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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#02 銀の暗殺者編
50/131

#scene 02-13




その後、食事を御馳走になり、リュディは女性使用人たちに風呂場に拉致られてしまったため、シャノンと二人で執務室の戸を叩く。


「お祖父様、参りました」

「入るといい」


戸を開き、中にはいると、アーケインの座る正面のソファーに腰かける。


「さて、なんの話をしたいって?」

「率直に言うが、技術を売ってくれ」

「なるほど、予想通りだ」


ナギが、自分のロッドを取りだすと、テーブルの上に置く。


「これの仕組みがわかりますか?」

「これは……古代の遺物(アーティファクト)かと思ったが、どうやら違うな。機巧式の情報化、という奴か」

「正解。昔、ジジ――師匠が研究してて挫折した奴を完成させた」

「なるほど、しかしこれではお主クラスの錬金術師が何人もいないと量産するのは難しいな」

「だろう?まあ、情報化しなくてもある程度は縮小できるが……」

「そうなのか!?是非、技術を提供してほしい」

「んー……帝国軍に売りたい機巧道具がいくつかあるから、そっちの量産を頼んでもいいけど。どうせその技術がないと作れない物だし……」

「一体それは?」

「だが、1つ条件がある」

「なんだ?御主のような者のことだから、どうせ金銭で解決できるような条件はではないのだろう?」

「まあな」


ナギが一呼吸おく。


「アーケインさん、レヴェリッジ社が王国から撤退して共和国か帝国に移ろうとしているというのは本当ですか?」

「……よく知っているな」

「私も初耳ですが」

「サイアーズとは勝負をするだけムダと思ったわけでしょう?」

「サイアーズは金で王国内の市場を占めてしまった。もはや、この国にレヴェリッジの未来はない」

「まあ、それも王都に行ったときに解決できるかも知れないけど……」

「しかし、あちらには天才機巧術師レイモンド・サイアーズがいる」

「レイモンドねぇ……」


ナギが笑いながら言う。


「何かあるのですか?」

「まだ確めてみないと判らないけど、オレの眼で見た限り、あの機巧装置の制作者はアイヴィー・サイアーズっていう女だ」

「何?」

「つまり、彼女が創っていることを隠さなければならない理由があると言うわけですか?」

「そうなるな」

「なるほど、サイアーズの弱味か……」

「それにもう一息でサイアーズを超える機巧装置が創れるかもしれない」

「なんだと!?」

「お祖父様、落ち着いて下さい」


身を乗り出したアーケインをシャノンが制する。


「あのEVEを超えることができると?」

「ああ、今オレが使ってるもので、分野は違うがあれに勝っている点がある」

「それは?」

「戦術級を超える威力の魔法を扱うことができる」

「……そんなものが存在するのか?」

「一発撃ってみてもいいけど、街が8割消し飛ぶが?」

「"太陽"でもそのようなものを眼にしたことは有りませんが」

「まあ、作ったのオレだし……まあ、とりあえずだ。サイアーズに対抗する手段はいくつかある」

「……なるほど。それで条件というのは?」

「移転先を帝国に絞って貰いたい」


ナギが言い切る。

アーケインは一切怯まず返答する。


「……それは何故?」

「まあ、一番大きな理由は帝国軍向けの機巧式の装置の量産と販売を依頼したいからかな。とにかく王国に有るままではその依頼をしにくい。ここに来るまでにコルテスを見てきたけど、帝国軍はかなり王国に対して警戒している。ただ、帝国内の企業ではレヴェリッジやサイアーズに比べるといくらか技術力が劣る」

「なるほど」

「あとは、リュリュでは鉱石の入手が間に合わない可能性がある」

「そんな量を作る気なのか?」

「レヴェリッジがルーツ方面から仕入れてるのは知っているけど、ルーツと王国の情勢を鑑みるに、これからもっと仕入れは難しくなると思う」

「なるほど一理ある」

「まあ、最後に付け加えるとしたら、王国が好きじゃないっていうのもある。このままここでレヴェリッジが大きくなったとして、確実に国の上層やここの領主様とやらが潰しにくるだろう?」

「……わかった。移転の件は検討しておく」

「これから帝国に向かうから、いい土地があったら連絡するよ……それで、なんだけど」


ナギが立ち上がると、アーケインの机に設置された受話器に触れる。

内線用の奴ではなく、もう1つ設置されているものだ。


「この都市間通信用の通信機の機巧式を教えて欲しいんだけど」

「ふむ……それは、高くつくぞ?」

「そうだな……それじゃあ、教えてくれたら引っ越しの費用をいくらか負担する、というのは?」

「お主がそれでいいのなら。だが、相当な費用になるぞ?恐らくほぼ全て再建することになるし、こちらに一切残さない用に破棄する必要もある」

「まあその辺は何とかする。金策は得意分野だし、壊したり消したりするのはもっと得意だ」

「ならば、契約をしよう。シャノン、金庫から通信機の機巧式の資料を出してくれ」

「わかりました、お祖父様」


シャノンが金庫のもとへ行くのと同時に、アーケインはなれた手つきで契約書を書き上げる。


「それじゃ、サインしておく」

「ナギ様、これが資料です」

「ありがとう、シャノン。これはレヴェリッジでしか取り扱ってないみたいだから、ここに来たら是非見たかったんだ」

「まあ最近は、王国貴族がサイアーズにも譲れと、吠えているがな」

「なるほど……16桁の数字、それも2進数か……街道のポールが中継して……なるほど……」


一心に資料を読むと、ナギはさっそくいくつかの材料を取り出して、組み立て始める。

もっとも、錬金術を使うためその作業は数秒でおわるのだが。


「とりあえず、完成。個体番号の割り振りはどうなってる?」

「16桁で設定できるが、実のところ8桁しか使っていない。9桁以上なら好きに設定してくれて構わない」

「わかった……それじゃあ16桁に設定、入力は16進数に変換して入力数を削減……さて、あとは情報化して……完成」

「この短時間で改良したのか!?」

「とりあえず、使えるか試していい?」

「あ、ああ、これがそこの番号だ」


渡された紙に書かれた番号を入力。

直後、ベルが鳴り、アーケインが受話器をとる。


「『繋がってるか?」』

「ああ、問題ない」

「あとは、機体の縮小と画像、映像、文字の送信、それに空中投影型のディスプレイや入力キーが創れればいいと思う。個人レベルで扱えるようにしたいならとりあえず番号の数を増やさないと無理だろうけど」

「……中々難しいことを言う、が、面白いな!」

「お祖父様、はしゃがないでください」

「シャノン、この男を何としてでもものにしろ。シュヴランとレヴェリッジが手を組めば大陸の市場を占めることも難しくないぞ」

「しかし、ナギ様の言った機能を実現するのはかなり難しいと思いますが」

「いくつか案はあるんだけど、試行する暇がなくて。あれだったらこの研究を任せてもいいし、いくらか出資もする」

「わかった、考えておく。こちらでも方法を探ってみるが、すべては引っ越しが終わったあとだな?」

「そうそう、話がわかるね」

「お祖父様の生き生きとした表情を見るのは久々ですね」

「最近はつまらない仕事ばかりしていたからな。今日のことは前向きに検討しておく」

「シュラインになにも告げずに決めていいのですか?」

「確かに奴に次がせるといったが、この苦しい状態で渡したいとは思わない」

「そうですか……」

「とりあえず、話は以上だけど、他に何かあるか?」

「いや、無い。シャノンをよろしく頼む」

「任せてくれ。じゃあ、帝国に着いて、移転先に検討がついたら連絡する。実際に動くかどうかはそれからでいい」

「わかった。それと、シャノンもそれなりに機巧式の技術を持っている。うちの製品のことなら、火薬式の武器ならシュラインよりも詳しいだろう」

「なるほど……結局なんで家出したんだ?家との折り合いは悪くないみたいだけど」


ナギの質問にシャノンが答える。


「両親が事故で死んだ直後で、お祖父様がてんやわんやしている隙にここの領主の馬鹿な息子が私との婚約を盾に事業部の部長になろうとしたためです」

「まあ、あの無能な跡継ぎに可愛い孫娘も会社もくれてやるつもりはなかったがな」

「貴族ってのは馬鹿だな」

「あなたもその貴族では?」

「忘れてた」

「……滅茶苦茶ですね」

「仕方ないだろう?親父様が爵位持ってたなんて死んだあとに知ったし……そもそも死んだのも最近知ったし……爵位を継ぐ手続きも勝手にされてたし」

「…………滅茶苦茶ですね」

「まあ、とりあえず今日はゆっくり休んでくれ。シャノンはシュラインを見かけたらここに来るように声を掛けておいてくれ」

「わかりました。それではナギ様。私達もお風呂に入りましょうか」

「一応聞いておくけど、混浴?」

「さすがに男女分けて作るほどの余裕は有りませんので」

「まじかー……不安しかないなー……ああ、そうだ。アーケインさん、鍛造で鍛冶できる設備あるなら貸して欲しいんだけど」

「構わないが、職人たちに見学させてやってくれ。シャノン、後で案内してやってくれ」

「わかりました。それではとりあえずお風呂に参りましょう」

「え?マジなの?」

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