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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#01黒の剣姫編
31/131

#scene 01-30

身体が満足に動かないためか、やたらと魔法を発動させる竜に対して、その魔法をことごとく潰していくナギ。


「キリがないぞ。というかオレの集中力が持たない」

「斬ってみるわ」


クレハが前に出る。


「一の型――寒星〈空〉」


クレハの影が一気に加速し、その巨体の前足の辺りを斬り飛ばした。


「やった!?」

「ダメだ」


斬り飛ばされた脚はすぐさま地面に融け、露出した肉の断面は蠢き、再生を始めている。


「気持ち悪い」

「だが、再生が遅くなってるのは確かなんだよな」

「体に孔あけてみましょうか?」

「やれるなら頼む」


ジーナが槍を一回転させ、低く構える。


「行きます」


足に力を籠め、前へと踏み出す。

竜の腹を目掛けて槍を突きだす。


「風槍百蓮撃!」


一撃一撃は、竜の身体に致命傷を与えられるほど強力ではないが、高速で同じ場所をを叩きつづけることによって、着実に肉を削っていく。


「これで、どうですか!?」


最後の一突きによって、反対側の皮が突き破られ拳大の穴が開く。

反対側はすり鉢状に肉が潰されていてかなり無残な状態だ。


「ここまでしても死んでないか」

「はぁ、はぁ……どうですか?」

「お疲れ、ジーナ。でもダメみたいよ」


しかし、竜の動きは完全に止まり、今は再生に全ての力をつぎ込んでいるように見える。


「でも、止まったわね」

「そうだな……ん?」


塞がっていく傷口を見ていたナギが何かを見つける。


「なんか石みたいなのがあったんだけど……」

「そんなのありましたか?」

「私には見えなかったけど」

「クレハ、あの傷口の辺り抉ってくれ――もう少し右……ああ、そのあたり」


クレハが剣は走らせ、肉と血飛沫が舞う。


「ほら、あそこ」

「ホントですね……金色の魔宝石みたいですね」

「あれ壊せば死んだりしてね」

「やってみるか?」

「じゃあ、やってみるけど」


再びクレハが剣を構え、加速する。


「一の型――寒星〈空〉」


狙い通りの軌道を描く刃は、金色に輝くそれに見事命中、しかし


「――!?」


キン、と硬質な音を立てて弾かれてしまう。


「嘘!?」

「……どうやらそれはホントに大事な物らしいな」


愕然とするクレハの隣に立ったナギが言う。


「……弾かれたの?」

「ああ、でも一応一撃は当たってる」

「……どういう事?」「どういう事ですか?」


二人同時に問いかけるとナギが説明を始める。


「クレハの攻撃はあの珠にあたった。そして、一瞬だがヒビが入った」

「ほんとに!?」

「でも、高速で再生したな。それで、“硬化”の魔法が一瞬発動したように見えた」

「なるほど……で、どうやって斃すんですか?」

「そうだな……このまま、ひたすら斬り刻みまくって殺すか、あの珠が再生する前に複数回の攻撃を叩き込んで砕くか、だな。一撃で潰すっていう手もあるけど、あんまり現実的じゃない」

「あの珠を摘出しちゃうっていうのは?」

「それこそ無理じゃないか?アレ自身が魔法使ってるようだし、素手で触ったら何が起こるかわからん」

「じゃあ、高速の連撃でいくわね」


クレハが三度構える。

先ほどまでとは異なった構え。


「二の型――花月〈刹〉」


影すら残さずに限界まで加速したクレハの刃は既に肉に埋もれかけている珠へと命中し、二度、三度と連撃を浴びせた。


「ちっ……」


しかし、四度目。

その刃がふれると同時に弾かれる。


「ダメか……」

「私の目でもわかるほどには割れてたんですけどね……」

「ナギ」

「ん?」

「手伝いなさい」

「なるほど……だが、あんな小さな的に二人で剣振って大丈夫か?」

「そこは……信じてるわ」

「無茶な信頼だな……まあ、やるけど」


ナギは籠手に紅の魔宝石を嵌め、腕輪から機巧刀を取り出す。


「花月でいいんだな?」

「ええ、私の方で合わせるから、当てることだけ集中して」

「了解」


クレハは“剣盤指針”を発動させる。

加速の魔眼も全開に使用しているようだ。

対するナギも剣に幻の魔宝石を入れ、限界まで魔力を吸わせる。


「行くわ」「行くぞ」


2人がほぼ同時に地面を蹴り、既にほとんどの部分が埋まっている珠へと刃を走らせる。


一番最初にただりついたのはクレハの一撃。そしてそのまま2撃目。

続いてナギの剣が届き、その直後にクレハの3撃目が入る。

ナギの2撃目が入り、続いて3撃目を入れようとした瞬間に珠が魔法を発動させる。

しかし、ナギの剣は魔法を叩き割り、3撃目を入れ――


「行け、クレハ」


クレハの刃が4度目の攻撃を成功させると同時に金の珠が砕け散った。


「やった!」


金の破片が散ったのを見て思わず歓声を上げるジーナ。

しかし、ナギとクレハはあまり良い表情ではなく、加速を切らさないままこちらに大きくとんだ。


「ジーナ!耳ふさげ!」

「え?」


反射的にそれに従うと同時に猪竜が凄まじい咆哮を上げた。


「GGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGG―――――――――――!」


「倒したんじゃ、なかったんですか!?」

「どうやら、あの珠が維持していたのは自己再生の部分だけらしい」

「うわ、これはひどいわね」


竜の身体は肉がドロドロに融けだしているように見えた。


「再生途中だった部分が急に再生力がなくなったせいで崩壊したんだな」

「ナギ、不味いわ」

「ああ、ヴォルフ大尉!聞こえるな!?」

『ああ、なんださっきの咆哮は!?』

「悪い、今からそっち方向に全力で逃げる。すぐに砲撃できるように用意してくれ!というか、オレたちは何とかするから敵影が見えたら全力で撃ってくれ!」

『了解した!総員構え!』

「よし、聞いてたな?逃げるぞ!」

「ええ!?」


全力で駆けだしたナギと、それを上回る速さで駆けて行くクレハに相手行かれないように必死で走るジーナ。

その後ろからは


「GGGGGGGGGGGGG―――――!!!」


「もしかしなくても私囮ですか!?」

「いいから走れって!アイツは今、回復に回してたぶんの魔力全部攻撃に使えるんだから!」

「それマジでヤバいじゃないですか!?」


必死にナギについていくと、前方にこちらに向かい銃口を向ける兵士たちが見えた。

背後には猛スピードで駆けてくる酷いビジュアルの大猪。


「ジーナ、避けろよ」

「え!?ひゃあ!?」


前方から爆音が放たれ、こちらに向かって駆けてきていた竜の顔面の肉を派手に吹き飛ばした。


「うわー……」


すでに弾幕の後ろ側に避難し、こちらを見ていたクレハがドン引きでその光景を眺めている。


「もう少しだ!気を抜くな!」

「は、はい!」


ナギに引っ張られながら弾幕の後ろに入る。

兵士たちは異形の生物に向かって弾を撃ち続けている。

対するソレは悲鳴を上げながらその場でじたばたしている。

3度目の砲撃で前足を吹き飛ばされたのが原因らしい。


「しまった!?」

「どうした!?」

「奴め、この状況で魔法を……」

「ナギ、壊せる!?」

「無理だ。でも何とかする」


ナギが杖の魔宝石を付け替えると、大量の魔法式を展開する。


「くっ……ここは彼を信じるしかない。もしくは、発動するまでに倒してしまえ!」

「はい!」


勇猛に攻撃を続けるも、砲撃以外でのダメージは微々たるもので


「ナギさん、魔法が!」

「大丈夫だ間に合った!」


「――――――――――GGGGG!!!!!」


雄叫びと共に、発動したのは地裂の魔法。

礫を飛ばしながら真っ直ぐこちらに進んでくる。


「甘いな、猪。聖顕領域(セイン・アラト)だ」


ナギを中心として描かれるのはアデライダの紋章。

この場にいる全員が入る大きさで展開されたそれの効果は。


「刻印の中にある者に降りかかるあらゆる悪意の無効化――つまりは完全防御だ」


こちらにたどり着くと同時に衝撃は光の塵となり目の前に舞った。


「クレハ、トドメだ」

「了解」


クレハが構えたのは剣ではなく機巧装置。


「一回派手に魔法使ってみたかったのよね」

「斬った方が早くないか?」

「あんなの斬ったらドロドロになりそうだし、嫌」

「さいですか」


既に展開されていた魔法式が機巧装置へと収束していく。


「さっきから君たちは見たことのないような大魔法ばかり使うな」

「気のせいだろ」

「ナギさん、もしや真面目に答える気ないですね」

「―――月刃刻々(オリアス・クロリア)、発動」


クレハの放った真珠色の球体は竜の身体に命中すると同時に弾け、無数の刃へと姿を変え全身に突き刺さる。


「時属性の攻撃魔法!?しかも、大破壊級の!?」

「まだ終ってねーぞ」


突き刺さる刃は各々が刻印を展開し、そして、猪竜は絶叫し、その後完全に沈黙した。


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