#scene 01-31
「作戦終了だな」
「そうね。思ったより手間取ったわね」
「ああ、何回か覚悟した」
普段通りのテンションで普段通りの会話を続ける2人と、それを無言で見つめるその他数十名。
「な、ナギさん。質問いいですか?」
「なんだ?」
「まず、魔法の事なんですけど……」
「それは私からも質問させてもらいたい」
「なんだ?お前らそんなに魔法に興味津々か?」
ナギがおどけて答え、ジーナに睨まれる。
「まず、聖属性SS位の魔法“聖顕領域”。これは教会の聖騎士クラスでない限りは使いこなせないような大魔法だぞ?どうして使える」
「ジジイの部屋に魔法構造を示した文献があってな、魔法式を魔宝石にに移して定着させた。おかげで聖属性はかなりの水準の魔法を使えるようになったが」
ナギが杖から聖属性の澄んだ白金色の魔宝石を取り出し、ヴォルフに投げ渡す。
「――見事な刻印だな……数億Eの値段がついてもおかしくはないレベルだ」
「できれば口外は避けてほしい。帝国には自分から行くから報告にはできれば黙っといてくれ、って書いといてくれ」
「報告書に書いていいのか?」
「だってそれが仕事だろ?その代わり情報をできるだけ制限してほしいけど」
「まあ、そのぐらいなら何とかするが……」
「そんな事より、です!」
ナギの肩をがっしり掴み、ジーナが体を揺らす。
「暴風暴刃・誘眠花歌・豪嵐雷滅・月刃刻々・死天墜撃……どれだけSS級――高位の魔法を知ってるんですか!?というか後半は聞いたこともないんですけど!?アドリア魔法大学の魔導師位でもそんなにたくさん使えませんよ!?というか一つでも使えた賢者認定ですよ!?超戦術級魔法なんて大陸レベルで危険認定されてもおかしくないんですからね!?」
「ジーナ、元気なのはわかったけど、そろそろ止めてあげて。ナギ、吐くわよ」
「うぇ、ぷ」
「わああ!?大丈夫ですか」
慌ててナギの肩を放し、背をさするジーナ。
「……はぁ、死ぬかと思った。そんで一つ訂正」
「なんでしょう……いやな予感がします」
「後半3つはSS級じゃなくて、SSS級な」
「ほらあ―――――!」
「錬金術師辞めて魔導師になったら?」
「それはちょっと……」
信じられないという顔をしながらも、一応記録を取るように命じるヴォルフ。
「しかし、“時”と“幻”属性の大破壊魔法なんて聞いたことがないぞ。片方は自分の目で見たので複雑な心持ちだが」
「まあ、創ったからね」
「……クレハさん、あなたの旦那さんあんなこと言ってますよ」
「ええ、素敵でしょう?」
「……もう嫌です、この夫婦」
ジーナが落ち込み、クレハがそれを慰める。
「そうだ、アレ、どうするんだ?」
ナギがほとんど骨だけとなった竜の死骸を指して言う。
「少しだけサンプルを取って置いて帰ることになると思う」
「そうか、なら残りはもらっていいか?」
「なんに使うんだ?」
「錬金術の素材に」
「なるほど。構わない。できれば、王国・法国に渡らないように処分してくれるとうれしい」
「了解」
そういうと、ナギが未だに黒煙を上げている死骸の元へと歩いていく。
「そういえば、最後の魔法。アレはどういう魔法なんですか?」
「そうね……光球が爆散して、光の刃が刺さったところはわかったわよね?」
「はい」
「その後展開された刻印が時間加速系の魔法で、“魔力の刃によるダメージ”の加速をしている……ってきいたけど」
「事象加速って、そんな魔法作って大丈夫なんですか?」
「さあ?完成自体は結構前の話みたいだし、今生きてるからいいんじゃない?」
「楽観主義なのかナギさんに厳しいのかわからないセリフですね」
「まあ、死んだらそれまでよね」
「厳しい……」
一方のナギは肋骨の一辺を下り砕くと、腕輪から出した布に包み、ついてきていたヴォルフの隣に立っている部下に手渡した。
「この布はサービスしとく」
「なんだこれは?」
「呪いとか怖いだろ?その予防」
「なるほど……」
「!?――これ呪われているんですか!?」
挙動不審になる兵士を余所目にヴォルフがナギに問う。
「こんなものを、いったい何に使うのだ?」
「そうだな……とりあえず、呪いが半端じゃないからこのままは使えないな。だから、骨・肉・皮はとりあえずすべて“エクトル鋼”に変換」
ナギが、グローブを着けた手で骨に触る。
ぼう、と白い光に包まれたと思うと光は凝縮し、形を変えていった。
「伝説の錬金術師の御業をこの目で見れる日が来るとは」
「ナギさんってそんなにすごい人なんですか?」
「ああ、彼の大錬金術師アウグスト・シュヴランの唯一の後継者だからな」
「あ、それ訂正するわ」
「?」
「実は義妹がいることが最近発覚した。そいつも一応後継者だ」
「なんだと……」
愕然とするヴォルフを放置して、勝手に作業を続ける。
ボコボコになった地面を魔法と錬金術で慣らし、小瓶に地面に染み込んだ血を吸い上げる。
「さて、メインディッシュだが」
目の前に転がる特大サイズの魔石塊を見る。
「大体10キロぐらいかな……不純物はあまりないし相当の価値があるぞ」
「なるほど、これはすごい」
「提出用にいくらか分けるか?」
「頼む」
「となると、まずは分解して属性ごとに分けた方がいいな……地が83%、水8%、聖5%、魔2%、火1%……狂1%?何だコレ」
「“きょう”とはなんだ?」
「さあ?とりあえずあんまり良い物じゃなさそうだ。地のSクラス2つ、水のAクラス1つでいいか?聖魔もほしいならやるけど、あまり純度が高くないからC-Bぐらいになるぞ」
「正直我々はあまり役に立っていなかったので、そんなにたくさんはいらないのだが……」
「気にするな、地のSクラスなんか10個以上作れるしな」
「総額600万E分か」
「軍を動かしたにしては元は取れてないかもな。まあ、精錬代金はサービスしとくよ」
大きな魔石塊に手を当てる。
光に包まれいくつかの球体に分離していく。
「とりあえず、ほら」
5つの魔宝石をヴォルフに手渡す。
「刻印は入れてない。帝国お抱えの錬金術師にでも入れてもらえ」
「感謝する」
「大尉、それってどれぐらいの価値がある物なんですか?魔法には疎くて」
「そうだな、この5つを全て正当な価格で売ったとしても帝都の貴族街に相当の大きさの屋敷が買える」
「うわー……」
「帝国軍で30年間死ぬ気で働いたらそれぐらいは貯まるんじゃないか?まあ、娯楽費を全て貯金に回す条件付きだけど」
「無理っすよ、そんなの」
うなだれながらも、竜の骨(呪われている)を落とさないようにしっかり抱える兵士A。
「じゃあ、戻りますか」
「そうだな。それで、式の方はどうする?」
「し、き?」
「結婚式、やるのだろう?」
「あ、ああー……ホントにやらなくてもいいんだぞ?」
「しかし、簡易でもやっておいた方がいい訳が楽になる」
「正直だな、アンタ……そうだな、じゃあ堅苦しいのはなしにして派手なのだけ頼む。住人の脳裏に焼き付くようなのを」
「了解した。今回の作戦費用のギリギリまで頑張らせてもらう」
「まあ、食事はこっちで企画するから楽しみにしててくれ」
「まじっすか!?」
沈んでいたテンションのギアが3つぐらい上がった兵士Aが骨を抱えたままキャンプへと駆けて行く。
「……ほんとに心配になるぐらい飢えてるのな」
「数日滞在するとして食糧足りるだろうか……」
「んー……とりあえず、食える魔物と大陸であまり食われてないけど食えるかつ、この辺りにそれなりの量自生している草リストアップしとくわ」
「すまないな」




