#scene 01-32
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「ただいま」
「あら、お帰りなさい。それでどれぐらい収穫があったの?」
「エクトル鋼500kgと魔宝石かな」
「そう。元は取れたのかしら?」
「まあ、何とかなったんじゃないか?それより、結婚式やってくれるみたいなんだけど、ドレス着るか?」
「え」
理解が追いつかず、ぽかんとするクレハ。
「……おーい」
「はっ……大丈夫よ?それで」
「ドレスだけどどんなのがいい?」
「……改めて婚約したっていう実感がわいて恥ずかしいわね」
「後悔してるか?」
「40%ぐらいは」
「思ったより割合でかいな」
ナギが軽く落ち込む。
「まあ、期待してるわ」
「丸投げか」
「式、ね」
「まあ、ちゃんとした奴はその、オレがヒューゲルの家との戦争に勝てたらちゃんとあげるから安心してくれ」
「ありがとう。死なないようにね」
「わー、何そのジョーク超面白い」
光の無い目でははは、と乾いた笑いを上げるナギ。
「じゃあ、食事は何を作るの?」
「そうだな……この辺りだと肉は熊か猪なんだよな……」
「なんで魔物食らう前提なの」
「とりあえず芋は死ぬほど持ってる。あとは野生の草がどれぐらい手に入るかだな」
「もう鍋料理でよくないかしら?」
「なるほどなぁ……ドレスで鍋な」
「いっそ白無垢と紋付袴にする?」
「別にいいけど目立つぞそれ。というか適当に言ったけど軍式の結婚式って何すんのかな……」
「少しは考えて発言しなさいよ……」
「お二人とも、まだこんなところにいたんですか?」
後ろから声がかかる。
「なんだジーナか。軍の方はもう落ち着いたのか?」
「はい、怪我人もおらず、本部の方に連絡も済ませたようです」
「じゃあ、帰って夕食にするか」
「そうね」
2人が虎の子亭へと戻るとすぐに宿主がこちらにやってきた。
「お前ら、なんか軍の作戦に参加してたって聞いたけど大丈夫か?」
「あー、うん。ぴんぴんしてるけど」
「そうか。それで、今日泊まるのか?」
「ああ、そういえば預けてた金切れたんだったな、まだ数日滞在することになりそうだから2000E先払いしとくわ。というか大部屋ってあったっけ?」
「あるにはあるが……」
「じゃあそっちに2人で入る?」
「クレハがそれでいいなら」
「おう、わかった………あれ、お前らほんとに婚約したのか?」
「うん。それより、厨房借りて良い?」
「いいけど……おい、美人の嫁さんこんな襤褸宿に泊まらせていいのかよ」
「それ、あんたが言ったらだめじゃね?大丈夫、壊れてても直すし。最悪リフォームするし」
「まあ、お前らがそれでいいなら良いんだけど……」
何やら納得いかない顔で奥の部屋に消えていく。
もちろん、他に客はいないので食事も特に作られていない。
怪しげな色のスープは見つけたがとりあえず蓋をして封印した。
「今日の献立はー……」
「何かしら」
「冗談で作った米粉麺と鶏がらスープの素、あと余った牛肉と野菜片」
「フォーボーね」
「まあ、これは〆にするとしていくつか居酒屋メニューを作って、あとはこの秘蔵の梅酒で」
「和食系のメニューでいいかしら?」
「頼む。砂糖も塩も酢も醤油も味噌も好きに使ってくれ。オレは〆の準備に本気出す」
「普通気合い入れるとこ逆じゃない?魚とかないの?」
「んー……海の街に行ってないからあんまりないんだよな。鮭(のような味の魚)と鰻(のような見た目の魚)でいいか?」
「ウナギ、あんまり得意じゃないのよね」
「そうか、オレもだ」
「……何で買ったの?」
「そういうお前もなんで捌けるの?」
あーだこーだ言いつつも10品近くの料理を皿に盛っていくクレハ。
仕込みが終わり、部屋片付けて来ると言いうと、何やら二階で大騒ぎを始めたナギ。
2人が食事にありつくのは1時間ほど後の事だった。
「アレだな。食材が無いって言ってたけど、これは作りすぎだな」
「そうね。食べきれるかしら……」
「おっさんはもう謎スープ飲んで寝てるしなぁ」
「……そのスープ、本当に人体に影響ないのよね?」
クレハがテーブルに料理を並べながら封印された鍋の方に視線を向けていると、扉が開く音がした。
「すまない、部屋を借りたいのだが」
「ん?何やってんの大尉さん」
「ああ、それが調子に乗った阿呆どもが機巧魔法を暴発させたせいでテントがいくつか足りなくなってな」
「何やってんだよ……」
「男共はその辺に突っ込んだんだが、女性陣はそうもいかないだろう。まともに寝床があるならまだしも、ぎゅうぎゅうのテントに入れるには少し問題があるだろう……」
「6人だったよな……この宿空き部屋5つか6つあるから大丈夫じゃないか?」
「そうか、それで主人は?」
「もう寝てるぞ」
「……君たちは何をしているんだ?」
「これからメシだけど」
ナギが出した木桶の中に氷水を入れ何本か酒瓶を突っ込むクレハ。
「まあ、明日説明しとくからとりあえず泊まれば?」
「いいのだろうか……」
「まあ金さえ払えば文句は言わないだろう。ちなみにオレが改装した部屋が3つあるから、そこは当たりだな。それより、これ食べるの手伝ってくれないか?」
「構わないが、どうしてこんな量を……」
「久しぶりに料理なんかしたから楽しくなって」
「だそうだ」
「大尉、人助けと思ってご相伴にあずかりましょう」
「というか、あの食事では正直……」
「こんなもの見せられたら我慢は難しいです」
「と、部下の皆さんは言っている」
「わかった。わかった。因みにその酒は……」
「一年物のワインと梅酒、それと日本酒だな」
「あんまりいろんなもの飲むと二日酔いになりそうね」
「そうだなー。まあ、オレは大丈夫だけど。この鰻の揚げ物美味いな」
「そう?南蛮風にしてみたのだけど」
「ああ、うん。いい感じ」
「大尉、私これに手を付けてしまったら、コルテスに戻った後大変なことになるような気がします」
「奇遇だな。同感だ」
ナギとクレハはこちらにはお構いなしで二人だけで会話をしながら食事を続けている。
「居酒屋メニューって言ったから揚げ物もっと作るかと思ったんだけど」
「鰻揚げたらもうなんかお腹いっぱいになっちゃって」
「まあ、そういうことあるよな」
「大尉、大尉!なんか大陸の美味を集めたような感じがするんですけど!」
「たしかに、帝国内でもこれほど多様な料理を目にすることは少ない気がする」
「明日の演習が無ければ私もお酒戴いてたのに……」
「アーダ弱いもんね」
「ジェナだってそんなに強くないじゃない」
「私は次の日に引きずらないからいいんです」
「大尉はお酒強いんですか?」
「いや、私はそうでもない」
「……なんか、上官という立場を利用して部下の女性を侍らしているようにしか見えない」
「パワハラって奴かしら?」
「ち、違うぞ!?」
「大尉、そこで焦ると余計にダメです」
宴会は日付が変わる手前まで続いた。途中潰れかけたヴォルフがジェナと呼ばれていた女性隊員に二階に連れて行かれるのを全員無言で見送り、とりあえず見なかった事にしたのちしばらくしてからお開きとなった。




