#scene 01-34
☽
「ねえ、この草で合ってる?」
「いや全然違う。まあ、見分けつかないよなぁ、普通」
「貴方の眼抉り出して移植してみようかしら」
「やめろ、隻眼とか厨二臭いだろうが」
「怒る方向それであってるの?」
たまに魔物を狩りに来る冒険者たちがいるぐらいでほとんど放置されているこの森では、他では獲れないような貴重な薬草が多く存在したりする。
「というか、魔物たちがあんまり襲ってこないんだけど……見つかっても一目散に逃げていくし」
「大量虐殺したところだし、魔力波長でこいつはヤバいと感じ取ってんじゃないか?」
「つまり、貴方のせいなのね?」
「まあ、逃げる魔物に一瞬で追いついて仕留めてる奴に言う資格ないけどな」
草を摘むのを一度休んで、クレハが狩った蜘蛛と蟷螂の魔物を解体するナギ。
「熊狩ってくれ、熊。あと夕飯に肉が欲しいなら鳥か猪も」
「少し見周って来るわね」
一歩踏み出したと思うとクレハの姿はもはや確認できなくなる。
彼女の速度ならそう広くもないこの森を一周するのに数時間もかからないのかもしれない。
「帰ったわ」
「うわ!?背後に突然現れるなよ」
「この周囲にはそれらしいのがいなかったわね」
「そこそこ血の臭いがしてるからそのうち集まってくると思うけどな」
「それまで、草摘んでればいいのね?」
「そうそう、あ、それ食えるよ。ほうれん草みたいな感じ」
「お浸しでも作ろうかしら」
「米が残り少ないんだが」
「じゃあ、バターで炒める」
こんな調子で収穫しつつ、会話をすること数時間。
途中現れた、魔物を十数体倒し、次の目的地である祭壇跡へと向かうことにした。
ふと、森を出たところでナギが立ち止る。
「どうしたの?」
「いや、試験走行をしてみようかと思ってね」
「なんの?」
腕輪を右の人差し指で3ほどタップし、取り出したのは、
「もう、腕輪に収納って言う概念が良くわからなくなるのだけど……」
「シンプルな造りだが二人乗りはできるぞ」
「そもそも、乗れるの?」
ナギが取り出したバイクを眺めながらクレハがつぶやく溜息をつく。
「原付なら」
「貴方ね……」
「大丈夫だ、全部機巧で組み上げているから燃料は魔力だけ。騒音ゼロでCO2もゼロ」
「いや、それでも運転できなきゃ意味ないでしょう……」
「ちなみに乗れる?」
「乗れるけど」
「言うと思った」
ナギがバイクのスタンドをはずし、またがる。
「まあ、重量は半分ぐらいしかないからバランスとれれば行けるだろ」
「そもそも動くの?」
「動く」
エンジン音はないが振動が伝わってくる。
「行くぞ」
特に問題もなく普通に走り出すナギ。
「あれ?普通に乗れてるじゃない」
「まあ、図体だけでかいけどほとんど電動アシスト付きの自転車みたいなもんだからな」
「それだったら自転車にすればいいんじゃなかったの?」
「外装がチープすぎると、格好良くないだろう……というか、平然と並走するのやめてくれる?」
「じゃあ、後ろ乗せて」
「初心者に無茶振りするなよ……ん?」
「どうしたの?」
「そうだった、ブレーキ積んでなかった」
「バカなの?」
「エンジン止めてしばらく惰性で進むか……悪いけど先に行っててくれ」
「はいはい」
クレハが駆けて行くのを見送りながらエンジンを止める。
しばらくはゆっくり惰性で進み、完全に止まったところで腕輪の中に格納した。
そして瓦礫の積み重なった大穴の前で待っていたクレハに合流する。
「うっ……これは」
「いろいろ放置したままだったから」
凄まじい臭気が漂い、腐って変質した魔物たちの破片には黒い影が纏わりついている。
「なんだアレ」
「見たことなかった?あれが死喰い獣」
「ジジイの書斎で読んだ本で何件か見かけたから、知識としては知ってたが、初めて見た」
死喰い獣は大量の魔法生物(この場合は魔力を持つ一切の生物の事を指すので人間も含まれる)が何らかの要因で大量に死亡して、その魔力が一所にたまることによって発生する自然現象のような物で、それ自体はただの魔力体である。
「ただ、肉体を求めてしたい死肉を食い漁るんだったよな」
「そうね。戦争とかで街が丸々潰されたりすると頻繁に発生してたそうだけど」
「とりあえず消しとくか、良い物ではないし」
聖属性の魔宝石をセットして、魔法式を展開する。
「この窪地のせいで魔力が溜まりやすいのかしら」
「まあ、あの化物封印してたんだから何かしらの仕掛けはあるんだろう」
浄化系の軽い魔法を何発か撃ち込み、死喰い獣を消滅させた後、ナギとクレハは窪地の中へと飛び降りた。
中は肉と血の腐った臭いが充満し、積み重なった瓦礫で足場も悪かった。
「やっぱり、塵一つ残さず消しとけばよかったかな」
「それだけじゃないみたいだけど」
クレハが瓦礫に埋まった一部分を指さす。
どうやらあそこが祭壇があった真下にあたるらしい。
そこにある赤い水たまりをみながらクレハが呟く。
「全部血?」
「いや、水で薄まってる……のか?」
「そもそも血液って水に溶けるの?」
「血、じゃないみたいだな。魔力と情報の塊――オレが使ってる紅の魔宝石みたいなもんだ」
「嫌な予感がする」
「だな、さっさと消し去ろう――今、名称が“魔力液”から“ブラッドキメラ”になったし」
ナギは既に魔法を発動、クレハも剣を構えている。
赤い液体は蠢きながら、ゆっくりと何かの形になっていく。
「頭の中にある石が核だ、それを潰せば」
「頭ってどこ!?」
「オレが今から吹き飛ばすところ」
収束しきった風の魔法を撃ちこむと、液体は簡単に四散し、宙に浮かぶ赤い石が現れる。
その赤い石が突如大量の魔法式を吐き出し始め、宙に浮く液体はそれらを補助する刻印を描き始める。
しかし、その時点でクレハの剣が核を砕き、液体は消滅していった。
「あら、拍子抜けね」
「魔法を展開してるっていうのに淡々とトドメさしたな」
「魔法使うのをバカ正直に待ってあげるほど私は暇じゃないの」
「まあ、そりゃそうだけど、風情も何もないな」
「ちなみに、あの魔法はなんだったの?」
「完全無制御、この空間にあるすべての魔力を押し込んだ死天墜撃」
「そういえば、貴方の血も入ってるわけだから情報はあったはずよね……」
「まあ、良しとしよう。魔法撃たれてたらガルニカとか消え去ってたかもしれないし」
「そんな状況で何を呑気にしてたの?」
クレハに背後から突かれながら、液体の溜まっていた底へと向かうと、何やら石碑のようなものがあり、
「なんだコレ、活版印刷?」
「文字の書いてあるブロック?あそこにはめるんじゃない?」
「20個ぐらいか……どうやらこれで全部だし、一文字も被らない単語をそこに入れないといけないわけだ」
「わかるの?」
「さあ?というかこの古代文字?がまず読めない」
「解析で何とかならないの?」
「その手があったか」
「貴方、時々抜けてるわよね。天然?」
文字の刻まれた石の立方体とにらめっこすること5分。
「大体わかったけど、この問い掛け、ヒントとかないのかよ」
「神様の名前とか入れてみれば?」
「A・D・E・R……A……ダメだな。まずアルファベットに近いくせに何となく母音の扱いが違うのが腹が立つ。文字数も少ないし」
「といいつつ、手を動かしてるけど」
「あ、入った」
「私に一切説明せずに解くなんて……」
「なんで怒ってんだよ。というか解くも何も勘だよ」
「それよりなんか開いたけど?」
「お宝か?」
金色に輝く対の腕輪が石櫃の中に納まっている。
「古代の遺物?」
「そうみたいだな。呪われてるから装備するなよ」
「うん……え、呪われてるの?」
「つけたら外れなくなるらしい」
「それは地味に嫌ね……」
「とりあえずしまっとけ。早く帰って解析しよう。あんまり長居したら軍の連中に怒られるし」
「聖騎士が来るまで立ち入り禁止って言われてたけどね」
「よーし、できるだけ痕跡は消していくぞ」




