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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#02 銀の暗殺者編
45/131

#scene 02-08


光に包まれ目を閉じたシャノンが再び目を開く。

周りの景色は相変わらず瓦礫の山で、足元には“灰色”の氷片や“灰色”の炎が燃えている。

振り返り、街の方を見ると、“灰色”の灯りがともっているのが見える。

しかし、喧騒は聞こえない。


すぐに気づく。

最早ここは、私の認知する世界ではないのだと。


正面を見る。

相変わらず、余裕の表情でナギが座っている。


「どうだ、この世界は。趣味が悪いだろう」

「そうですね」

「ちなみにこの技を人間に使ったのは2度目だ。130人の山賊たちを3分で死に至らしめたこの術をお前は破れるかな?」

「どうでしょう」


シャノンの眼光に再び殺意が宿る。


「術者を殺せば、終わるのではないでしょうか」

「どうだろう。まだ殺されたことがないからわからないんだけど」


瞬間、シャノンがナギの背後に移動しその首を刎ねた。

赤い血が吹き上がり、シャノンを染めていく。

胴体は瓦礫の上に崩れ落ち、色のない世界に紅を差す。


「やはり、術者はいないですか」

「まあ、普通に考えたらそうだな」


自分の立つ位置と反対側の瓦礫に立ったナギがそういう。


「これはクレハにも見せたことがない術なんだから、楽しんでよ」

「この状況でどう楽しめというのですか?」

「能力の複製なんて言うのは実はこの能力のおまけみたいなものなんだけど。でも、本気で首獲りに来てる相手に出し惜しみしてたらこっちがやられるし」

「何を一人で……」

「1人?」


ナギの隣に影が立ち上がる。

見たことがない女。女のシャノンからしても相当な美人だと思う。

その反対側には一度資料で見たことがある槍術師のジーナ・アルティエリの姿が。

そして、ナギの背後に影が立ち上がる。

こちらも資料でその顔を見たことがあった。


「アウグスト・シュヴラン……4体1ですか少々辛いですね」

「まあジジイは戦力としてはカウントしてないんだけどさ、本当に4人だけか?」

「!?」


シャノンの周りをぐるりと囲むように影が立ち上がる。


「すべて幻術でしょう」

「どうだろうな」


ナギが指を鳴らすと同時に、取り囲んでいた大量の影達がシャノンに襲い掛かる。


「本気を出しましょう」


短剣を構える。


「なるほどな」


シャノンの姿が空に溶け、シャノンを目掛けて攻撃を仕掛けていた影たちの首が一斉に狩られる。


「それが幻属性暗殺者の奥義か。なるほど、視えなかった」

「次はあなたの首です」


ナギに詰め寄り、剣を振り下ろした瞬間、隣に立っていた女が太刀を抜き、その剣を弾いた。


「!?」

「クレハには見えたみたいだな」


喋ることはしなかったものの女は頷くと、切っ先をシャノンの方に向ける。

そして無限増殖を続ける影。ほとんど戦力にならないとしてもさすがにこれだけいれば邪魔だ。

そして、駆けだした女の姿が消える。

これは自分と同じようなものではないとすぐに悟る。

単純な速度。

つまりは、見失った瞬間に自分は負けている。


「いっ、ぎ、あ………」


脇腹の肉をごっそり削り取られたような、そんな気がした。

しかし実際は、ギリギリ少しずれることができたため何とか背骨でつながっているような状態。

左半分は腹の部分で両断されているような状況。

血と肉と、臓物が溢れる。

返り血を浴びた女は刃から血を掃うと、虚空に消えて行った。


「これがオレの本当の超越奥義・夢幻錬創。楽しんでる?」

「悪趣味ですね」


傷口を抑えたまま、シャノンが何とか立ち上がる。

いくらかポーションを仕込んでいたはずだが、見つからない。


「じゃあ、ここからが本番だけど」

「―――何を!?」


ナギを取り囲むようにして10ほどの人影が立ち上がる。

シャノンにとっても見慣れた顔。


「表のオレがあんたの能力(チカラ)の複製に成功したみたいだから、せっかくだから使ってみるよ」


シャノンに襲い掛かるのは、彼女自身。

劣化複製などではなく、本物の彼女の実力を出し切ることができる。

それが、10。

それも、ナギによって完璧な連携を取らされている。


半分が視界から消え、それに気を取られた瞬間残りのうち4人が視界から消えた。

これで、ほぼどこから襲ってくるのかはわからない。

そう思っていた瞬間、正面から姿をさらして走ってきている自分が、見たこともない魔法式を紡ぎ始めた。


「……っ!?そんな魔法、私は知りませんが?」

「オレが知ってる。そんで、お前には使える才能がある。そういう事だ。それよりも、後ろ」

「!?」


ナギの声で振り向くと背後から自分が刃を振り下ろそうとしている。

ギリギリで弾くと、自分はそのままバックステップで背景に消える。


そうこうしているうちに、前方にいた自分が魔法を放つ。

その瞬間全身から力が抜けるのを感じた。


「さて、終わりだな」


ナギがそう呟いた瞬間、10の自分の刃が一斉にシャノンを貫いた。


「完全に正義のヒーローの所業ではないなぁ……」


灰色の世界を紅に染めるシャノンの身体の元へと歩きながらナギが呟く。


「う、あ………」

「まだ意識があるのか。でもまあ、安心しろ」


ナギがそう言った直後、自分の身体が癒えていくのがわかる。


「一回で終わるなんて誰が言ったよ?」


シャノンがフラフラと赤い水たまりから立ち上がる。

そして、落ちていた自らの剣を拾うと、ナギを斬りつけた。


「すごい精神力だな」


傷口から血を流しながら、ナギが言う。


「……この程度で私が折れると思わないでいただきたいものです。一度や二度殺されたぐらいでは、シャノン・レヴェリッジは折れません」

「いいね、気に入った」


ナギが笑うと、自らもシャノンと同じ短剣を手にする。


「せっかくだから死ぬまで殺し合いをしようか」


ナギとシャノンの姿が消え、中間地点で剣戟と音が響く。

お互いの攻撃を弾くと、そのまま下がりながら姿を隠す。

1度目の交戦で先に倒れたのはナギ。

傷口に短剣の柄を叩き込まれ、地面に転がる。


すかさず、馬乗りになったシャノンが心臓に短剣を撃ちこむ。


しかし、ナギの身体はそのまま砂となって消え、背後から出現した新しいナギがシャノンの首を斬りつけた。


「ん?案外難しいのな、一息で首落とすのって」


しかし、上手くいかずシャノンの首は繋がったままだ。

傷口から息を漏らしながら、シャノンが立ち上がり、ナギへの反撃を試みる。

それにわざと刺されたナギはそのままシャノンを押し倒し、止めを刺した。

しかし、数秒で元に戻る。

再び起き上がったシャノンはナギを蹴り飛ばすと、その腹から得物を回収する。

血を吐きながらナギが笑う。


「あと、何回死んだら満足する?」

「どうでしょう、千でも万でも私は挑み続けますよ」


血の香る灰色の風景の中、シャノンは笑いながらそう言った。


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