#scene 02-10
「結局のところ、リュディヴィーヌはなんなんだ?その辺の村の出身にしては、家名もあるし、上等な服を着ていたようだが?」
「わかりますか。彼女は先日伯爵の兵たちが焼き払った村の村長の娘になります」
「なんだって自分の領地の村を焼くことになったんだ?」
瓦礫の上を歩きながらナギが問いかける。
「村長のルシェ家が増税に反発したためですね」
「くだらない。戦争したけりゃ勝手にしてろよ。普通に生きてる人間を巻き込むなよ」
ナギが瓦礫の上にしゃがみ手を当てる。
「この真下だな」
「掘りますか?」
「いや、いい」
そのまま魔力を練る。
「周囲一体の瓦礫を、エクトル鋼に錬成」
光と共に、瓦礫が消え失せ、ナギの手のなかに銀の塊が出現した。
「すまん、拾ってきてくれ」
「ありがとうございます」
出現した穴のなかにシャノンが飛び込み、しばらくして毛玉と少女を一人抱えて戻った。
「無事か?リュディヴィーヌ」
「はい……あの、出てもいいんですか?」
「いいんですよ。ナギ様と一緒に街を出ましょう」
「毛玉も、よくリュディヴィーヌ護りきったな」
「キュイ!」
誇らしげな毛玉を一撫でし、リュディヴィーヌに渡す。
「さて、脱出するか。どこか出れそうなところはあるか?」
「ありません」
「……強行突破か」
ナギが門を眺める。
「それしかありませんね」
「そうか、ならまず街の方に降りよう」
ナギは着ていたコートを脱ぐとシャノンに着せる。
「あの……これは?」
「お前、結構際どいところまで破れてるからな」
「……ありがとうございます」
「……シャノンお姉ちゃんうれしそう?」
「きゅい?」
瓦礫を越えて、街の方へ向かうと、野次馬たちの視線が集まる。
唐突にナギが声を張る。
「おい、お前ら!こんな街にいてもいいことはないぞ、これをもってオーシプヘ向かえ!」
ナギが金貨をばらまく。
野次馬たちが殺到し、近くにいた兵たちが慌てる中、リュディヴィーヌの手を引いて門の方へと走る。
「シャノン、兵の数は?」
「39です」
「それぐらいなら、なんとか逃げ切れるか」
ナギが前を向く。
既に男たちが銃を手に、こちらに何やら叫んでいる。
「シャノン、リュディヴィーヌを抱えて走れるか?」
「少々厳しいです」
「だろうな。なら牽制しながら頼む」
「了解しました」
ナギが極大の火球を放つ。
「門破りましたね」
「外に出ればどうとでもなる。走るぞ」
「きゃっ!?」
リュディヴィーヌを抱えあげ、ナギが加速する。
その後ろをシャノンが、持っていた機巧銃で牽制しながら続く。
「毛玉、門抜けたら障壁だ」
「きゅい!」
ナギが門に開いた孔を潜り抜ける。
「シャノン、急げ」
「はい!」
その年、シャノンにとっても予想外の敵が現れる。
実際にはその姿が目の前に現れたらわけではないが、どこからか飛来した槍は門を潜る寸前のシャノンの下腹部を貫いた。
「まさか……!?」
「お姉ちゃん!?」
「毛玉、このままリュディヴィーヌ守ってろ!」
リュディヴィーヌを下ろしたナギは真っ直ぐシャノンの方へと走る。
「どこから撃ってきた!?」
シャノンの元へと辿り着くと、彼女を抱き上げながら、敵を探す。
「ぅ……おそらく、ですが、Lv.9の槍術士、ライラックです」
徐々に弱まる声。
とにかく、この場からの脱出を最優先にナギが走る。
「っ、はぁ、はぁ……これは、助かりませんね」
「しゃべらなくていい」
ナギが余計な部分切断したが、傷口に槍はまだ刺さったままだ。
「大動脈が破れてるかもしれない。背骨もヤバいな……腸も傷付いてそうだ」
「んっ……く、ぁ……ふふ、医学的な知識はありませんが…………十分致命傷です、ね」
「リュディヴィーヌ、悪いけど自分で走ってくれ!毛玉は全体に加速魔法だ!」
「は、はい!」
「きゅい!」
魔法が発動し、ナギたちは大きく加速。
休まずに街道の中間辺りまでくると、繁みの奥に身を隠した。
「く、はぁ、はぁ…………あ……」
「ナギ様!?お姉ちゃんは!?」
「少し離れてろ、見ていて気持ちのいいものじゃないぞ」
「え、で、でも」
「……わかった。ちょっと我慢してろよ。リュディヴィーヌ」
ナギはそういうとまず背の孔にポーションを掛けた。
「っぅああああ……!?」
「少し我慢しろ」
そして、未だその体を貫いている槍をポーションで徐々に傷口を塞ぎながら抜いていった。
孔からは赤黒い血が溢れ出る。
悲鳴をあげるシャノンと、口を押さえて震えながらそれを見つめるリュディヴィーヌ。
「シャノン、飲み込め」
そういうと噛み砕いた増血の丸薬と水を口に含み、口移しで飲ませる。
「少し中弄るぞ。耐えろ」
シャノンが歯をくいしばって欠けないように、自分の左手を噛ませると、体に開いた孔の中に、アルコールで消毒した手を突っ込んだ。
「ぃ、ぎぃぁ!?」
「ポーションで治すにしても、ここまでぐちゃぐちゃだとまずい。骨の位置もなんとかしないと」
6割ほど欠損した内臓ーー子宮をまともな位置まで動かし、直接ポーションで修復する。
シャノンは声にならない声を漏らしながら、ナギの手を噛み締める。
「もうすぐ終わる。もう一回増血をつかう。飲み込め」
シャノンに再び口移しで増血丸を飲ませ、傷口に少しずつポーションを落としていく。
「すごい……治ってきた」
「まだ油断はできない。リュディヴィーヌ、このポーションをシャノンに飲ませてくれ」
「は、はい」
リュディヴィーヌがシャノンの頭をすごい持上げ、ゆっくりとポーションを飲ませていく。
すでにポーションの空き瓶が、何本も転がっている。
「毛玉、ここら一体を浄化できるか」
「キュウ!」
ナギが後片付けをしているうちに、シャノンは気を失ったようだ。
「お姉ちゃん……」
「今のところは大丈夫だ。とりあえず少し移動しよう。このままだと追い付かれる」
「は、はい」
「リュディヴィーヌもポーションを飲んでおけ。体力が持たないだろう」
「え、ありがとう、ございます」
「毛玉、リュディヴィーヌを頼む」
「きゅう……」
「どうした?」
「あの、魔力が足りないって」
「さすがにお前でも魔力切れか、なんか食ったらいくらか回復するか?」
「きゅい!」
適当に取り出した野菜の欠片や魔物の肉を与えてみるとあっという間に完食し満足気な顔をしている。
「さ、移動するぞ」
シャノンを抱き上げる。




