#scene03-09
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「ああ、もう!次から次へとうっとおしいな!」
クレハとキーリー、そしてエレノラ+猫は未だ街の中を駆け回っていた。
外壁の方へ進もうとすると、待ち伏せの冒険者や傭兵たちに出会い、それを避けるとまた町の中心へと誘導される、そういった動きを繰り返す。
始めのうちは、クレハが片っ端から斬り伏せていったのだが、キリがないので全力で走るに至る。
「はぁ……はぁ……ぅ」
「エレノラ!だいじょぶか?」
「……貴方たち体力在りすぎ」
「いや、どっちかというとあなたが無さすぎなのよ」
「クレハ!前!」
「おっと」
クレハの身体をいやらしい目で見ながら近づいてきた男たちを一太刀で沈め、その体を容赦なく踏みつけて進む。
「きりがないわ」
「全員殺していいならもっと楽なんだけど」
「そうね」
「二人とも物騒やなぁ……でも、まあ、うちもその意見には賛成かな」
キーリーが投げつけたフラスコが顔に命中し、周囲にパステルカラーの液体が飛び散る。
その飛沫を浴びた周囲の傭兵たちが、ばたばたと倒れていく。
あとから追いついた仲間たちが解毒薬を使うが効果をなしている様子はない。
「……あれ、何?」
「毒じゃないんやで、あれ、ポーションや」
「いや、でも泡吹いてるわよ?」
必死で仲間の救護をする傭兵たちの間をすり抜けながらクレハが尋ねる。
「ナギ兄の記述によると、えいちぴーがおーばーふろーして、体の仕組みが全体的にぶっ壊れる―――らしいで。で、毒じゃないから解毒とかは無理」
「どうやって治すの?」
「放置しかないっぽいけど。まあ、この薬使ったん始めてやから、効能が発揮されて良かったわ」
「憐れな実験動物に黙祷」
「…………」
「にー……」
「ええ!?猫までその反応!?」
誘導を強引に食い破り、かなり限界が来ているエレノラを支えながら何とか北――サリヴァン側の門へと辿り着いた。
しかし、そこには当然大量の兵士が待機し、
「――校長」
「え?あのハゲてる奴?」
「魔法学園の校長だから、もっと、こう、白い髭がふわっとしてる感じだと思ってた」
「……どういうイメージなんそれ」
「すまんな、御嬢さんたち。ザヴィアー君を置いて行ってくれんか」
「なぜ?」
「何故と言われてもな、彼女の魔属性魔力は非常に危険だ。素人にどうこうできるようなものでは―――――!?」
一瞬、魔力の流れを感じたと思うと背後の兵士が全滅してた。
クレハが剣を払い、腕輪の中に格納しながら問いかける。
「どうこう、できないとでも?」
「な、だ、だが。もし、その魔力が暴走すればっ、魔法の知識に乏しいものでは」
「あー、おっちゃん。悪いんやけど、この学園で研究してる程度の魔法なら、うちの兄さんが超完全上位互換と言えるようなものを全部作ってしまってるから――逆に言うけど、こんだけ数揃えんと女の子1人捕まえられんような耄碌が、何ができるっていうん?」
「しかし、ザヴィアー卿との契約が――」
「仕方ないわね。やりたくなかったけど、制圧しましょうか、学園都市」
「ここ制圧したらアドリア自治州自体が終了すると思うけどな」
「仕方ないわよ。依頼の達成に犠牲はつきものよ」
「仕方ない」
「ええ!?クレハはともかく、エレノラは思い入れとかないん?」
「ない」
「言い切った!?」
「何をバカな。この大陸最高学府には文武それぞれのエリートたちが……」
その瞬間、巨大な爆発音が響き広場の中央にあった噴水や、学園の象徴である高い塔など、この街のシンボル的な物すべてが一瞬にして瓦礫と化す。
ここからは見えない場所が多いが、白煙の昇っているいちに想い当りがある。
「あら、思ってたのよりショボかったわ」
「もっと派手だと思ってた」
「あー、ちょい火力の量ケチりすぎたかな……」
「な、ななな……」
「おっちゃん、あんだけ街中走らされてるねんで、そら、観光ぐらいはしてきたよ」
「写真撮っとけばよかったわね……持ってないけど」
「街のシンボル最後の姿?」
「それじゃあ、うちらはそろそろお暇させてもらうけど。仕事のご依頼などは一回聖貨1枚から承るで、校長さん」
「何を……」
彼女たちの姿は霞のように消えていく。
その瞬間、長年の経験からこの魔法を思い出す。
“幻像”の魔法。
とてもただの冒険者が扱えるようなレベルの魔法ではない。
そして、東の門の方がにわかに騒がしくなり、その数分後に門が破られた知らせを受けるのだった。
◆
「大成功」
「ほんとうに出てきてよかったん?」
「うん。もうあそこに居てもつまらないから」
「とりあえずここからどうするの?」
「さあ?」
「まさかのノープラン!」
キーリーが大袈裟にリアクションを取り、天を仰いでみせる。
「で、どうする?」
「エイバリーは通れないのよね?」
「実家の領地だし」
「そうなると、時間はかかるけどハスロまで行って船で行くことになるかな」
「この際公国を飛ばしましょう」
「じゃあ、レムケの街まで行く?」
「私は二人に任せる。あんまりその辺詳しくないから」
「まあ、ほぼ軟禁状態やったしな」
「クレハ、バヘッジにいるお兄さんとやらには会わんでいいん?」
「別に、用はないし……」
「実家に無断で結婚しといて用はないと仰る」
「クレハの旦那さんってどんな人?」
「おかしい人よ」
「うわぁ……ナギ兄かわいそう」
「おかしい人なの?」
「いい意味でね」
「絶対いい意味なんかないと思うんやけど」
「まあ、会ってみればわかるわ」
「せやな。会ってみればわかるよ」
「なんか不安だけが募っていく」
「にゃあ……」
街道から逸れ、森を進む。
命が惜しければ普通しないことだが、飛び出してくる魔物はクレハが秒殺するので問題は全くない。
「とりあえず、次のオルテガでエレノラの加入手続きしよか」
「お願いします」
「ほんとにいいの?うちのギルド、私が言うのもなんだけど全体的におかしいわよ?」
「まあ、私もどちらかというと異端寄りだから……」
「じゃあ、改めて自己紹介。私はクレハ・ヒューゲル=シュヴラン。ジョブは剣術師Lv.10。属性は時」
「え」
「うちはキーリー・シュヴラン。錬金術師Lv.8でアウグスト・シュヴランの最後の弟子やで。で、マスターでうちの義兄はナギ・クレセント・シュヴランで兄弟子にあたる。ちなみに錬金術師Lv.10で幻属性や」
「私なんかよりずっと貴重な存在が……」
「そうやで、この二人と比べると他のものが全部たいしたことなく感じる。まったく、どうしてくれんねん」
「酷い言い種ね……ナギが今何してるかきになるし、青い翼に急ぎましょう」
「うーん、加速はほどほどにしてもらわな私ら吐くで?」




