#scene03-16
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副都ドローテから首都ティエリーへ向かうには、通常馬車で2日以上かかるものだが、ナギたちにそんなことは関係ない。
機巧二輪で飛ばしていけば2時間ほどで着く。それも、かなり安全運転をした上でだ。
だが、この高速移動に慣れていないアイヴィーには、かなりの負担のようだ。
最初固まっていたリュディはすっかり慣れているようなのでアイヴィーが毒されていくのも時間の問題だろう。
ともあれ、首都直前にて減速、アイヴィーを休ませてから街へと入ることにした。
「ナギ、ティエリーはどうするつもりだ?」
「うーん、元々立ち寄るつもりはなかったからな……通過でも構わないが」
「オレとしてもできるだけ滞在は避けたいところだな。間違いなく騒動が起こる」
「まあ、ヴェルカ人だからなぁ。今は新教派が主力とはいえ、旧教派も少なからずいる」
「新教派にも間違っても好かれているとは言えない状況なのだがな」
「だろうな。まあ、王国での対応は過剰すぎるともいえるが……あの国マジで碌な国じゃなかったな」
「だが、城を吹き飛ばしたのは割と面白かったぞ」
「思考がテロリストになってるぞ」
「ナギ様、アーリック。そろそろ行きましょうか」
「アイヴィーは大丈夫か?」
「大丈夫です」
いくらか落ち着いた様子のアイヴィーが返事をする。
「じゃあ、いくか」
「どういったご予定ですか?」
「少し見ていきたい気もするが、余計な騒動が起こることは確実」
「悪い」
「いや、気にするな。とりあえず、少し街を見たらすぐに出よう。騒動が起きた場合はすぐ逃げる、それで大丈夫か?」
「はい、私もそれで構いません」
「私も」
「私もそれで大丈夫です。シャノンさん、法都ってなにがあるんです?」
「そうですね、歴史ある大教会、とかですかね。東区にある教会には聖魔法に優れた聖女様がいるらしいですよ」
「へぇー……でも、確実に聖女様なんて見れませんよね?」
「そうですね……実際けが人も病人もいませんし」
「聖女様ならアイヴィーさんの足を治せたり?」
「それは無理だと思いますよ。ナギさんが治せないようですから、聖女様でも変わらないでしょう」
「確かに、あの聖の魔宝石ならば聖女と同等かそれ以上の聖魔法を使えると思います」
「ナギさんってすごいんですねぇ」
「それはもう」
なぜか自慢げに頷くシャノンをどうしてあなたが自慢げなのですか、という目で見るアイヴィー。ただし、口に出して言えば完全にここに置いて行かれるので言わない。今、アイヴィーの車いすを押すのはシャノンなのだ。
街道をしばらく進むと、門が見える。
首都警備隊が門の警備に当たっているのが見える。
この国には警備隊と呼ばれる街ごとに配属される兵、国の軍隊、そしてそれらとは別に教会の直属部隊である聖騎士隊が存在する。
聖騎士の強さは相当なもので、一人一人が一流の冒険者(Lv.6程度)の強さを持っている。
ナギたちは門にてギルドカードを渡すと通常通り門をくぐることができたのだが、アーリックが止められた。
「すまない。今、情勢が不安定だからヴェルカ人が街に入るのはお勧めしない」
「大丈夫だ。あれがオレの主人だ」
「主人?ああ、じゃあ、君は護衛かなにかか?」
「そういったものだ」
「じゃあ、大丈夫だろうけど……できるだけ離れないようにね。一人でいると確実に面倒なことになるよ」
忠告に感謝しながらアーリックは先に抜けていたナギたちと合流する。
「やはり引っかかったか」
「問題なさそうか?」
「ああ。ただ、ナギから離れるなと」
「だろうな。まあ、まとまって歩いてればオレが雇った護衛だと勝手に認識するだろう。それより、少し食糧を買いたそう。どかで食事をしてもいいが……」
それなりに賑わっている大通りの店を冷やかしながら進む。
ナギがいろんな店でいろんなものを大量に買っているのが、アイヴィーにはやや不安だったようだ。
「ナギさん、そんなに買って大丈夫ですか?」
「え?ああ、問題ないよ。色々持ってたものを換金したから収支は大幅にプラスだよ」
多少買いたたかれたとしても、盗品なので仕方がないと思いつつは、相場に限りなく近い値段で売りさばいていた。路地裏にいるそういう商人を見つけるのにもこの目は役立つ。
アイヴィーは膝にミトを乗せた状態でリュディに押されているのでナギの行動をのすべてを把握できてはいなかったようだ。
何人かの商人と同様の取引をしたため、ナギの腕輪の中には市場を混乱させることができるほどの金貨や聖貨が入っているのだが、財布のように中がわかるものではないので気づきにくいという点もある。
食料のほかに、消耗品の素材や衣類に使う布、女性用の生理用品などはすべてシャノンに任せている。正直何を買えばいいのかわからないし、こっぱずかしいのでナギは辞退した。
アーリックはアイヴィーとリュディの護衛兼、ナギが大量に買った食材などを一時的に持つという仕事があるため、ナギから離れずについて回っている。
「とりあえず、こんなものか。しかし、なんだ、あの人だかりは」
前方の教会の前にできた人だかり。不思議に思っていると買い物を終えたシャノンが合流し、説明してくれる。
「先ほど言った、聖女が治療を行っている教会ですね。どうやら、そろそろ聖女様が教会からでる時間なので、高額な治療費を払えない一般市民がああやって大挙として押し寄せるというわけです」
「世の中世知辛いな……金がないと治療も受けられないのか」
「ここまでくるということはあるて程度重症患者なのでしょう。金を持ってそうな商人などは声を掛けてもらえるのでしょうけど、普通は無視されますが」
そのとき、集まっていた人々がわっと詰めかける。
教会から聖女と呼ばれている人間が出てきたのだ。
ナギは目を凝らしてその人物を見つめる。
「……なるほど、これは中々」
「強いですか?」
「シャノンほどではないけど、強いね。しかも聖術師だから」
「聖術師、ですか?聖女や治療師、神官などではなく?」
「うん。聖術師。たぶんだけど、回復魔法より戦闘魔法の方が得意だな、あの子」
「ですが、それだけ聖属性に適性があるということは」
「回復聖術もそれなりに使えるということだ。実家は宝石商で教会関係者ではないみたいだけど……まあ、金儲け家のダシにされてるんだろう」
「なんだかシンパシーを感じますね」
「まあ、アイヴィーも家族に金儲けのために利用されてたといえばそうだからな」
そんな話をしていると、聖女と目が合った――実際には、聖女のそばにいた中年の太った男がアイヴィーを見つけた。
「おや、目を付けられましたよ、アイヴィー」
「逃げましょうか?」
「いや、面白そうだから迎え撃つか?アーリック、逃げる準備はしておけよ―――アーリック?」
「!――ああ、すまない。少し呆けていた。逃げる準備はしておく」
アーリックの視線は聖女を捉えている。
これは一目惚れという奴だろうか、たしかに聖女と呼ばれている少女の姿は相当美しいが、ナギの個人的な趣向ではクレハやシャノンのようなクールでしっかりした女性が好みなのもあるが。
「どうしましたか、ナギ様」
「いや、アーリックにはストライクみたいだけど、オレはやっぱりクレハやシャノンのほうが好みだな、と」
「!……ふふ、そうですか?」
「まあ、クレハとシャノンもまたタイプは違うんだけど……あれ、本当にこっちに来たな。リュディ、毛玉持ってシャノンと離れとけ、面倒なことになる」
「わかりました!」
「きゅ!?」
ミトをアイヴィーの膝から回収するとシャノンとともに人ごみに紛れる。
「さて、アーリックがどう動くか」
「私のことはどうするおつもりですか?」
「まあ、逃げるときは抱えて逃げるから安心してくれ」
「でしたらいいですけど」
「ナギ、来たぞ」
「ああ、うん。まあ、どうなるかは相手の出方にもよるかな」
向こうからやってくるのはにやりと嫌な笑いを浮かべる太った男と、嫌そうな顔の聖女。それと護衛の聖騎士が二名。教会としてもかなりの金を受け取っているようだ。強さでいえば最上級であろう聖騎士Lv.9。30手前の年齢にしてこのレベルはすさまじい。




