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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#03 黒の勇士編
67/131

#scene03-08



クレハとキーリーがエレノラに導かれてたどり着いたのは彼女の居室だった。

何故か人気の無い寮の一室に居を構える彼女。

貴族の娘ともなれば、侍女の一人ぐらいいてもおかしくはないのだが、その姿もない。

それについて、ソファに腰掛け、黒猫を撫でているクレハが躊躇いなく尋ねる。


「ねえ、周りに全然人気ないけれど、どうなってるの?」

「わあ、ストレートに聞いたなぁ……」

「私、伯爵令嬢だけど、あまり好かれてない」


そういうと、懐から青い翼の描いてあるギルドカードを見せる。

そこに記されたステータスに、“魔法属性:魔”とあるのを見つけた。それが問題だろう。


「へぇ、魔属性の人間なんてほんまにおるんやな」

「私も初めて会ったわ」

「“時”や“幻”に比べてたら多い方。でも、私みたいに“魔属性”で“魔法適正が高い”とそれなりに警戒されて」

「敬虔な教会派貴族はあまり好かないでしょうね。周りに人がいないのもそういう事情ね?」

「はい。あの、ここから去りたくなったらいつでもどうぞ。隠したままお連れして申し訳ありません」

「いや、むしろ“魔属性”の人間なんて見たのはじめてやから、徹底的に調べたいんやけど」

「あなた、本当にナギそっくりね」

「血ぃ繋がってないけどな」


腕輪から取り出したモノクルをキーリーに投げ渡し、クレハは部屋の中を見渡す。

壁一面を埋め尽くす本棚。机の上の紙には書きかけの術式。模範的な学生のようだが、生活感が感じられない。

一応ベッドやキッチンなどはあるが、あまり使われた形跡がない。


「あの、キーリーさんは何をされて?」

「ああ、ごめんごめん。勝手に調べさせてもらったで、これで」


モノクルはもちろんナギの作った物。天盤解読(ケルブ・デコード)の魔法が刻まれている。


「そんな機巧装置見たことありませんが」

「ナギ兄の作るものはいつだって最先端やからなぁ……でも、これがあるのとないのとでは錬金術の難易度が変わってくると思うんやけど」

「まあ、ナギは魔眼があるから常時それつけてる状態らしいけど」

「うぇ!?初耳やで!?そんなん」

「え?これも知らなかったの?じゃあ、私の魔眼は?」

「それも初耳や」


そう言いながらキーリーはクレハをモノクルで覗く。


「そういえば、今何の研究をしているの?」

「特に何も。卒業要項は満たしているけど、父が嫁入り先が決まるまで学園から出したくないみたいで」

「そうなんだ」

「私ももうここではこれ以上のことを学べないのでさっさと出て行きたいのですけど、今までも何度か逃亡に失敗していて」

「へぇ、行くと来ないんやったらうちのギルド入る?募集要項は満たしてるし」

「ああ、そういえば、勧誘も任されてたっけ?」

「忘れてたんかいな」

「ギルド?というと?」

「うちのギルドは、ナギ兄がギルドマスターの“黒き新月(クレセント)”っていうんやけど、まあ、最近できたばっかりやから」

「募集要項とは?」

「職業レベル8以上」

「………高すぎない?」

「一流の駒以外はいらないって」

「我が義兄ながらえぐい考え方やで」

「でも、私が外に出ようとすると全力で教師陣が止めに掛かる」

「センサーでも張ってあるのかしら?キーリー」

「よしきた」


キーリーがモノクルを持ったまま部屋中を見回す。


「あ、見つけた」

「壊せる?」

「朝飯前」


壁の一部に触れると錬金術を用いて埋め込まれている装置を破壊する。


「あ、でもこれ壊したらにげようとしてるのばれるんちゃう?」

「壊す前に言いなさいよ」

「私でも先生たちを大量に相手するのは辛い」

「術式の発動方法は?」

「増幅器の杖のみ」

「じゃあ、予備の機巧装置を貸すわ。念のため持ってて。魔宝石は魔でいいわよね?」

「“魔の魔宝石”なんてそんな高価な……しかもこの純度」

「使い方は?」

「魔属性なら問題なく」

「3人やと「にゃあ」……3人と一匹やとバイク使われへんよな?」

「うん。だから全員に加速魔法掛けて走るか、再起不能になるまで叩く」

「どうやら、後者の方が速そうやで」

「キーリー、ネコお願いね」

「案外この黒猫気に入ってるんやな」


キーリーがモノクルを耳に掛けたまま、黒猫を抱き上げる。


「しかし、眼鏡にしてくれればよかったのに。モノクルやと落ちそうや」

「実用性よりロマンを選んだのよ」

「わからんこともないけど」

「……囲まれてる」

「何殺までオッケー?」

「0に決まってるやろ」

「じゃあ、木刀ね」

「どこでそんなもん……ああ、ナギ兄か」


ドアがノックされる。


「ザヴィアー君。何かあったのかね?」

「先手必勝」


ドアが開くタイミングで、一気に加速したクレハが一撃で白い髭の老師の意識を刈り取る。


「交渉の余地なし?」

「無し」

「表も裏も窓も固められてる。なんかいつもより厳重な気が」

「なにかあるんかな?」

「この前、校舎半壊させたからそのせいかも」

「絶対それで怒ってるんやわ」

「いいから行くわよ」

「ちょっと待って」

「何秒?」

「30秒」

「いいわ」


キーリーが周囲にある物すべてに触れ、順に腕輪に格納していく。


「もったいないやろ?資料とか」

「さすが」

「賢者の腕輪ですか?」

「そう」

「キーリー爆薬ある?」

「あるけど出すのならちょっと猫もって」

「それなら私が魔法で、影爆弾(シャドウボム)

「術式展開速っ!?」


黒い塊が着弾すると同時に、玄関を吹き飛ばす。


「一人倒したわね」

「倒したらあかん気がするけど」

「外に出れるチャンスを見逃す手はない」

「エレノラ、いつもよりやる気ね」

「ほぼ初対面やけどな、うちら……?」


突如サイレンの様な物が鳴り響く。


「これは?」

「緊急クエスト?」

「どういうこと?」

「たまにゴーレムとか魔物とか暴走して逃げたりするから討伐クエストが出る時がある」

「ゴーレムにげたのかしら?」

「いや、ゴーレムより厄介な物かもしれんで」


「見つけたぞ!捕まえろ!」

「傷はつけるなよ!報酬でないぞ!」

「周りの女は?」

「ついでに捕えろ!」


「ほら、うちらの捕獲クエストやで」

「相手が冒険者なら、斬られて文句ないわよね?」

「いつになくやる気やん?」

「最近、刀振ってない気がして」

「大丈夫なの?」

「大丈夫、クレハは大陸最強の剣士。あの程度の有象無象相手なら万いようが、億いようが変わらんよ」


勢いよく飛び出して言ったように見えたクレハが目の前に現れ、剣を治めるをエレノラは見た。


「え」

「さて、右手はもらったけれど、次はどこがいい?」


その瞬間、かなりの数が集まっていた学生、冒険者たちの右腕がぼとりと地に落ちた。

響き渡る悲鳴、流れる血潮。


「さ、今のうちに出るわよ。ここまで行動が速いってことは街全体グルね」

「やっぱり」

「えーっと、大丈夫かなこの人ら。仕事廃業になりそうやけど」

「腕生やせる術師ぐらいいるでしょう、学園都市なら」

「何人かいたと思う。私も呪法使えばできる」

「それは代償がでかそうやからやめとき」


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