#scene 01-27
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「よし、まあこんな感じでどうだ?」
「いいと思うわ」
一度、体を洗ってから武器の性能を確かめ、再びクレハが湯殿に戻ってきたときには既にナギの手によって装備が完成していた。
「下着もここまで凝るとは思わなかったけれど……あとはスカーフとかタイとかそういうのもたくさん作ってるし……」
「その辺は気にするな。お前のリクエスト通り作ってたらなんかスイッチ入ったみたいで、途中から神が下りてきたようにアイデアがだな」
「そのようね。貴方の趣味がかなり反映されているような気がするのだけど?」
「否定はしない」
「そう。夫じゃなかったら斬り殺してたわ」
「あぶねぇな。とりあえず、コートはオレと同じタイプで、トレンチコート寄りだな。タイも同じで、ボトムスはホットパンツでここまで色は黒」
「ベストは?」
「あんまり全身真っ黒にするのもどうかと思ったから作ってないけど、その分シャツの強度上げておいたから許してくれ。どうしても防御に心配があるなら下に着れる何かを考えるけど。あとはタイツが何枚かとオーバーニーソックス……と下着類。三日月型のカフスとタイピンだな」
クレハがコートを持ち上げて眺める。
大きな表情の変化は見られないが、嬉しそうだからいいとしよう。
「ところで、真っ黒もある程度覚悟してたんだけど」
「オレだけだったらそうしてたかもしれないけど、さすがにそれはないかなと思って」
「さすがね。じゃあ、汗を流してからそっちに着替えようかしら」
「そうだな」
「貴方も入るの?」
「どうするかなぁ……別に汗はかいてないし」
「あ、あのー……」
脱衣所から仕切りを一枚隔てた向こう側から声がする。
「ジーナ?」
「はい、ナギさんもいますよね?」
「いるけど、もう軍の連中着いたか?」
「そうですね。30分後ぐらいから打ち合わせをしたいと」
「おーけー。ジーナも入ってく?魔力回復しきってないだろ?」
「……なんでわかるんですか?えっと、御言葉に甘えてもいいんでしょうか」
「いいのよ。ナギは、どうする?」
「さすがにジーナの裸見るわけにはいかないし、先に戻って炊き出しでもしてる」
「なんでそうなるの?まあ、いいけど。行くわよ、ジーナ」
「はい……って、クレハさんこの下着とかとか……えっと」
「可愛いでしょ?ナギに作ってもらったの」
「……あの、この下着少しセクシーすぎませんか?」
「別に、見せる相手は決まってるしいいんじゃない?」
「ふぇ!?そ、そうですよね!」
そんな会話が聞こえてくる脱衣所を名残惜しく感じながらも出たナギは、ガルニカの町へと戻る。
軍が到着したことでいくらか活気が戻ったかと思いきや、さすがは帝国軍。
迸る威圧感によって、昨日まで喧しかった冒険者たちも縮みあがっている。
「予想通り、酷い雰囲気だなぁ」
「失礼だが」
「ん?」
背後から駆けられた声に振り向く。
「今回、我々の討伐を補助してくれるという若者は君だろうか?」
「ああ、そうだけど……アンタは、帝国軍の大尉さんか」
「よくわかったな」
「階級章見ればわかるさ」
嘘であるが。
「それで、説明はしてもらえるのだろうな?」
「ああ、指定の時間通りに全員にしよう。ナギだ。よろしく」
ナギが手を出す。
「名乗っていなかったな。今回の作戦の指揮を執る、ヴォルフ・レンギンだ。一先ずはよろしくと言っておこう」
ヴォルフがナギの手を取り握手する。
「まあまあ、悪いようにはしないからさ。“レンギン”っていうのは、やっぱりレンギン伯爵家のことなのか?」
「そうだが、私は次男なので家督は継がない、楽に接してくれ」
「言われなくてもそうするけどさ。それより、軍の装備について少し聞かせてくれないか?」
「ある程度は構わないが……」
「まあ、見せてくれるだけでいいんだけど、あと、腹減ってない?」
「そうだな、あまり食料は持ち込んでいないし、ガルニカの町は備蓄が少ないというよりも無に等しいから買い上げることも難しい。正直兵たちからは不満が出ている」
「やっぱりな。まあ、ちょっと警備隊の詰所まで行くか。そこに集めてるんだろ?」
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「ナギ、貴方ほんとに炊き出ししてるのね」
「おう、コミュニケーションに必要なのはうまい飯だ」
「貴方がそれでいいなら良いのだけど」
「ナギさん、こっちのスープはこれでいいんですか?」
「おう、そろそろ配膳してくれ」
「了解っす!」
「……なんで軍人さん手なずけてるの?」
「みんなお腹すいてたみたいでさぁ」
そう言いつつも黙々とおにぎりを握り続けるナギ。
「手伝おうか?」
「頼めるか?」
クレハと二人で淡々とおにぎりを握っているところにヴォルフがやってくる。
「すまない、ナギ。そろそろ時間なのだが……そちらの御嬢さんは?」
「ああ、紹介しよう。オレの嫁だ」
「どうも、クレハです」
「私より若く見えたが既に伴侶がいるとは」
「いや、軍人なんてしてたら出会い少ないだろうに」
「そうでもないぞ?女性兵も結構いる。実際うちの部隊にも6人ほどいる」
「あ、さっき米炊くの手伝ってくれた子たちか」
「ああ……――ってそうではなく、そろそろ時間なのだが」
「わかった。すぐ行く……よし、50人だったよな?1人3個はいけるな」
「中隊にしては少なくないかしら?」
「半分はコルテスに残してきているからな。そちらは副隊長に任せてある」
「なるほどな」
「ナギさん、もう来てますか?」
「あ、ジーナいいところに。運ぶの手伝ってくれ」
「え!?はい、構いませんが……」
簡易の会議室にはボードとテーブルが用意され、全員配膳された豚汁に舌鼓をうっていた。
「どうでもいいけど、なんで豚汁?」
「なんか炊き出しって言ったらそういうイメージがあって。まあ、いいだろ。満足してるみたいだし。よし、食べながらで良いから聞いてくれー、あとおにぎりは一人3つな」
威勢のいい声が帰ってきて、ヴォルフが頭を抱える。
「とりあえず、あの猪竜についての情報だが、基本的に皮が厚いせいで物理攻撃、特に爆撃系は効きづらい。抗魔能力も異常に高いからダメージは基本的に通らない」
「そんなものをどうやって殺す気だ?」
「さっきヴォルフ大尉に見せてもらったが、レヴェリッジ社製の迫撃砲、あれならばそこそこのダメージを見込めるだろう。ただし、回復能力がこれまた異常に高いからこっちを先にどうにかしないと迫撃砲程度のダメージだとかすり傷にもならない」
「……本当にどうやって殺す気だ?」
「先ず、クレハ・ジーナの一撃の火力で奴の心臓を潰す。それで、抗魔能力と再生力が格段に落ちるからそこにオレが戦術級の魔法を撃ちこむ」
「なるほど。しかし、そこまですればさすがに死ぬのではないか?」
「いや、現に死んでないだろ?」
「……すでに一回その所業を食らっているのか」
驚いた顔をするヴォルフ。
「だから、その後クレハが首を落とす。その直後から、帝国軍の皆さんは猪竜の傷口に向かって一斉砲撃、もう一回オレが戦術級の魔法を撃ちこめば沈むのではないかと考えてる」
「なるほど……だが、そちらの御嬢さんにそんなことが可能なのか?」
「ああ、見た目はただの美少女だが、これでもヒューゲル流の免許皆伝だ」
「なるほど、それともう一つ、ナギ、君は戦術級の魔法を連続で撃てるほどの魔術師なのか?」
「いや?」
「は?」
「オレは術師は術師でも錬金術師だ」
「……なるほど、その辺の機巧技師よりも機巧装置の扱いに自信があると?」
「まあ、任せとけ。そんで、次の話に行く前に質問ある奴いるか?」
「はい!」
手が上がる。
「なんだ?」
「この豚汁というスープはおかわりしていいのでしょうか」
「いいけど、後にしろ」
歓声が上がると同時にヴォルフが眉間を押さえる。
「……アンタの所の兵たち欠食すぎね?」
「すまない。オーシプは発展途上の国ゆえ、あまり美食という文化が無いのだ」
「つまり、帝国の料理になれてる奴らにとっては物足りないと」
「そういう事だ、それで次の話とは?」




