#scene03-10
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当初の予定では、オルテガで手続きを行い、宿でもとって休むつもりだったのだが、思いのほか追手が多くうっとおしいので、さっさとアドリア自治州を出ることにした。
国境を超えてしまえば、うかつに手を出すことはできないだろうし、そもそも、帝国まで手を伸ばす度胸はグンナル公国にもアドリア自治州にもないだろう。
ということで、現在、クレハ達は船の上にいる。
既に帝国の領内に入っており、これ以上の追手はないと思われるためある程度安心した様子のエレノラ。
「やっと、自由になりました」
「そんなに?」
「12歳で学園に入ったけど、それまでは基本的に屋敷の塀から出してもらえなかったから」
「今16やっけ?」
「うん。追手を皆殺しにすれば逃げるのはたぶん簡単だったんだけど、それをすると父に本気で殺されそうで」
「でも唯一の跡取りなんでしょ?」
「私がいなくなれば養子でもとるだろうけど」
「貴族ってのは大変やな」
「貴方もそうでしょうが」
「いや、でもウチは当主がナギ兄やで?」
「ああ、じゃあ関係ないわね」
「?」
「にゃ?」
猫とエレノラが首をかしげる中、船はゆっくりと着岸する。
ここは帝国最南端の町レムケ。王都からは少し離れているが、帝国唯一の湖側の玄関口なのでそれなりに栄えている。
整った石畳の道を歩きながら、剣と車輪の看板を探し、扉を開く。
エレノラの加入手続きは速やかに終わり、彼女のカードの書き換え待ちだ。
「奥義の“魔導大成”ってどんな能力なの?」
「詠唱時間の激減とか、ある程度の魔法なら詠唱破棄できる」
「機巧装置でも?」
「どうだろう?学園都市の魔術師はみんな粋がってるから機巧装置なんて使ったことない」
「その辺は実験やな――で、ここからどうするん?」
「そうね……」
壁に掛かった地図を眺める。
「ナギ達はルッツの方から来るでしょ?」
「まあ、多分そうなるやろな。ルッツで待っとく?」
「でも、さっき位置確かめたらまだ王都に居たのよね。トラブルに巻き込まれてるのかしら?」
「どっちかというとトラブル起こしてるような気もするけど。ここからダールベルグ行くとすると歩いて3日ぐらいやけど」
「バイク使ったら王都からでも一日で来れると思うけど、寄り道しないわけないしね」
「エレノラはどこか行きたいところある?1週間は余裕見ても大丈夫矢と思うねんんけど」
「それなら副都シュトフェルに行ってみたいかも?」
「なるほど、そこならいろいろありそうやしな」
「じゃあ、そっちに行きましょうか――ちょうどカードもできたみたいだし」
カードと一緒に渡された髪には、最新のメンバーと、他のメンバーの現在地と更新時間が書かれている。
「あら?ちょうど今さっきだけど、アルダの街になってる」
「ええ!?」
「あと、2人増えてる」
「えええ!?」
「アイヴィー・サイアーズとアーリック・クラウジス」
「サイアーズって……」
「あの男、また女囲い込んだわね」
「いやいや、男も増えてるやん?」
「あと、国家認定ギルドA級って何?」
「え!?いつの間にそんな認定受けたん!?」
「それって、高位の貴族とかじゃないと認定できないって聞いたけど……」
「“認定者:ヴィオレット・フォン・グスト・イネス”って誰?」
「え?それイネスの王族じゃ……は!?女王!?えええ!?ナギ兄何してるん!?」
「革命でもしてたのかしら……?――楽しそうね」
「楽しい……?」
「詳しくは直接会って問いただすしかないわね……」
「あの、ギルド資産1億8000万Eって書いてある気が……」
「ずいぶん増えてるわね」
「うちらもちょっと稼いどった方がいいんやろか?」
「500万もあれば帝都にそれなりの邸宅が買えるはず……」
「でも、領地運営する貴族となると全然足りないんじゃない?」
「でも、ナギ兄なら開拓費用とか全く掛からんしなぁ……あ、とりあえず、宿でもとりに行こう」
◆
時間は1日ほどさかのぼることになる。
夜が明けてからナギとアーリックは普通に王都へと戻った。
シャノンは別行動で王都の内部へと侵入し、リュディとアイヴィーは留守番である。
この王都では、貴族階級からの騎士たちが幅を利かせて街の人たちを威圧したりするという意味の分からないことが起きているので、この騎士たちに適当に喧嘩を吹っ掛けて捕まろうと思っていたのだが、その予定は大きく覆った。
街へと入る門を潜ろうとしたところで普通に捕まった。
なんでも、昨日の貴族の大元の家系(侯爵家らしい)がすごい抗議して来たらしい。
王族の決定において、罪人が裁かれただけだというのに、反抗するとは他の国ならばありえないことに驚愕している――と、見張り番の兵士(庶民出)が語ってくれた。
偽装のために装備していた鈍ら剣と適当に持っていたアクセサリーは取り上げられたが、賢者の腕輪を外せる猛者はいなかった(6人ほど触って発狂した)ため、そのままだ。
というわけで、王城の地下にある牢屋に繋がれている。見張りの兵士は昼時とかでジャック(色々話してくれた兵士)以外はいなくなっており、人気も少ない。
VIP用の牢屋(?)らしく、ナギとアーリック以外の繋がれている者はいない。昼過ぎから裁判的な物が行われるらしいが、かなり退屈なので3人で昼食をとっていた。
ちなみに、魔封じの錠はつけられてはいたのだが、アーリックが素手で引き千切ったので既にしていない。アーリックの力が強いのもあるが、金属に不純物が多く脆かったようだ。
「しかし、この国終ってんなぁ……」
「ルーツでももう少しまともな統治をしているぞ……」
「俺だって、庶民出だからって虐げられてるんすよ?」
「というか、ジャック。オレらと一緒に飯食うのはいいんだけど、いいのか?お前、あのバカどもが戻ってきたらヤバいぞ?」
「え?旦那たち、何かしでかすんでしょ?」
「まあ、仕出かすけど……ああ、昼休みが終わったら早めに城の外に出るんだな。巻き込まれて死ぬぞ」
「了解っす」
「あと、夜になったらこの手紙を青の翼のギルマスに届けてくれ。金貨一枚駄賃につけるから」
「えええ!?そんな仕事ぐらいなら銀貨でもやりますよ!?」
「じゃあ、そろそろ逃げた方がいいぞ――どうだった?シャノン」
「資料室に忍び込んだらすぐにわかりました。この国で継承権を持っているのは42名ですね」
「多いな」
「まあ、王城内に確かな系図が残っていることが条件らしいですが――そういう意味では半分ほど消えたかもしれません。指定のあった貴族の資料を何枚か焼き捨てましたので」
「じゃあ、あとは落とすだけか――アーリック」
「どうした?」
ナギが一振りの剣を投げ渡す。
「これは?」
「どうだ?」
「……長剣にしては少し重いな」
「エクトル鋼製のファルシオン型の剣だな。アーリックなら片手でも使えるだろう」
「これなら鎧を着てようが叩き斬れそうだ」
「まあ、切味と頑丈さは保証する。あとは、この腕輪――というか枷なんだけど」
「枷?」
「言ってただろ?魔力暴走するかも、って。それさえつけてれば、一定以上の魔力が放出されたときに自動で吸収してくれる。意識をもってかれることはないだろう」
「ありがたい」
「シャノン、ターゲットのリストは?」
「ここに」
「ヴァレリー王子派閥の貴族は40%か……案外多いな」
「昔からの貴族とは結構こちらについているようです」
「この機会にバカな新興貴族は一掃するって言ってたしなぁ――リュリュの馬鹿貴族も消えるみたいだぞ?」
「好都合です」
「よし、じゃあ上に行くぞ。最上階まで詰めたらそこから城を潰していく。シャノンは逃げたターゲットを狩ってくれ」
「畏まりました」
「―――王都市民の9割9分が賛成するって無茶苦茶だよなぁこの“城落とし”クエスト」




