもはっきり首を縦に振り同意の意を示した。
血を流しながら立ち上がったオランド。父親は彼を治すように娘に命じ、娘もそれに従って治療をする。
だが、立ち上がったところで何をするというのか。
「どうするんでしょう」
「さあ?まさか、こぶしで勝負を挑むとか?」
そのまさかだった。
殴りかかったオランドはそのこぶしを簡単にとられ、アーリックの怪力で握りつぶされた。
骨の砕ける嫌な音が静かになってきた大通りに響く。
「うわぁ」「あーあ……」
ナギとフィルマンが同時に声を出し、同時に視線をそらした。
悲鳴を上げるオランドの腹に一発叩き込んで気絶させたアーリックは血塗れの手を彼女の前に差し出した。
「良ければ、嫁に来てくれないだろうか。ああ、オレはナギと違って嫁は一人しかとる気はない」
「おい、それだとオレが節操無しみたいに聞こえるだろうが」
「――とりあえず、お友達から?」
以外にも度胸のあるその娘はアーリックの手を取る。
「パンドラ!?」
「お父さん、もう、私飽きたの。こんな汚い金稼ぎを手伝わされるの」
すっ、とアーリックの手を引いて父親から離れたパンドラ。
父親が何か言葉を吐き出そうとした瞬間、人ごみから顔を出したオランドとは別の若い聖騎士が声を上げた。
「バズレール卿!緊急事態です旧教派の連中が!」
「おい、立て続けに事件を起こすんじゃ――」
「全員伏せろ!」
フィルマンの言葉が止まった瞬間、ナギが声を張り上げて叫んだ。
唐突のことだったが、ナギ自身がすぐにアイヴィーを抱きしめて倒れこみ、それに従ったアーリックがパンドラを庇いつつ地に伏せた。また、フィルマンもすぐに伏せたために声を聞いた全員続いて地面に伏せた。
次の瞬間、頭あったであろう位置を街の中心部から発せられた強力な光線が薙ぎ払った。
「!?」
「これは、並の魔法じゃないな」
「機巧式による制御を感じないので何か別のものかと……」
「なるほど、さすがはアイヴィーだ。よし、今のうちに逃げるぞ――シャノン、北門で合流だ。行くぞ、アーリック!」
「了解」
「アーリック!……さん」
「呼び捨てで構わない」
すぐに起き上がったアーリックにパンドラは倒れた状態から手を伸ばす。
その手を取って引き上げ、そのままアイヴィーを抱くナギを習ってお姫様抱っこをしたアーリックはナギを追って、一斉に崩れ始めた建物の瓦礫が降り注ぐ街道を駆けていく。
「バズレール卿、聖女様が!?」
「あきらめろ、それより――中央大聖堂だな?」
「はい!古代の至宝である在るべき正義が旧教派に奪われました!」
「それ、俺一人で何とかなるかね……まあ、行くしかないか」
「バズレール殿!娘は!?」
「後にしてくれ。というか、さらわれたというより完全に自分から出ていったぞ、パンドラ嬢。よっぽど嫌だったんだろう」
「!?バズレール卿!オランド卿が!」
「ほっておけ、そいつは自業自得だ。それより大聖堂に行くぞ!」
「え?ええ!?は、はい!」




