#scene 01-04
「会うのは良い。だが、やはり少し待ってくれ。もしくは、彼女を連れて来るといい」
「……どういうことか説明が欲しいわ」
まあ待て、というとナギが厨房に消えていき、グラスを三つ持って帰ってくる。
それにどこからかとりだした瓶入りのジュースを注ぐ。
そして、一口口を付けたあと再開する。
「今、大陸中を見て回っててな。次は王国方面に行く予定なんだ」
「その予定、変えてはもらえないのかしら?」
「んー……できれば、変えたくはないかなぁ。王国は今ぐっちゃぐちゃみたいだから、今行った方が面白いだろうし」
「悪趣味ね。でも、会う意志はあるのね?」
「ああ、帝国を拠点にするつもりだから、そこへ連れてきてくれてもいいし、落ち着いたらこちらから出向いてもいい」
「わかったわ。それで、一先ずその手紙を届ければいいのね?」
「察しがいいな。そういう事だ」
今しがた書き終わった手紙を丁寧に折ると、クレハに渡した。
「それじゃあ、これで仕事の話は終わりね」
「おーけー」
「えっと、次の話に行く前に私の質問に答えてほしいんですけど、どうでしょう?」
かなり混乱している様子のジーナが涙目でこちらを見る。
「いいけど……何が聞きたいんだ?」
「まず、ナギさんとクレハさん共通で聞きたいんですけど、お二人の出身は?」
「うーん……信じてもらえるかどうか」
「そうね……ミロスラヴァ共和国初代大統領シン・カミナと同じとでも言っておきましょうか」
「えっと、そうなると、ニホンという別の大陸の国、ですか?」
「ん。そんなかんじ」
「……そ、それでは、ナギさんがアウグスト・シュヴランの弟子というのと、クレハさんがヒューゲル家の姫というのは本当でしょうか」
「後者は知らないけど、前者は事実だと認める。というかあまり他に話さないでくれよ。媚び諂われるのあまり好きじゃないから」
「姫かどうかは知らないけど、娘が欲しかったようでずいぶん可愛がってはもらったわ」
余計に混乱したようで目を回すジーナ。
ナギはとりあえず飲み物を勧め、彼女を落ち着かせる。
「そういえば、クレハは中二ぐらいの時にこっちに来たんだよな?」
「ええ、当時は燥いだものよ」
「だろうなぁ……何故か日本語は通じたのに文字体系が全然違うから困惑したもんだ」
「文化レベルもかなりアンバランスに発展していた驚いたわ」
「だよなぁ……帝国や共和国の貴族の間では自家用の機巧自動車を作るのがステータスみたいになりはじめてる反面、食のレベルは中途半端に低いままだし、映像や音声の記録は割と発達してるのに通信ができなかったり……」
「どうやら、先人たちは随分中途半端な発展のさせ方をしてきたみたいね……」
「エクトル鋼なんてよくわからん金属が存在するせいで金の価値も低いし、中途半端な世界だなほんとに……」
ナギ達の会話にジーナはぴんときていない顔をしている。
「そういえば、貴方は帝国に行って何するのかしら?」
「あー、そうだな。とりあえずギルド創って、そこからは好き勝手に生きようかなと思ってるけど。というか、商会通さずにポーション売りまくってるから、そろそろ怒られると思うんだよなぁ……」
「ナギさん、ほんとに何やってるんですか……」
「個人ギルド創ってしまえばこっちのもんだろ?2万Eで創れるんだからみんな作ればいいのにな」
「半端な力しかないギルドは周りから圧力かけられて潰されてしまいますからね……」
「力ねぇ……そうだ、クレハ。お前さん、うちのギルドに入らないか?」
「ふふふ、そろそろ誘われるんじゃないかと思ってたわ」
グラスの中の飲み物を一口口に含む。
「そうね、じゃあ……私に勝ったら、っていうのはどうかしら?」
「いいねぇ、そういう展開嫌いじゃないぜ?」
「な、ナギさん。いくらなんでも無茶では?ヒューゲルの姫はヒューゲル流剣術の型を皆伝してるって聞いたことありますし……」
「ええ、さすがに全部は無理だったけど、一の型と二の型、それと六の型の3つだけね」
「……大陸最強の剣術の10ある型のうち3つも皆伝してるってお前本当に人間かよ」
「それをあなたが言うのかしら?」
2人は視線を交わしたのち、ほぼ同時に立ちあがる。
「ホントにやるんですか!?」
「とりあえず、そこの広場でいいな?ジーナさんも混じるか?槍術師Lv.8なら、クレハともそれなりに立ち会えるだろう」
「な、なぜそれを!?」
一切明かしていないはずの自分の能力を知るナギに驚愕するジーナ。
しかし、ナギはそれだけ言い捨てて外へ出て行ってしまう。
「あの人、一筋縄ではいかなそうねぇ……ところで、Lv.8って大陸に10人ほどしかいなかったんじゃなかったかしら?貴女、まさか“蒼き太陽”の所属?」
「い、いえ!違いますよ!というかそんな恐ろしい疑いを掛けないでください。法国に出入りできなくなるじゃないですか!」
“蒼き太陽”とは大陸最強といわれる傭兵ギルドである。
しかし、それは表の姿で、裏ではその強大な戦力を用いてテロへの加担などをしているなどかなりアウトローな連中だが、各国の代表たちの中にはお世話になった者も少なくないとかで表だって摘発することができない状況にあるらしい。
その性質上、メリザンド法国に所属する聖騎士団とかなり激しく衝突しているとも聞く。
「2度ほど戦ったことあるけど、やっぱり強いわね。あそこのギルド」
「私も仕事で一度だけありますけど、佐官クラスになってくるとかなりギリギリでした」
「佐官とはやりあったことないわねぇ……というかそう簡単に出会えるものなのかしら。相当場数踏んでないと無理じゃない?」
「ええ!?」
「なんでそんなに驚いているのかしら……」
早まりました、とつぶやくジーナを連れて、指定された広場に向かうクレハ。
先についていたナギは何やら奇妙な動きをしていた。
「……何をしているの?」
「ちょっと準備運度をな。急に動くと色々痛めるから」
「軟弱ね」
「ほっとけ。それより、アンタも魔力は多いけど魔法適正値がそこまで高くない感じか?」
「ええ。というか視えているんでしょう?」
「さて、何の事だかわかりかねる」
話をごまかすと、ナギはジーナに声を掛けた。
「すまん、ちょっと人払いを頼む。死人がねないように」
「えええ!?そんなに本気でやるんですか?」
「オレが避けたばっかりに、後ろの奴がスパッと逝ったりしたら寝覚め悪いだろ?」
「私が本気で獲りに行って、躱せるかしら?」
「恐ろしいこと言いやがるぜこの女……」
ジーナが野次馬達に下がるように言う中、2人は条件を再確認する。
「さて、じゃあ貴方が勝ったら私が貴方のギルドに入ればいいのね?私が勝ったら?」
「そうだな……これをやろう」
ナギが自分の手首に嵌った賢者の腕輪を指して言う。
「どうせいくつか数作っているんでしょ?」
「バレたか……じゃあ、今大陸で幻の酒と言われているこの清酒を「それでいいわ」速いな……というかまだ未成年だろ?」
「あら、こちらでは成人しているわよ?」
「そうでした」
クレハが剣を抜く。
「あら、そういえばあなた、武器は?」
「ああ、そうだったな……今はまだどうせ何使っても一緒なんだけどな」
そういうと地面に手をつく。
一瞬、その場所が強い光に筒案れたと思った次の瞬間、地面に大きめの穴が開き、ナギの手には銀色に輝くロッドが握られていた。
「なるほど、やっぱりそれなりのレベルの錬金術師なのね」
「まあね、そちらも只者ではないと見たけど?」
「どうかしらね?」
ジーナによってかなり距離のある場所まで下げられた野次馬達が息をのむ。
かなりの緊張感が周囲には漂っている。
ナギが取り出した銀貨を指で高く弾く。
くるくると回転しながら昇ったそれは、徐々に加速しながら地面へと戻り、高い音を響かせて地面に着いた。
それと同時に、クレハが動き出す。