#scene 02-01
オーシプ自治領の首都コルテスで一泊し、2人が向かったのはコルテスの北にある街フリッツ。
目的地の違う2人はここから別行動となる。
ナギは王国領コルトーの街を目指して北東へ。
クレハは第一の目的地である共和国の首都ブロッキへ至るべく、フリッツからさらに北にあるカレヴィ自治州の首都・リスティラを目指すことになる。
街から街への移動距離は大体60キロメートル。
徒歩でおよそ10時間。
乗合いの馬車や馬を使えば4時間ほどの距離である。
しかし、安定して時速60キロを出すことのできる機巧式バイクなら1時間で行ける。
コストもバイクの製作費以外にほぼかからない。
何よりも、一日でかなりの距離を移動できるようになるのが大きい。
そんな機巧式バイクをフリッツの街を出る前に、クレハに便利アイテム一式と共にプレゼントした。無論、自分の分とは別に用意していたものだが、クレハに金銭感覚が大丈夫か、一人で行かせるのが不安だと説教されることになるとは思ってもみなかった。
そして現在、ナギはヴォルフの紹介状を使って何とかオーシプを出て、いろいろごまかして関所を抜け王国領へと入った。
さらにバイクを走らせること数分でコルトーの街が見え始める。
聞いた話では、領主が民から金を吸い上げて私腹を肥やしているとか。といっても、ナギは悪は許せないなどと平気で口走れるような熱い人間ではないため、自分に害がなければ無視する予定である。
コルトーの街で昼食を済ませた後、何もなければ王国の副都であるエリゼの街に向かう予定だ。
コルトーに近づくに連れて道の整備状況は悪くなり、魔物の気配も濃く感じる。
この分では“青の翼”が活動しているかどうかも怪しい。
道がガタガタになってきたのでスピードを落としながら、見え始めた街の門へと進んでいく。
すると突然、伸び放題になっている街道わきの茂みの中から人影が飛び出した。
しかし、ナギはその飛び出てきた男の情報の中に殺人・強盗・強姦・誘拐・放火の罪を認めたため目いっぱいアクセルを回した。
「おい、お前!なかなか珍しいもの持ってるじゃねェか……?って、おいおい!止まれ!とまっぶへ!?」
衝突の直前にブレーキをかけ停止する。
男は何度も地面に打ち付けられながら転がっていった。
「レベル4の盗賊か……まあ、ギリ生きてるだろう」
「兄貴!?」
「お前、よくも兄貴を!!」
茂みに隠れていた残りの盗賊たちがナギを取り囲む。
数は7人。うち二人は吹き飛んだボスの所に駆けて行った。
何人かは手に袋を抱えていたり、茂みの中には大きめの箱がいくつか隠してある。
どうやら既に一仕事終えた後のようだ。
「おい、無視してんじゃねェ!」
薄汚い恰好をした盗賊がこちらに錆びたナイフを向ける。
「急に飛び出してくる方が悪い」
「てめぇ、オレたちに手だしたらどうなるのかわかってんのか!?」
「参考までに聞いてやろう。どうなるんだ?」
「ふははははは、オレたちの後ろには伯爵様がついている。うかつに手を出すとお前も処刑されるぞっぶ!?」
「ああ、そういう事か」
ナギがいつの間にか握っていた機巧杖で高らかに宣言する男の鳩尾に力いっぱい打撃を入れる。
「お前っ!」
「レベル2や3のザコ盗賊なんか止まって見えるわ……クレハに慣れ過ぎたか?」
一斉に襲い掛かってくる4人をそれぞれ打撃のみで倒した後、お得意の錬金術で岩の手枷足枷を作り締め上げる。
「さて、なんか金目の物はあるかね、っと」
ボスを回収しに行った2人はまだ戻ってきてないので、盗賊の持ち物を鹵獲する。
通貨、宝石の類はとりあえずもらっておくとして、食料や役に立ちそうな道具も回収する。
「思ったよりたいしたことないな……この箱は?」
きっちりと閉じられている木箱に手を置くと、木箱が激しく震えはじめる。
「うわ、なんだコレ」
「やめろ!それは伯爵様への献上品っ」
意識のあった盗賊が叫んでいるが、無視して迷わず開封する。
中に入っていたのは、白地に紫の斑のある毛玉。
「なんだこの毛玉」
「お前ら!どうなってるんだ!?」
ナギが箱の中身の毛玉を摘まみあげていると、先ほどの仲間が帰ってきたようで叫んでいる。
「オレたちの事はいい、“ミトロン”だけでも回収して伯爵様の所へ行け!」
「なに?お前!その箱開けたのか!?」
「え?この毛玉なんかすごいの?もしかして美味しいの?」
「きゅっ!!?」
ナギがつまみあげている毛玉が食用宣言に悲鳴を上げる。
「それをこちらに渡せ」
盗賊2人が火薬式の銃を構えてこちらに向ける。
「まあ、食用じゃないなら興味はないけど。ほれ」
ナギは一切の躊躇いなく毛玉を盗賊の方へと投げた。
きゅい!?と悲鳴を上げながら緩い放物線を描いて盗賊たちの方へと飛んでいく。
「こいつ、投げやがった」
「受け止めろよ!」
「わかって、ぐふっ!?」
銃を捨て、毛玉を受け止めようと手を伸ばしていた男が横にスライドして茂みへと突っ込んでいく。
「おい、大丈夫か!?」
「人の心配してる場合か?」
ナギによって全身を岩で縛り上げられ、地面に倒れる。
一方毛玉は、男をけ飛ばした際にナギが片手で回収したためナギの手の中にある。
「さて、コイツらのボスはたぶん生きてるけど動ける状態ではないだろう、とりあえず門にいる兵士にでも渡しとくとして、コイツをどうするか……」
毛玉をじっくり観察する。
ビジュアル的には耳の短いウサギ。毛は長め。ただし紫の斑という自然界に喧嘩を売っているとしか思えないカラーリング。
種族名はミトロン。職業は聖獣Lv.2。
「お前、獣の癖に職業持ってるのか」
「きゅぅ♪」
自慢げに(そう見えた)ミトロンが鳴く。
それよりも驚くべきは、
「魔法適正SS、魔法量SS、魔法属性が“聖”で年齢が5歳……マジで聖獣なんだなお前」
「きゅい」
短く鳴きながら頷いた(気がした)。
とりあえずいつまでも摘み上げとくのはアレなので地面に降ろし、手持ちにあった人参を与えると「きゅう」と(たぶん)感謝のひと鳴きをしてから食べ始めた。
「お前どうするの?というかどこから連れてこられたんだ?」
「きゅう、きゅい」
「うん、わかんねーや。とりあえず、自分で帰れるか?」
「きゅうん」
「多分否定の意志を伝えたいという事はわかった」
人参を口の中に収めもごもごと咀嚼しているミトロンを持ち上げる。
「……とりあえず、一緒に来るか?」
「きゅい」
「まあ、聖獣って書いてあるし法国にでも行けば詳細判るだろう。さて、」
動けずにもぞもぞしている盗賊たちをもう一重拘束してから茂みの中に捨てる。
「とりあえずボスだけ引き摺って行くかね」
「きゅう」
「お前って何食うの?野菜だけ?肉とかもいけるの?」
「きゅい!」
「わかんねーけど、調子が強かったからたぶんなんでも食えるんだな」
「きゅい」
「よっしゃ、いくぞキュウ」
「きゅう!?」
唐突に決まった自分の呼び名にあまり納得していな表情(だと思う)をしながらもナギの頭によじ登る。
理論はわからないがしがみついているらしく全然離れない。
「なんか魔法使ってるんだろうけど頭の上は視えないからな……」
「きゅい」
「――とでもいうと思ったか!」
「きゅぅ!?」
腕輪から取り出した手鏡で頭上を見る。
「なるほど、魔力で結合してるのか……これオレの身体に影響ないよな?」
「きゅい」
「じゃあ、いいや」
バイクを腕輪の中に回収すると、包帯塗れで放置されていた盗賊のボスに縄を括りつけ引きずりながらコルトーの街の門を目指した。




