#scene 01-28
「それより先に聞いておきたいんだが、帝国政府は王国と戦争したいの?どうなの?」
「……あまり大きな声で言えないが、今まで軍のトップにいた第一王子が、第二王子が皇位に就くと同時に軍から離れてしまってな。なんでも、自分がここに残ればいずれ自分を持ち上げて軍事で国を動かそうとするものが現れかねないから、だそうだが」
「なるほど、正規軍もあんまり派手には動きづらい状態なわけか。じゃあ、なんで出てきた?」
「しいて言うなら今のオーシプ方面の指揮官が無能でな。来週には更迭する予定だが」
「今さらっとすごい内部情報漏らしたな。とりあえず、お前らとしては戦争は望んでいないと」
「ああ。正直負けることはないと思うが、それでも誰も死なずに勝つのはありえないだろう」
「という事で、ごまかし切れるかわからないけど、とりあえず、オレの案に乗ってみない?」
「案というのは?」
「とりあえず、今考えついたのは“友人の結婚式を彼の希望である帝国軍式に執り行うためはるばるガルニカまで部下を連れてやってきた”というのはどうだろう」
「……無理があるのではないか?」
「なに、一回でも通してしまえばこっちのもんだ。砲にしても、裏に停めてある装甲車にしても“戦闘行為の為ではない”って言い切れば勝ちだ」
ナギが悪い顔で笑う。
「……あれが装甲車だとわかるか」
「さすがに徒歩で来るには早すぎるだろう。大きな装備を持っているわけじゃないし一台に10人ぐらい乗れるとして裏に6台とまってる、と」
「それでも装甲車を知っているとは何者なのだ?」
「先月ぐらいにコルテスの帝国軍詰所で見たぞ?」
「普通に見学しに来ていたのか……まあ、その話はいいとしてだ。そもそも、私とこの町の人間が友人となるような可能性が低いだろう」
「大丈夫だ。今朝ここで婚姻届を提出した帝国の男爵がいるんだな」
「本当か」
「ああ、そいつを取り合えず友人という事にして、どうだろう」
「少々苦しいが、やってみるか……それで、その男爵というのは?」
「何を隠そう、オレだ」
「!?」
兵たちもざわつき始める。
「冗談ではないのか?」
「ジーナ、証明する方法ってあったっけ?」
「ギルドカードに記録されているのでは?」
「なるほど、じゃあコレ。まあ、領地なしの下っ端貴族だけど」
「一応、私のも」
ナギとクレハが自分のギルドカードを渡す。
「ナギ・C・シュヴランとクレハ・ヒューゲル=シュヴラン……シュヴラン男爵家だと!?」
「あれ?そんなに有名?」
「アウグスト・シュヴランは妻を持たず、子供もいないという噂だったから、まさか継ぐ者が現れるとは」
「まあ、不本意というか。義父が爵位を持っていたこと自体知らなかったけどな」
「シュヴラン男爵を出せば王国も強くは出ないだろう。向こうもアウグスト・シュヴランの錬金術は欲しいだろう。もしかしたら、向こうからも祝いの品が送られてくるかもしれんな」
「まあ、ジジイが得意だった薬系はあんまり得意じゃないけどな。どっちかっていうと魔道具専門」
「確かに軍式の結婚の祝い方はあるし、派手な分類に入るので時たま貴族たちが執り行う事もある。それに、奥方のヒューゲル家は武門の長だ。少し違和感があったとしても、何とかなるだろう」
「よし、決まりだな」
「誰か、副隊長に王国から問い合わせが来たらこう伝えるように伝令しておけ」
「はい!」
ナギの言った計画を細かく書き記した紙を受け取り、通信室へと走る兵。
「まあ、そんな感じだな。ヴォルフ大尉はとりあえず、オレと友達ってことで」
「ああ、構わない。むしろシュヴラン男爵と繋がりができたとなれば実家も喜ぶだろう」
「……アウグスト・シュヴランじゃないから大した権威はないぞ?」
「貴族社会における見栄のようなものだ。気にするな」
「そんなもんか……貴族っていうのもめんどくさいな」
「それよりも、私たちも食事にしましょう」
「ああ、ありがと。クレハ」
椀に入った豚汁とおにぎりを受け取る。
「味噌は共和国でも売ってたけれど、あまりおいしくなかったのよね。もしかしなくても自作?」
「ああ、試行錯誤の末やっと完成させた。ちなみに醤油も作ってある」
「後で少し分けてもらえる?」
「構わないけど」
「……一寸いいだろうか?」
談笑しながら食事を続けるナギとクレハをヴォルフが止める。
「なんだ?」
「その手に持っている者はなんだろうか?食器というのはわかるんだが」
「ん?ああ、箸のことか」
「そういえば、なんであなただけ箸持ってるの?」
「作ったからに決まってるだろう。欲しいなら後で作るけど?」
「お願い」
「わかった。そういえば、こっちの世界にはまだないんだったな。和食モドキみたいなのはあるのに不思議だわ」
「よくそんなもので持ち上げられるな」
「まあそのあたりは慣れだな……あ、そういえば」
ナギが半透明の箱――クレハからすればそれはタッパーと呼ばれる物を取り出す。
「たくあん漬けてるのあるんだけど、食べる?」
「……昔、祖母の家で出てきたのを思い出すわね」
「お前、なんか金持ちっぽいし、合衆国にいたみたいなこと言ってたし、あんまりこういうの食べてないと思ってたんだけど」
「そんなことないわよ、和食の方が基本的に好きだし……まあ、こっちの世界の和食モドキと合衆国の倒錯した和食はあまり得意ではないけど」
「……がっしゅうこく?」
聞き慣れない単語にジーナとヴォルフが首をかしげている。
鍋の方では残りを求めて隊員たちが争っている声が聞こえる。どうやらこの世界にもじゃんけんはあるらしい。
「そういえば、帝国軍人ならなにか王国の面白い噂とか聞かないのか?」
「唐突だな……そうだな、貴族連中の手駒になり下がった王族たちのせいで市民が十全に苦しんでいるとか」
「それのどこが面白いんだよ……というかそれは知ってる」
「それなら、こんな話は知っているだろうか。最近、王国内でサイアーズ社という商会がかなり大きくなっていてな。相当な賄賂を貴族側に流しているらしく、レヴェリッジ社はそれを見限って帝国か共和国に移転しようとしている、らしい」
「サイアーズか……聞いたことないな」
「帝国にもいくつか入ってきている。たとえばこれだ」
見慣れた物よりも一回り大きな機巧装置をナギが受け取る。
「でかいな」
「第4世代型機巧装置EVE……というらしい。正直魔法はあまり得意でないので詳しいことは説明できない。ただ、これは従来の物と違って2つの魔法珠を同時にセットしておけるらしい」
「へぇ……そんなことしてよく内部で反発が起きないな。創ったやつは天才だな」
「シュヴランの若君にそこまで言わせるとは。レイモンド・サイアーズはよほどの技術らしいな」
「――レイモンド?」
「なにか?」
「いや、なんでもない。忘れてくれ」
機巧装置の製作者の名前と、そこに書かれている名前が異なっていることを一先ず見なかったことにして機巧装置を返却する。
「やっぱり王国は程よくぐちゃぐちゃみたいだなぁ」
「オーシプ国境のコルトーの街に居をおく領主はかなり評判がよくない。王国に入るなら遠まわりになるがカレヴィ側から入った方がいいだろう」
「そうか、でも敢えてその街を見に行ってみたいって気持ちもあるんだよな」
「ナギさんはチャレンジャーですからね……」
「死なないようにね?」
「そうだな。まあ、なんにせよ明日生き残ってからの問題だ」
「そうだな。それでは片付けはこちらでしておく、明日は頼んだ」
「努力するよ。じゃ」
ナギとクレハが立ち上がり、宿へと戻っていく。
「大丈夫、なんでしょうか」
「今は彼らに賭けるしかあるまい。何せ、中位の亜竜種だ。普通に戦うと倒すのに何十日かかるか……」
「そんなにかかるものなんですか!?」
「ああ、それも一個大隊が必要だ。絶えず攻撃し続けなければならないからな」
「……ほんとにどうなるんでしょう」
ジーナの心配をよそに日は沈んでいく。




