#scene03-07
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日が沈む前に隠れ家へとやってきたナギとシャノン、アーリック。
お留守番組の2人は意外と仲良くなったようだが、お互いに距離感を測っているところなのでそれほど会話が弾んでいるとは言えない状態だった。
市場で買い漁った王都民にあまり人気のない食材(一応輸入しているためか入ってきている共和国方面の食材が主)をテーブルの上に並べながら、今夜の献立を考えるナギ。
シャノンはそれを手伝い、アーリックは返り血をおとすために奥の風呂場で体を洗っている。
「さてさて、とりあえず川魚のフライと売ってた野菜と腸詰をコンソメで煮込んだだけのポトフ、それとレヴェリッジでオーブン借りて狂ったように焼いてたパン――おお、アーリックもういいのか?」
「ああ、体が清潔にたもてればそれで。水も余裕はないだろう」
「まあ、魔法で作ってるから水は無限に出るけど……じゃあ、夕食にしようか。お嬢様のアイヴィーには物足りないかもしれないが」
「いえ、そんなことはありませんよ。今は儲けていますが、ほとんどを工作費用に回していますのでサイアーズにはそれほど余裕はありませんでした」
「そこまでして成り上がらないといけない理由はあったのかね」
「サイアーズは元々衣料品を扱う商会だったと思うのですが」
「はい。兄も両親が死んだときは、残してくれた遺産で細々とやっていくつもりだったようですが、私に機巧技師の才能があるのがわかるとそちらに切り替えたようです」
「欲に目が眩んだのかね……む、少し味が弱いな。野菜を入れ過ぎたか?」
ナギがどこからともなく胡椒の入った瓶を取り出すとポトフにかける。
「ところで、誘ったのはそちらとはいえ、私の事をもう少し警戒すべきではないかと思いますが」
「警戒したところでどうにもならないと思うんだけど……言わせてもらうけど、機動力に重大な欠点があるアイヴィー程度ならば、どこに逃げようと先回りして殺せるぐらいの手立ては持ってる。仮にスパイとして送り込まれたとしても、サイアーズにはアイヴィー・サイアーズ以外に優れた技師はいないようだし、漏らす前に消せばよい話だ」
「しかし、例えばこちらのリュディさんを人質に取ればどうでしょう」
「リュディにはその毛玉がついてるし、オレを捕まえるのは無理だろうし、アーリックやシャノンにしても“王国”程度が相手ならば引けは取らないと思うが」
「……国1つを相手にとっても問題ないと?」
「さすがに帝国や法国、共和国クラスになるとヤバいけど、瀕死の王国ぐらいならどうだ?」
「私は可能だと思います。慢心を無くしたとしても特に問題なく国落としができるかと――“太陽”が出張ってくれば厳しいですが」
「オレはどうだろう。自分ではそれほどすぐれているとは思わないが、今日会った程度の辺の練度ならば1000程度ならば無傷で斬れると思うが」
「――だそうだけど」
「そう言われましても……」
「まあ、裏切ったとしてもこっちとしてはぶっ殺すだけだから気にしないでいいよって感じかね?」
「ナギ様、物騒ですよ」
「でもまあ、どこのギルドもそんなもんだよな?」
「まあ、腹を貫かれた身としてはそうですとしか言えませんが……」
「……腹を貫かれた?」
アイヴィーが困惑して固まる。
「えっと、ああ。私は以前“蒼き太陽”に所属していまして、そこで一悶着あったわけです。それと、自己紹介をちゃんとしたほうがいいですか?」
「できればお願いします」
「なら、アーリックから頼む」
「了解した――アーリック・クラウジスだ。家はルーツのクラウジス家、一応前政権では騎士爵だったらしいのでルーツ領内に関しては色々とできることがあると思うが…・・基本的に戦闘以外は役に立てないだろう」
「じゃあ、次、リュディははもうしてるだろうから、シャノンかね」
「レヴェリッジ家長女、シャノン・レヴェリッジです。得意分野は暗殺・諜報です。現在の目標はナギ様の第二夫人です」
「いや、その目標はちょっと……そんな目されても、あー、わかった検討するから!」
「それではさっそく今夜」
「え――――とりあえず、オレはナギ・クレセント・シュヴランな。一応男爵位持ちだけど、どこまで機能するかはわからん。王国民脅すぐらいなら使えるんだけど……」
「やめてあげてください」
こちらの自己紹介が終わり、全員アイヴィーに視線を向ける。
「アイヴィー・サイアーズと申します。ナギ様にお誘いいただきギルドに入らせていただくことに決めました。お役にたてるように努力しますのでよろしくお願いします」
「アイヴィーの加入申請はどこかの街でやってもらうとして、先に聞いておきたいんだけど、ぶっちゃけどこまで移動できる?」
「そうですね……この車椅子は兄に内緒で改造しておりまして、数時間程度なら自走できるのですが、魔宝石の燃費がかなり悪く……」
「まったく歩けいないのか?」
「いえ、物に捕まってなら少しの間は。脚限定で筋力が衰えていく病気らしいのですが、年齢的にそろそろ病気の進行も止まるかと」
「そういうものなのか?オレの知ってるのとは少し違うような……」
「ナギ様は医学にも詳しいのですか?」
「いや、故郷の知り合いに似たような友人がいたってだけだよ。まあ、アイヴィーの移動手段については一つ考えてることがあるから、とりあえずその自走システムを少し弄ろう。具体的にはオレの作った魔導エンジンを積むとか……ああ、これはまた後で話すとして、とりあえず今日受けた依頼についてなんだけど」
「依頼、ですか?それはどういった……」
「まあ、一言でいえばテロなんだけど……ちょっと王城に忍び込むかなと。という事でシャノン、道知らない?」
「……残念ですが。しかし、数日時間を頂ければ探すこともできますが」
「んー……それだとアイヴィーが不味いかな。という事で、アーリック。悪いけどプランBに付き合ってくれないか?」
「わかった」
「プランBとは?」
「まあ、ざっくり言うと。わざと捕まって王城の牢屋に入れてもらう」
「……できますかね」
「さあ?とりあえず騎士団の詰所は全部壊してみるかな」
「そこまですればその場で殺されると思いますが……」
◆
ナギ達が物騒な計画を立てていたその日の朝方まで時間を巻き戻す。
かなり高いホテルのいまいち納得のいかないサービスに不満を覚えながらクレハとキーリーは街に出た。
買い物が済めばさっさと出ていく予定なので連泊はしなかったが、あの程度ならばもっと安宿でも変わらないだろうし、クレハ的には虎の子亭の方が居心地ははるかによかった。
「で、何買うの?」
「ナギ兄は何にもいうてなかったん?」
「特には、何か珍しい物があれば適当に買っといて、とは言ってたけど」
「ふーん……うわ、見て見てこれ。あくま召喚の魔導書やって」
「絶対ニセモノよそれ」
「やろうなぁ……とりあえず買うとしたら最近発表された魔法の論文とかになるんやろうけど、この程度ならナギ兄に師事したついでに教えてもらった方がいいかもなぁ」
店先で店員に睨まれながら最新版の論文集をパラパラめくりつつキーリーが呟く。
「確かに、学園都市って言っても底が知れてるわね」
「あの人はたぶんひとりで戦争でもするつもりなんやろうけど……あ、この歴史書と魔物の加工手引書は買おう」
「お金足りる?」
「これぐらいならよゆーよ」
キーリーが会計を行っている――例の如く酷い値切りを行っている――間店先で佇んでいたクレハだったが、その足にまとわりつくモノが。
「何これ、ネコ?」
抱き上げると黒猫?はニャーと思ったより低い声で鳴いた。
「―――可愛い」
「何してるん?ネコなんて抱いて。食べるん?」
「……貴女の中の私のイメージについて一回話し合う必要があるみたいね。それより本は?」
「二冊で銀貨50枚やったけど38枚まで値切ったで」
「店は大損ねそれ―――ん?」
ネコを抱えたまま横を見る。
というのも突然上着の端を引かれたからだが。
「あら、もしかしてこれ貴女の猫?」
「(こくり)」
「はい。かわいい子ね」
そう言って少女――といっても背丈はキーリーと変わらない程度にはあるので歳はそれほど変わらないのかもしれないが――に猫を渡す。
するとさっきまで微動だにしなかった猫が突如暴れだし、少女の手を振り切るとクレハの足元に座った。
「え?」
「なんで飼い主より懐かれてるん?」
「さあ?これほんとに猫?」
「ちがう」
「違うん!?」
「これは“シェキナ”という聖獣」
「聖獣の毛皮って高く売れるのかしら……」
「どうやろ、ちょっと小さない?」
「……この子まだ幼体だから」
「育てて売ればいいの?」
「フシャ―――ッ」
どうやら売られることについてはご不満らしいがそれでもクレハから離れようとしない。
「どうすればいいの?私たちそろそろ次の街に行くんだけど」
「……別に連れて行ってもかまわない。半年居候しているけど私には懐く様子がない」
「よう半年も飼うてたなぁ……」
「でも離れる様子もなかった。もしかしたらあなたを待ってたのかも」
「猫かー……嫌いじゃないけど」
「とりあえず連れて行ってみる?」
「うちの旦那様猫アレルギーとかだったらどうしよ」
「大丈夫やろ、たぶん……それで、あんた名前は?」
「エレノラ。エレノラ・ソランジュ・ザヴィアー。この猫はクラ」
「杖の白百合の紋章を見るに、公国のザヴィアー伯爵家ね?」
「そう。あなたは?」
「私はクレハ・ヒューゲル=シュヴラン。この子は義理の妹で」
「キーリー・シュヴラン」
「ヒューゲルの剣姫と賢者の後継者?」
「そうね」
「まあ、継いだのはナギ兄やけど」
「……あの、ちょっと話聞かせ貰ってもいい?」
エレノラは暴れる猫を抱え上げてこちらを見る。
その眼は興味津々というように輝いていた。




