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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#02 銀の暗殺者編
46/131

#scene 02-09


既にお互い何度の死を経験したのかわからない。

灰色だった世界は粘着質な朱の色に染め上げられている。


その中で2人は永遠と斬り結びあっていた。

正式には斬り結びあうという表現は正しくないのかもしれない。それは、お互いに一撃で仕留めるような技ばかりを撃ち合っているからだ。


「そろそろ飽きたんだけど、オレ」

「招待したのはそちらでしょう。もう少し遊んでくださいな」

「人に言えた話じゃないけど、もはや精神力が強いとかそういうのじゃなくて狂ってるぞお前」

「よく言われます。ですが、」


ナギを打ち倒し、シャノンが笑う。


「自分より強い相手と永遠戦えるなんて経験はそうそうできるものではないですから」

「あーあ、技使う相手間違えたなぁ……まあクレハに使ってても同じことになってた気がするけど。ジジイは3分で発狂したから酒瓶で殴って正気に戻したんだっけな……」

「……老人虐待ですか?」

「なんか調子に乗って修行の成果を見せて見ろ、とかいいながら、調薬と錬金術しか教えてない癖に襲い掛かってきたからついな」


ナギはもはや戦う気は無いようで、赤い瓦礫の上に腰を下ろした。


「さて、ここからどうするか」

「どうなさるつもりですか?断言はしませんけど、私そう簡単には壊れませんよ?」

「だろうなぁ……というかお前、なんで蒼き太陽(ブルー・サン)なんかに入ってるんだ?」

「単純な話、家出して放浪してたら腕を買われまして。暗殺者(アサシン)なんてジョブを極めてもできることは限られてますしね」

「なるほどな……そうだ、シャノン。お前、ウチに来ないか?」

「……貴方は翼の冒険者ではなかったんですか?」

「いや、最近ギルドを立ち上げてな。絶賛メンバー募集中なわけよ」


ナギが何やら旗を取り出して、瓦礫の上に突き立てる。

黒地に金の刺繍で、星を飲み込もうとする環を描く龍の姿が刺繍されている。


「オレたちは黒き新月(クレセント)。募集する人員は職業クラスLv.8以上の人間。審査有り。戦闘以外にも才能を持つならば良し、適度にイカれていると尚良し。ギルドマスターはこの私、ナギ・C・シュヴラン。そしてサブマスターは嫁のクレハ・ヒューゲル=シュヴラン。現在団員数2名。総資産はおよそ1400万E(エスト)

「どうしてたった二人でそこまでの金額を稼げているのかが不思議ですが、何故私の様な汚れた人間を誘うのですか?」

「別に汚れてるとは思わないけど。オレだって必要に駆られれば人ぐらい殺すさ。敵に温情をかけすぎると寝首をかかれるからな」

「私なんかを仲間にすると確実に寝首をかかれると思いますが」

「まあ、その時はその時だな。その時はお前を落としきれなかったオレの負けだ」

「そうですか」


シャノンは短剣をナギの首筋にあてる。


「どのみち私がこれから解放されるにはそれに従うしかないのでしょう?」

「まあ、そうとも言う」

「この場では仲間になると言っても、戻った瞬間あなたを殺すかも知れませんよ?」

「それはないな。それに、ひとつ言っておくけど、この瞬間もオレは戻ろうと思えば戻れるし、実際何度か術を抜けてるんだぜ?だからお前の能力をコピーできてるわけだし」


ナギに剣を向けるシャノンの後ろから、ナギが複製したシャノンが彼女の首に刃を当てる。


「まあ、オレとしてはお前みたいないい女ここで獲り逃すのは惜しいし、このまま太陽なんかに居られても嫌だから、断るなら殺すよ」


ナギの眼が初めて真剣なものになる。

一瞬萎縮したシャノンだったが、しかし、すぐにその眼力は弱まる。


「……まあ、嘘だけどね」

「どっちですか」

「いやだって、既に結構心動いてるみたいだし、このまま放っておいても多分すぐに殺されるなんてことはないと思うし」

「……そもそも、私は大陸最強の武闘派傭兵ギルドのメンバーですよ?裏切れると思っているんですか?」

「なんか呪いとか掛けられてるのか?」

「いえ、さすがにそういうのはないですけど……」

「じゃあ、問題ない」


ナギが旗を片付けながら立ち上がる。


「答えは向こうで聞くよ」

「え!?ちょっと、」

「じゃ」


視界が白く塗りつぶされた。

次に目を開くとそこには先ほどまでの瓦礫の山と、街の灯があった。

自分の身体は瓦礫の上に寝かされている。ナギは反対側の瓦礫の上に座っていた。


「で、どうする?」

「……私を引き抜いたら、私と共に蒼き太陽に追われることになりますが?」

「上等。たまにはまあまあ強い奴と戦わないと腕が鈍るしな。それに、正直のところ太陽だと“元帥”様以外は一人でも相手できたりする」

「ご冗談を。私を含めてLv.9が3人いるんですよ?それに、元帥は竜騎士Lv.9。人間だけでも強いのにその上龍の相手までしなくてはならないとなると……」

「亜竜なら倒したことあるんだけどな……Lv.10の錬金術師とLv.10の剣術師では足りないか?」

「れべる、じゅう?そんな創世神話でしか出てこないような存在ではないですか」


ナギがカードを情報公開の状態で投げ渡す。

確かにそこには10の文字が。


「嘘は言ってないつもりだが」

「証拠を出されては信じるしかないですね……」

「それでどうする?」

「1つ条件が」

「言ってみろ」

「リュディを連れて行ってもいいでしょうか」

「なんでそこまであの子にこだわるんだ?」

「何故でしょうね。あの子の唯一の肉親であった姉は私が殺しましたので、その負い目を感じているのかもしれません」


シャノンは手を握りしめ、見つめる。


「あの子には伝えたのか?」

「はい。あの子も少し発育は悪いですが13歳です。理解はしてくれていると思います」

「10歳ぐらいだと思ったけどもう少しでかかったか……というかなんでそんな状況になったんだ?」

「……女性の虜囚の扱いなんてものはわかりきっていることですよ。私が少し目を離した隙に、部下の男たちがいろいろやってくれまして。“蒼き太陽”では一応そういったことは禁止されているためにその男たちはもうこの世にはいませんが、リュディの姉はもはや憔悴しきっていましたし、殺してくれと強く懇願されましたので」

「なるほど……まあ、なんの情報にもならないリュディヴィーヌ達姉妹を捕まえたってことは、碌なこと考えてなかったんだろうけど。あの伯爵人身売買とかもやってたっぽいし・…さて、」


ナギが立ち上がり、ほこりを払う。


「そろそろ行くぞ」

「……どこへですか?」

「リュディヴィーヌを回収して、とりあえず街から出る」

「わかりました。貴方に従います、ナギ様」

「ナギでいい」

「ナギ様?」

「いや、かわいらしく小首を傾げられてもな」

「ダメですか、ナギ様?」

「いいケド、なんなのそのこだわり」

「自分より強い主人にお仕えするのが私の夢でしたので」

「絶対今作っただろその夢……あれ、マジっぽい?」


シャノンの妙に真剣な顔を見て、嘘ではないと感じるナギ。


「あーあ、なんか地雷踏んだかも」

「それよりも、地上は8割方壊れてますけど、地下牢は無事でしょうか」

「毛玉の魔力が感知できるから大丈夫だろ。こっちだな」


瓦礫の上を移動するナギにシャノンが続く。


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