#scene 02-17
ナギは街を出ると、シャノンたちの姿を探す。
リュリュの北の街道は王都へと続くために朝のこの時間はそれなりに人通りが多い。
「あ、ナギ様」
「ああ、お前ら無事だったか?」
「それはこちらの台詞です。どうして私を先に行かせたんですか」
「まあ、リュディもいるし、見るからに頭悪そうな男だったから絡んだらめんどくさそうだったし」
「......それはそうかもしれませんけど」
「まあ、一人賢そうなやつもいたからなんとかなるだろうーーそれよりも、」
ナギはがシャノンの耳に触れる。
「え?あの、これは......」
「短距離用の無線だ。同じ街にいれば使えると思うから、念のために1つ持っておいてくれ」
「了解しました」
シャノンが一旦無線機を腕輪のなかに片付ける。
「ナギ様の周りにいるとすごい道具がたくさん出てきますね」
「まあ、それが仕事だからな」
「まあ、ナギ様は特別だと思いますけどね......」
「というか、そのナギ"様"ってのなんとかならないのか?呼び捨てでお願いしたいんだけど」
「えっと、さすがに歳上の、それも貴族の方を呼び捨てにするのは……」
「無理です」
「リュディはまだしも、なぜそこまでお前は頑ななんだよ」
隣に立つシャノンの頬をつつく。
「主人を呼び捨てになどできませんから」
「それでも" 様"は何とかしてくれよ」
「それじゃあ私はナギ"さん"でいきます」
「私は現状維持で」
「なんでリュディが折れたのにお前は折れないんだよ」
「それほど歳も変わらないのに"さん"付けだとすこし距離を感じるので 」
「"様"もかわらねぇだろ」
「いえ、これは愛情というか信頼というか狂信というか……そういった感情の現れです」
「最後のやつ物騒だぞ……さて、そろそろ本格的に移動するか」
ナギが腕輪に手をかけようとするが、シャノンがそれを制止する。
「どうかしたんですか、シャノンさん」
「敵、で す」
ナギがあたりを見回すが姿は確認できない。
「さっきの領主の追ってか?」
「違いますね。これは、恐らく……!」
ナギを目掛けて飛来した短剣をシャノンが前に割りのむと、それを弾く。
「"太陽"の部隊です。それも暗殺専門の」
「元同僚って訳か。ミト、リュディを頼んだぞ」
「きゅう!」
相変わらす何を言いたいのかはわからないが、了解の意思は感じられたのでよいとする。
軽く混乱しているリュディを放置するのはあまりよくないが、この状況では説明している暇もない。
シャノンは相変わらずこちらに飛来する短剣の処理に終われている。
「な、ナギさん!私は何をすれば!?」
「あー……じゃあ自分の回りにすこし大きめの結界を全力で張ってくれるようにミトに頼んでくれ」
そういいながらナギは紫の魔宝石を杖にいれて、大量の魔法式を展開す る。
「ミト!おねがい!」
「きゅい!」
リュディを中心にかなり強力な結界が張られる。
「シャノン、下がれ」
「はい。しかし、」
「大丈夫だ。全部消し飛ばす」
「え、」
ナギの周りに展開していた魔法式が収束し、天へと上がる。そして、ナギたちの直上に漆黒の太陽が出現する。
「こそこそ隠れられるの鬱陶しいから、このあたり更地にするな」
「えええ!?」
「!?……リュディ結界の強化を!」
「え!?はい、ミトできる!?」
「きゅう!」
結界が強化されたのを確認したのち、ナギは太陽を投下した。
「いくぞ、極黒陽墜!」
真っ黒な大爆発が周囲のオブジェクトをことごとく吹き飛ばし、ナギたちを中心に大きなクレーターが形成される。
「よし」
「うええええ!?」
「とんでもない威力ですね」
「これでも死なないように手加減したんだけど。それに、今ので生き残ってるとは、中々できるな。流石シャノンの部下だっただけはある」
砕けた街道の上には障害物の陰に隠れ、ギリギリ直撃を避けた数人が転がっている。
しかし、その状態はとても戦えるような状態ではなく。装備もほぼすべて大破したような状態である。
「さて、とりあえずこれでこっちのペースだな」
「何人かはリタイアしたようですね」
「かなり手加減したんだがなぁ」
「なるほど、つまりこの出力の強大さがナギ様の開発中の端末の特徴というわけですか」
「そうそう。とりあえず、話聞こうか」
倒れているアサシンの少女の元へと歩み寄る。
「シャノン様……」
「久しぶりですね。アリン」
「とりあえず、"太陽"の所属って言うのは確かだな」
「はい、私の部下にあたります」
「まあ、オレはリュディと向こうで待ってるからどうとでもするといいよ」
「ありがとうございます」
シャノンが一礼すると、ナギはポーションを2つ渡してリュディのところへ向かった。
1つは高レベルのポーション。
1つは少量で人を死に至らしめる毒薬。
「シャノン様、どうして……」
「私は皆と違ってあれに忠誠を誓っていたわけではないですから。ただ、そこにしか居場所がなかっただけ」
「シャノン様が好きでいるというわけではないのは何となく解っていました。しかし、どうして、我々に一言言ってくれれば……」
「私はナギ様に殺され、連れ出され、救って戴きました。このまま、着いていくのが定めだと判断しました」
「…………"太陽"の上層部は貴女が死んだものとして処理しています。だから我々は真偽を調べるためにここまで来たのです」
「なるほど、まあ普通はそうでしょう。"烈槍"に腹を貫かれましたから」
シャノンが自分の腹へと視線を落としながら言う。
「よく、御無事でしたね」
「いえ、死にかけましたよ。ナギ様曰く、大腸と小腸と腎臓がダメージ受けてて、背骨も一部砕けて、子宮と右の卵巣は8割吹き飛んでたそうです。下手にかわそうとしたせいで、槍が斜めに入ったようですね」
シャノンの説明を聞きながらアリンが気分を悪そうに顔をしかめる。
「......冗談ですよね?そこまでのダメージを負えば人間は生きているのが難しいと思いますが......」
「大陸最高の錬金術師が居なければ死んでいたでしょうね......」
「錬金術師?」
ナギの方へと視線を向ける。
「......そんなことよりも、本当のところ、どうしてここまで来たのですか?上から本当に私が死んだか確認してこいとでも命令されましたか?」
「いえ、そんなことは......」
「まさか......」
「はい、我々アサシン部隊25名全員離反いたしました」
「何をやっているんですか、まったく」
「正直な話、シャノン様が単独でこなしていたような任務を我々に回されても達成できませんし......そもそも、我々を拾ってくれたのはシャノン様ですから......」
「そうですか......」
「あ、ご心配には及びません。全員正規の手続きに乗っ取ってギルドを抜けましたから。まあ、全員が統轄ギルドの異なる部署で、同時刻に手続きしましたが」
「わざわざそこまでしなくても......」
呆れるシャノン、その背後からナギがこちらにやって来る。
「悪いが、そろそろ時間が。追っ手が来ないとも限らないから」
「そうでしたね」
「我々は......」
「お前らも、しばらくは動かない方がいい。それと、分散して移動した方がいい。落ち着いて話をするのは、王国をでてからだ」
「は、はい」
「我々は次は?」
「コルデの方へ行こうと思う」
「わかりました、それでは、あなたたちはオーブリー経由で法国に入りなさい」
「落ち合うならドローテがいいだろう。着いたら連絡してくれ」
ナギが数字の書いた紙を手渡す。
「統轄ギルドで通信機を借りてください。それと、太陽の手に渡らないように」
「そ、それはもちろん気を付けます」
「それと、せっかくだから1つ仕事を頼みたい。構わないか?」
「え?はい......しかし、いいんですか?我々なんて信頼に値しないでしょう?」
「只の暗殺者ならそうだが、シャノンの部下なら信用できる。とりあえず、前金でいくらか払おう。金貨10枚ぐらいでいいか?」
「え!?あの、その!?シャノン様!?これは......」
「こういう人なのです。あまり気を許すと私のように取り込まれるので気を付けてください」
「え!?あ、はい......それでどんな仕事を?」
「オーブリーによって領主の家とそのあたりの人間関係について洗いざらい調べてきて欲しいんだけど」
「わかりました、お任せください」
金貨を渡す。
「それでは、ドローテで会いましょう」
「わかりました。意識のあるものは気絶しているものを担いで散れ!半数は私とオーブリー、半数は王都へ先行しろ!」
「さて、じゃあオレたちは今日中に王とを目指そう」
「はい、リュディ。もう大丈夫ですよ」
「は、はい!」




