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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#01黒の剣姫編
30/131

#scene 01-29

                  ☽


既に日は昇り、ナギの魔法の効果で眠りについている巨竜も間もなく眼をさます。


「手筈通りに行くけど、何か問題とかあるか?」

「今のところは大丈夫だ。だが、斃しきれるかどうかという不安はある」

「まあ、それはオレにもわからない。地属性の生命力は侮れないし、中位の亜竜種なんて相手にするのは初めてだしな」

「そもそも竜自体が簡単にお目にかかれるような生き物でもないからな」

「とりあえず、大尉にはこれを預ける。耳につけててくれ」

「これは?」


ナギに言われた通り耳に機器を引っ掛けるヴォルフ。


「無線。それに少し魔力を流してくれれば、オレかクレハかジーナに声が届く」

「なるほど。ここまで小型の機巧でそんな機能が……正規軍で採用したいぐらいだな」

「やっぱり売れるか……量産できないから軍に売るのは難しそうだけど」

「なるほど……それでは頼んだ」

「おう」


ナギが機巧杖を構える。

魔法式が展開され、杖の周りに展開されていく。


「巻き込まれないように迫撃砲の有効射程ギリギリ外ぐらいまで下がっててくれ。クレハ!ジーナ!頼んだ」


ナギがそう叫ぶと同時に2つの影が、高速で飛び出す。


「私が裂くから」

「わかりました。私が心臓を突きます」


倒れている猪竜の左前足の付け根よりやや真ん中より。

そこを狙って、クレハが剣を抜く。

剣に向かって、クレハの膨大な魔力が収束していくのがジーナには感じられた。


「すごい……」

「いざ」


輝く刀身を構える。

それを見て、ジーナの方も槍を構え、力を込める。

自分の一撃が町の――それだけではなく、オーシプの未来を左右するのだ。

緊張で汗が流れる。


「九の型――明星〈(サイ)〉」


抵抗もなく、竜の堅い皮膚を裂き、肉を裂き、さらに高速の返しで肉を抉り取るクレハ。

そこへ、風の魔力を纏ったジーナの槍が心臓を散らすために、突きいれらる。


クレハによって裂かれたはずの巨大な心臓は完全に復元され、眠る竜の鼓動を打っていたいたが、ジーナの槍は風の刃を纏い、それを完全に爆散させた。

飛び散る肉片と血飛沫を浴びながらクレハとジーナは巨体から距離を取る。

一方の竜は、高い音の悲鳴を上げている。

どうやら目覚めたようだ。


「ナギ!」

「任せろ」


ナギの周囲を取り囲んでいた膨大な量の魔法式が一気に収束され、杖へと魔力が集まる。


「とっておきだ」


ナギが杖の石突を地面に叩く。

高い音が響くとともに、以前よりも巨大で、さらに複雑な風の刻印がその巨体を中心に展開された。


豪嵐雷滅(ベルガ・ドルガ)


カッ―――――


と視界が白く塗りつぶされたと思うと、同時に無数の雷が竜の身体を灼き貫く。

それと同時に吹き荒れる風の刃が、こぶし大の石を巻き上げながら竜の身体を斬り刻んでいく。

魔法の効果が続く15秒ほどの間、絶叫を続ける竜。

しかし、血の色を含む暴風の音と、止むことない雷鳴によってその声はかき消される。


「すさまじいな……」


その光景を呆然と見ていたヴォルフを含む帝国軍の面々。

しかし、それが終わると同時に再びクレハが飛び出していく。


「行けるか!?」

「私を誰だと思っているの?」


再び、クレハの剣に魔力が収束し、白に近い七色の輝きを放つ。


「九の型――明星〈彩〉」


ヴォルフ達にはクレハの身体が竜の身体の向こう側へと瞬間移動したように見えたが、それは正しくない。

ただ駆け抜けただけというのが正しい。

そして、未だ起き上がることも許されず、ずたずたにされた竜がの首に赤い線が入ったと思うと同時に、その首が垂直にずれた。


「斬った、のか!?」

「おい!」

「!?」

「ぼーっとするな!撃て!」

「しかし……」

「アレでも全然生きてるぞ!アイツ!」

「!?」


回復能力はナギによってつけられた傷から、落とされた頭の方へとすべてまわさざる負えない状況になっているようだが、傷の程度からその速度はかなり遅い。

露出した首の肉と骨、そして切れた血管からだくだくと流れだす血。


しかし、それはおきあがろうと今もなお必死にもがいている。


「!!!!……目標、デュアルタスクドラグ。撃て!!!」


有効射程圏まで走り寄った兵士たちが一斉に攻撃を仕掛ける。

彼らの撒く銃弾はナギ達の攻撃に比べると全然たいしたことのないダメージだが、それでも再生を妨害するという意味では十分なダメージを与えられていた。


「迫撃砲6基、カノン砲2基用意できました!」

「撃て!」

「はい!」


戦場に爆音が響き砲弾が放たれる。

着弾すると同時に低い爆音を響かせる。

これならば有効なダメージになるだろう。


既にナギは次の魔法の用意をしている。

こちらに戻ってきたクレハとジーナは爆撃される様子を見守っていた。


「あとどれぐらい叩けば斃せるんでしょうか」

「そもそも、心臓を潰されて、頭落されて、動けるっていう時点で常軌を逸しているわ。普通に考えたらもう死んでてもおかしくないもの。ここから苦戦してもおかしくないわ」

「ですよね」

「ナギがもう一度豪嵐雷滅(アレ)を撃ったところで沈んでくれればいいのだけど」


既にナギの魔法は8割方完成している。

軍の方も、切らさずに攻撃を続けているため再生はほとんど間に合っていない。


「とりあえず、私の方も魔法の準備だけしておきます」

「ナギと同じものを?」

「無茶を言わないでください」


借り物の機巧装置を起動し魔法式の展開を始めるジーナ。

ナギの方は既に収束を開始していて、間もなく撃てる状態だ。


「大尉、そろそろ行ける」

「了解した。総員、下がれ!」


各々最後の一発を叩き込み、ナギがあらかじめ定めたラインまでさがる。

それとほぼ同時に魔法は放つナギ。

再び雷撃と暴風が竜の身体を裂く。


最早聞きなれた悲鳴を聞きつづけること15秒。


しかし、


「マジかよ」

「まだ元気そうね、血塗れだけど」


首のない猪はゆっくりと立ち上がると、片足で地面を掻いた。


「クレハ!走れ!」


ナギが声を上げると同時にクレハが頷いて真っ直ぐ龍へと駆けて行く。


「何事ですか!?」

「魔法だ!チクショウ、まだそんな手があったか!」

「クレハさんも危険じゃないんですか!?」

「それは大丈夫だ、何せ――」


クレハが、詠唱を中断させるために放った攻撃が命中するとほぼ同時に、淡い緑の光が竜の体を包んでいく。


「――あれは回復魔法だからな」

「そんな……」


肉の蠢く不気味な音と共に。落ちた頭を再生させる竜。

クレハの放った斬撃はあまり効果をなさず、浅い傷を作り、すぐに再生されてしまった。


「ジーナ、その待機させてるまほうとりあえず撃ってくれ」

「は、はい」

「大尉は全員連れて下がってくれ」

「しかしだな」

「撤退しろと言ってるわけじゃない。少し下げてくれ」

「……何をする気だ」


返事をせずにナギが飛び出す。


「ジーナ!」

「はい!禍風(アエル・ガイスト)発動します」


ジーナの放った黒い突風は、呪いの風。

効果としては、範囲内の生物の生命力を削り、行動を制限するものだ。


「なるほど、禍風が効く程度には弱っているのか」

「ナギ!魔法が」

「わかった」


すぐに詠唱解除を放つ。

帝国軍は少し離れたところまで撤退を完了していた。


「さて、これをどうしてくれるか……」

「今の状態で、残りどれぐらいなのかしら?」

「そうだなぁ、30%ぐらい残ってるんじゃないか?頭落しても死なないから確かなことは言えないけど」

「もう一回アレを撃てば沈むんじゃない?」

「いや……なんかお怒りになってるみたいだし、難しいんじゃねーかな」


発動しかけている魔法を順に解除しながらナギが答える。


「たしかに、ナギさんが魔法解除してなかったら結構ヤバいですよね」

「残り30、近接だけで削れるかしら……」

「さあー……」


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