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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#03 黒の勇士編
71/131

#scene03-12


拘束した貴族たちを城壁に等間隔で設置したナギは、速やかに城門へと走った。

城は外部から見てはっきりわかるほどに変形――というよりも、一定の高さから上が消滅していた。

城門には王子2人が釣り下がっており、城門に掛かっていたはずのイネス王国旗は焼き捨てられ、代わりにナギが置いていった“黒き新月”の旗と紋章は変わらず、今までの“紅”の色ではない“蒼い”旗が掲げられている。


王都市民は歓喜の声を上げ、呆然とする騎士たちをよそに宴の用意が始まっている。

“女王陛下万歳!”の声を誰かが歌えば、その声に応じて同じ声が上がる。


「案外、情報速いものですね」

「ナギ、何かしたのか?」

「ジャックの奴、夜になったらって言ったのに、速攻で持っていきやがったな……」

「あの手紙に書いてあったのか」

「ああ、“愚王を討ち、女王陛下即位”とだけ」

「元々の協力者であるギルドマスターにはそれで十分でしょう。それで、どうしますか?」

「民衆の興味がこっちに向く前に王国を出る」

「了解しました。私は先に戻って2人の準備を手伝ってきます」

「悪いな。アーリック。オレらも急ぐぞ」

「応――と、そういえばさっきから持っているその袋はなんだ?」

「ああ、さっき豚を叩いたら落してな」

「お前は存外手癖が悪いな」

「はは――よく言われる。まあ、法国に入ったら上手い物でも食おう」

「それはいいな」


まとまった量の買い物をして、金を結構落しているので店をやっている者たちからは概ね良い感情を持たれているようで、2人が捕まった時も抗議をしようと飛び出してくれそうになった者もいた。そういった者たちが捕まらないように庶民出の門兵であるゼト呼ばれていた男がとめていたのだが

門を潜る際にゼトとハイタッチを交わし、ついでに手に持っていた袋を投げ渡す。


「その金で、みんなに酒でも奢ってやれよ!おっちゃん!」

「おい、よかったのか?」

「いいんだよ。あれ、一人分だぜ?あそこに何人貴族がいたか覚えてるか?」

「手癖悪すぎるだろう」


そう言いつつも顔は笑っているアーリック。

そのまま真っ直ぐ走り抜けると、街道沿いまでシャノンたちが出てきていた。


「よし、行くか」

「しかし、ここから国境まで1日はかかるぞ?」

「大丈夫だ。シャノン、リュディを頼むな、あと毛玉も」

「了解です」

「アーリックはオレの後ろに、アイヴィーはサイドカーだな」


ナギとシャノンがそれぞれバイクを出し、ナギはアイヴィーを抱えあげる。


「あの、ちょっと!?」

「すぐ降ろすから我慢してくれ」


サイドカーに座らせると、車椅子を収納する。


「面倒だから車作ろうかな、もう」

「自動車ですか?レヴェリッジでも作ってますが、売れ行きはあまり芳しくないですね」

「サイアーズはそこまで大きなものへの取り組みはできていませんね」

「自動四輪車に関しては帝国内の企業が一番かな。さて、アーリックしっかり捕まっててくれよ」

「了解した」


魔法による急加速。

北へと続く、街道を上ってゆく。


「思ったより、王国での滞在期間短かったな。まあ、4人も“使える人材”拾ったからいいか」

「ナギ様。かなりスピードでてますが大丈夫ですか」

「おっと、少し浮かれててな」


リュディとその頭に不思議な力で張り付いているミトはもう慣れたようだが、ナギの後ろの男とサイドカーの女はこのスピードは予定外だったらしく口数が減った。


「アーリック、大丈夫か?」

「こんなに早く移動できるものがあるのだな。馬よりも速いとは」

「馬と違って疲れないしな、これ。すぐに国境だぞ」

「そういえば、国境。どうやって越えますか?」

「何のために幻魔法があると思う?」

「その為では絶対ないですね」


目前でバイクを降り、国境の関所へと入る。

その瞬間、内部にいた人間すべてに魔法が掛けられ、ほぼ傀儡状態で手続きが進み、10分ほどでメリザンド法国側へと抜けた。

ここから少し行けばすぐに関所があり、そこを抜ければアルダだ。


「こんなにもスムーズに関所を抜けたのは始めただ」

「あー、アーリックはそうだろうな」

「私は関所自体越えたの初めてです」

「あ、私もです」

「お前ら二人はそうだろうな」

「私は正規ルートで通ったのは久々です」

「そのルートって今でも使えるのか?」

「さすがに難しいかと」


法国側の関所は、愛想の無い王国の係員よりもいくらか好意的で、


「ようこそ、メリザンド法国へ。どういったご予定での入国ですか?」

「今、ギルドメンバーを連れて旅をしていて。帝国までの通り道かな」

「そうですか。それでは、今は少し時期が悪いかもしれません」

「何かあったのか?」

「旧教と新教の連中が小競り合いをしていまして――帝国側に抜けるマルキとディベリオの道が封鎖されている状況です」

「げ、マジかよ。ティエリーに寄る予定はなかったんだけどな」

「失礼ですが――そちらのウェルカ人の方は、気を付けたほうがよろしいかと」

「だろうな」

「すまない。面倒をかける」

「いや、気にするな」


関所を抜けるとそこはすぐに街に続いており、法国アルダの街へと入った。

宿を探すのをシャノンに任せ、アイヴィーの登録のために“剣と車輪”へと向かうが、何故かかなり混雑していて入れなかったため、明日の朝にもういとど来ることにした。

なんでも、王国でクーデターが発生したせいで関所の出入りが制限されているらしい。それに関する情報を求めて商人たちがあそこに集まっているというわけだ。


車椅子を押しながらナギは大通り沿いの道を物色する。


「どうした、アイヴィー」

「いえ、こんなふうに外に出るのはほんとうに久しぶりでして。感慨深いものがありますね」

「もう屋敷に籠ってなくていいんだよ。脚の確保ぐらいはオレがしてやるから」

「そうですね。とりあえず、新しい車椅子と、機巧杖でしたか?あれの製作を手伝ってくださいね」

「了解」

「私だって、お役にたてると言うところをしっかり見せておかないと、今捨てられては路頭に迷いますから」

「サイアーズに戻ればいいんじゃないのか?」

「いえ、その、実は。もう家には戻らないと書置きをしてきたもので」

「思い切りが良すぎるのも考え物だな」

「ですので、きちんと養ってくださいね、旦那様。私の腕が役に立たなかった、その時には、体でお支払いしますから」

「いや、それは――「ダメですよ。ナギ様。この女は敵です。私の」――和解してくれよ」

「仲間としては認めますが、私のナギ様を狙おうというならこちらにも考えがありますよ」

「いや、そもそも、オレにはクレハという嫁が」

「うふふ、機巧術に関して一番旦那様のお力になれるのは私ですよ、シャノンさん」

「戦闘や生活全般を支えてこそ、正しき妻の形というものですよ、アイヴィーさん」

「ナギさーん!アーリックさんに串焼き買ってもらいました!一緒に食べましょう!」


両手に串焼きを持ったままこちらにちょこちょことやってきたリュディの頭を撫でる。隣で火花を散らしている女性陣からの現実逃避である。


「ありがとう、リュディ。よかったのか?アーリック」

「ああ、あまり金を使う用件はないしな。ナギという職人がついているから余計のこと。ギルドには顔を出したのか?」

「いや、クーデターのせいで混んでるから明日の朝一で行こうかなと」

「なるほど。しかし、あまり実感はないが、かなり大そうなことをやらかしたな」

「ああ、でも、オレたちは一応誰も殺してないから。あの貴族たちの命運は自国民が握ってるよ」

「そうか。まあ、王国には思うところがあったしいい意趣返しができた。家族に仕送りついてでに手紙でも送っておこう。信じられないかとは思うが」

「そりゃ、よかった。ところで、お前がその毛玉抱いてる姿全然似合わないな。笑いそう」

「そんなにか?」


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