#scene 02-20
「今日は中々いい出会いがあるな。手持ちの駒が増えて嬉しい」
バイクで軽快に飛ばしながらナギが笑う。
コルデの街を迂回し、再び街道に戻る。このまま道なりに行けば王都ルシュールにはあと数十分でたどり着くだろう。
「しかし、あの商人も大変ですね。サイアーズはどこまで傲慢になっているのか」
「まあ、大陸中から発注が来るのも仕方ない気がするけどな」
「お爺様には真剣にナギ様の所に引っ越しをして頂きたいものです」
「領地持ってたら運営ごと任せてもいいんだけど、領地持ってないからなー」
「もしナギ様が領地を持っていたら、もっとすごいことになってそうですけど」
「そうかな」
「そうです。ねえ、リュディ」
「そうですね。ナギさん頭いいですから」
「ちょっと悪知恵が働くだけだよ。それに領地もらっても運営するのに人が足りない」
「現時点で“太陽”に匹敵する戦力があると思うのですが、これ以上強くするおつもりで?」
「目標はもし“太陽”がせめて来た時に逆に滅ぼせるぐらいの戦力だな」
「……さすがにそこまで行くと国に睨まれますよ」
「まあ、一応帝国貴族だから、国に縛られてるんだよ。あんまり言う事聞く気はないけどな」
「ナギさんらしいですね……?どうしたの、ミト」
「きゅう……」
「どうかしたのか?」
「お腹すいたらしいです」
「もうそんな時間か」
ナギが一度バイクを止める。
「昼ご飯にしようか」
「きゅい!」
街道の傍の草原におよそ旅の途中とは思えないようなしっかりした造りのテーブルと椅子を並べ、携帯コンロとフライパンを出す。
「何にしましょうか」
「あまり手の込んだ料理はできないが……鶏肉でも焼こうか」
「それでしたら私にお任せを」
「じゃあ、シャノンに任せる」
「あ、はい!私もお手伝します!」
「リュディは魔法で水を出して、この野菜を洗ってくれ。人参と玉蜀黍はシャノンに渡して火を通してもらってくれ。残りはサラダだな」
「わかりました!」
「ナギ様、調味料は好きに使っても?」
「任せる」
シャノンはお嬢様だが“太陽”での経験か、料理もこなす。
リュディも農村に居たためか、特に問題なく料理を手伝っている。もっとも、リュディの方はそれほど調理方法に明るくないようだが。
ナギは、余った野菜と肉をミトに与えながら、テーブルの上でドレッシングなどを作っている。
後ろから見ているとこの二人、髪の色こそ違うが本当の姉妹のように見えなくもない。
「ナギさん、お皿出してもらってもいいですか?」
「あ、ああ。ごめん、忘れてた」
皿を手渡すと、リュディがサラダの盛り付けを始める。
「しかし、さっき教えたところなのにもう魔法を使いこなしてるな」
「えへへ、褒められましたよ、お姉ちゃん……あ、すいませんシャノンさん」
「いいんですよ。よかったですね、リュディ」
エプロンで手を拭った後、リュディの頭を撫でるシャノン。
「妹でもいいのですけど、私とナギ様の養子などいかがでしょう」
「さすがにそれはちょっと歳が近すぎるな」
「ならば妹などどうでしょう」
「最近妹一人出来たからなぁ……まあ、いいか」
「いえいえ、そこまでしてもらうわけには……」
「まあ、家名を奪ってしまうのもどうかと思うからしないけど、一応身元引受人はオレになってるから」
「そうだったんですか!?ありがとうございます」
時折すれ違う通行人を追い抜き、驚かせながら黒い二輪は進む。
「そういえばナギさんは初めから錬金術を使えたんですか?」
「いや?最初は魔術師志望だったんだけど、弟子入り先を間違えたというか」
「……そんな理由でそこまでの錬金術師におなりになったんですか」
「まあ、短い期間だったけど兄弟子が居て、その人がすごい良い人だったからな」
「いい人“だった”ですか?」
「去年のだったかな、ルーツの独立戦争に巻き込まれてな。死体だけ帰ってきたよ。その後、師匠と一緒にブロッキに移動して、オレは旅に出たわけだけど」
「そうだったんですか……」
「機巧系はややこしいとかで苦手だったみたいだけど、オレよりもよっぽど優秀な錬金術師だった。薬に関しては兄貴に最期まで勝てなかったよ……どうした、シャノン」
口数が急に少なくなったシャノンの名前を呼ぶ。
「……私はルーツ側として戦争に参加してまして」
「それはなんとなくわかってたけど」
「負傷者に高級ポーションを配り歩く錬金術師のうわさを耳にしたこともあります。申し訳ありません」
「なんでそこでシャノンが謝る。気にしなくていい。師匠が止めたのに勝手に行った兄貴が悪いんだよ。やっぱオレも行けばよかったかな」
「ナギ様があの戦場にいれば、ルーツは勝てていなかったでしょう」
「いやいや、そんなわけないじゃん」
「そうでしょうか?」
「オレがあの場に居れば、結果は双方敗北。オレの1人勝にして見せた」
にやり、と笑いながらこちらを軽く振り返るナギにシャノンも笑う。
「そうすればもっと早く出会えていたかもしれませんね」
「そうだなぁ……その場合はシャノンと一番最初に結婚してたかもな」
「時が遡れれば私はその未来を選びますが」
「シャノンさん、大胆だね……」
「きゅい!」
リュディが少し頬を赤く染めながら、ミトの毛に顔をうずめる。
「だが、クレハもいい女だからなぁ……手放し難い」
「いっそ、死合って残った方が正妻というのはいかがでしょうか」
「物騒なこと言うな。オレとしてはどっちも手放したくない」
「それは“女”としてですか?“駒”としてですか?」
「どっちもだな」
「わかりました。それでは、奥様に合流する前に私とも既成事実を」
「……なんかやけに積極的だな。オレのいないところでお爺様に何か吹き込まれたか?」
「いえ、そんなことは……あら、リュディもいますしこの辺にしておきましょうか」
こういったことに耐性がないのか、リュディはますます顔を赤くしてミトの毛に埋まっている。
「私お邪魔ですか?」
「そんなことはありませんよ」
「というよりも、リュディがいなければシャノンはここにいないからな」
「まあ、きっかけはそうでしたね」
「そろそろ王都の城門が見え始めるころか……リュディは王都に来たことは?」
「いえ、うちは村長とはいえそれほどお金があったわけでもないですし……」
「そうか。時間があれば観光もしようか。それで、シャノン。何かおすすめのものはあるか?」
「そうですね……宿はあとで案内しますが、夕食は以前潜伏しているときに通っていいたところがあるのでそこへ行きましょうか」
「……なんで潜伏してたんだ?」
「暗殺です」
「なるほど、ありがとう……ん?」
前方、王都の門が見え始めた所で、そちらに向かって歩く2人組を見かける。
「この時間にこんなところを歩いているとは、珍しいですね」
「冒険者だろうか」
向こうもこちらに気付いたようで、振り返ると、それに驚く。
そして、嬉しそうに手を振りながら。
「おーい、止まってくれー!」
「……どうしますか?」
「轢く」
容赦なく、アクセルを回し、高速で立ちふさがる男を撥ね飛ばした。
「ぐえ」
「危ないだろうに、飛び出したら」
「……死んでませんよね?」
「大丈夫。この男のレベルならそう簡単には死なんだろう」
地面を数メートル吹き飛ばされる金髪の男。
同行していた少女は特に心配する様子もなく、王都に向かうついでのように倒れている男に声をかけた。
「ほら、飛び出したらダメじゃない!ほら、貴族サマだったらヤバいから早く謝って!」
「クラリッサ、もっとオレの事心配してくれてもいいだろ!?」
男の方は元気なようで、少女に突っかかっている。
「ナギ様、どうしますか」
「無視」
「……この方に何かおありなんですか?いつもより扱いが適当ですけど」
「できれば係わりたくないな、と思って」




