#scene 03-01
イネス王国首都・ルシュール。
人口からみれば大陸最大の都市と言ってもいいだろう。あくまで人口だけみた場合だが。
街としての発展度はそこそこなのだが、首都としては治安は最悪。
貴族、富裕層、一般市民、貧困層それぞれがそれぞれへの対立が酷く、統制が取れているとはお世辞にも言えない。
また、政権を持つ現王家に置いても、跡継ぎの問題上、第一王子派(市民派)、第二王子派(軍事派)、第三王子派(王宮派)で大きく割れており、現在の主力は第二王子派で、最も勢力が弱いのは第一王子派だとされている。何でも、第一王子は庶子だという噂があり、支持する貴族が少ないらしい。
貴族も貴族同士で争いをしているため、市民たちへまともな配慮がされることもなく、まともな頭の貴族たちの多くは、カレヴィ自治州などに亡命しているらしい。
そんな最悪の時期に、ナギ達は王都へとやってきた。
そんな状態だからこそ、騎士団の業務もまともに機能しておらず、門をほとんど素通りできたと言ってもいいのだが。
「よくもまあここまで酷くできるもんだ」
「貴族というのは本当によくわかりませんね……あ、いえ。ナギ様は最高ですよ?」
「ああ、うん。わかってるからそんなに焦らなくていい」
「そこは否定しろよ。そんで、ナギさん。先にギルドに行くか?」
「いや、せっかくだからサイアーズとやらに会いたい」
「わかった。じゃあついてきて」
王都ではちょっとした有名人であるソウタのせいでやたらと目線がこっちに向く。
だが、その要因たる人物は特に気にした様子もなくなれた様子でどんどん貴族街の方へと近づいていく。
「あそこの貴族街の手前のやたらでかい屋敷がサイアーズの屋敷だよ」
「ずいぶん新しいな」
「そりゃ、新築だからなー。レイモンドがやっとの思いで建てたこだわりの物件だぜ?」
「一人で住んでるのか?」
「そんなわけないじゃん。使用人と、あとは妹がいるみたいなことは聞いたことあるけど」
「ほー……シャノン」
「了解しました」
「?……どうかしたか?」
「いや。で、オレも会わせてもらっていいのだろうか?」
「まあ、オレの付添という事で。こっちはいろいろ話聞けたし、ギブアンドテイクだろ?」
「まあ、等価が支払えなければ帝国法の詐欺罪に持って行ってやるけどな」
「マジかよ。手加減してくれよ」
門の前。
ソウタが顔見知りなのかやたらと腰の低い男に一言二言告げると、ゆっくりと門が開く。
「あ、友達だって言ったら全然いいって」
「そんな警備で大丈夫か」
何度か来ているせいか、この屋敷を知り尽くしているソウタは、案内もなく目的の部屋へと向かう。
「――あれ?そういえばシャノンさんは?リュディや毛玉もいないけど」
「門の前で一端別れたが?」
「え?いつの間に……クラリッサ、気付いた?」
「ううん。というか、アンタが気づかないのに私が気づくわけないじゃない」
「まあ、気にするな。アイツらには興味ない世界だろうし、宿の確保を頼んだんだ」
「ナギさんがそういうなら良いけど……レイモンド、オレだけど」
『ああ、入ってくれ』
扉の向こうから男の声が返ってくるのを待ってソウタが扉を開ける。
「久しぶりだな、ソウタ!それで、うちの機巧装置の調子はどうだ?」
「ああ、使いやすいよ。EVE改良型だっけ?」
「そうだ。もう少しでさらに進化が得られる予定――おっと、こちらの方は?」
「ああ、さっき知り合ったんだ。サイアーズの機巧装置に興味があるっていうから連れてきた」
「ナギ・C・シュヴランという。すまないな、急に押しかけて」
「シュヴラン……アウグスト・シュヴランの“シュヴラン”!?」
「そうそう、流石レイモンド。この常識知らずとは違うわね。そのシュヴランよ」
「クラリッサ、いいかげん許してくれよ」
「いやはや、ソウタ。とんでもない人を連れてきてくれたな!オレたち機巧技師にとっても神の子みたいなものだぞ?」
「ふむ……それじゃあ、レイモンド・サイアーズ。アンタは機巧技師なわけだ」
「当たり前だろ、ナギさん。このEVEを誰が完成させたと思ってんだ?」
ソウタが機巧装置をこちらに見せながら言う。
「……まあ、いいや。帝国軍にいる友人にサイアーズ製の機巧装置を見せてもらったことがあってな。機会があれば一度その製作者にあってみたいと思っていたところで」
「シュヴラン男爵は薬よりも機巧学の方が得意みたいよ、レイモンド」
「なるほど、ぞれは是非力をお借りしたい」
「いや、一緒に開発するのも面白そうだとは思うが、一度国に顔を出さないといけなくてなぁ。残念だ」
「ナギ様。そろそろ行きましょうか」
「ああ、シャノン行くか」
「「「!?」」」
ナギの隣に突然現れた銀髪の女に驚くレイモンドとソウタたち。
「どうかしましたか?」
「シャ、シャノンさん。今どこから出てきましたか?」
「いえ、私はずっとナギ様の後ろに居ましたが」
「うそぉ!?」
「……ソウタ、そちらの女性は?」
「え?ああ、ナギさんの2番目のお嫁さんだっけ?「まだちーげよ」シャノンさんです」
「お初にお目にかかります、サイアーズ様。“黒き新月”所属、シャノン・レヴェリッジと申します」
「「………!?」」
クラリッサとレイモンドが固まる。
「……ソウタ。とんでもない人を連れてきてくれたな」
「え?あれ?どういう状況!?」
「バカ!レヴェリッジよ、レヴェリッジ!」
「まあ、シャノンの家名なんてどうでもいいんだけど……」
「すぐに嫁入りして替わりますしね」
「あー……後でツッコむから今は無視するぞ」
「……レヴェリッジの娘を連れてきて、どうする気でしょうかシュヴランさん」
「まあ、アンタには用はないよ。ただの商人には機巧装置の話は分からないだろうし。ここに来たのはサイアーズというよりも、アンタの妹に話があって来ただけだ」
「何をおっしゃっているんでしょうか。妹は関係ないでしょう」
「妹の手柄を横取りするとは悪い兄貴だなぁ、お前」
「……何を言っているのかわからないですな」
「まあ、いいや。ソータ、オレたちはもう帰るよ」
「え!?あ、おい!この空気どうすればいいんだよ!?」
「しらん」
えええええ!?と叫び声を上げるソウタを無視して、ナギとシャノンは部屋を出る。
「思ったより普通の人間だったなぁ。もう少しクズい感じかと思ってたけど」
「やってることはクズ以外の何物でもないですが。それでどうしますか?」
「とりあえず一度出るぞ」
「了解しました」
屋敷を出ると、何か連絡を貰っていたのか、勢いよく門が閉められる。
「さて、じゃあ会いに行くか」
「ルートは既に確保してあります」
「さすが」
「あとでたっぷり褒めていただきますから」
先行するシャノンに続いて、屋敷の裏へと周る。
途中で、念のために幻像で姿を隠し、塀を飛び越えて敷地内に潜り込む。
「それで、部屋は?」
「2階ですね」
屋敷へはシャノンがあらかじめ開けていた窓から入り、最短ルートで階段を駆け上がる。
「思ったよりもセキュリティが甘いな」
「そういったことはある程度専門知識がないと難しいですよ」
「レヴェリッジの屋敷はセンサーだらけだったけど……ここか」
「はい」
2階の隅の部屋。
ここだけは異常にセンサーが張り巡らされている。
恐らく、普通にドアを開けるとアウトだろう。
「さすがにドアの中にある機巧装置はどうにもできないのですが、どうしますか?」
「機巧装置はご存じのとおり結構熱とか電気に弱くてな」
「なるほど」
風の魔宝石に入れ換えると、
「電圧」
バチ、と一瞬電気が走る。
“眼”で確認するが、どうやら装置は止まったようだ。
「行くぞ」
「はい」
ドアを開く。
部屋の中は、屋敷の外観からしても部屋の主が女性であることを考えてもかなりシンプルで、全体的に物が少なかった。
「あら?お兄様ですか――――!?」
「少しお邪魔する……なるほど、そういう事情か」
机の前で機巧装置の設計図を書いている少女は、車いすに乗っていた。
ここが2階であること、そして階段からは遠く、昇降機もないことからほとんど軟禁状態と言っても過言ではない。
「アイヴィー・サイアーズ、であってるか?」
「はい。侵入者さん。私がアイヴィーです。何か御用ですか?」
「あまり時間がないから単刀直入に言うが、サイアーズを捨てて一緒に来ないか?」
「は……?あの、私はこんな体ですし、正直役に立たないと思いますが、ええ。容姿は悪くはないと思いますけど、愛人にするには厄介な女ですよ?」
「EVEを開発したのが貴女だという事はわかっているし、レイモンドが商才があるだけの阿呆だという事もわかってる」
「……お話を聞かせてもらえますか?」
弱弱しい表情を捨て、アイヴィーが問いかける。




