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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#01黒の剣姫編
25/131

#scene 01-24

「90万って、どこからそんなお金出たんでしょうか」

「さあ?結構大きいギルドみたいだし、貯めててもおかしくないんじゃないの?」

「――ちなみにナギさんとクレハさんの個人資産は……」

「ん?手持ちは500万ぐらいだな。銀行に700万ぐらい預けてるから1200万ってとこだな。そうかギルド用に口座作っとくべきか……」

「私は300万ぐらいだったかしら。あ、私も100万ぐらいそっちに移しておくわ」

「………」

「やっぱり貯金は大事だぞ?貴族だろうと何があるかわからんし。それよりも、あのデカブツの対処方法だが」


ナギが腕輪から取り出したよくわからない物質を錬金術で手のひらサイズの猪竜に変形させる。


「とりあえず、メインのメンバーはオレとクレハ、ジーナだけで行う」

「わかったわ」

「やはり私は頭数に入れられますか」

「待ちなさい。たった3人でどうしようというのですか?」


支部長が制する。


「あんまり弱い奴らを出して怪我されても困るし、別に3人だけでやろうとは思ってない」

「え、そうなんですか?」

「たとえ頭落しても死ぬ確証がない以上、万全の準備をしていかないと」

「やはり、冒険者たちを動かすんですか?」

「それはない。アイツらは死にに来てるんじゃないし、戦う義務もない。警備隊なら話は別だ。それに、まとまりのない冒険者100人よりもそれなりに統率のとれた軍隊30人の方が使える」

「具体的にはどうするんですか?」

「まず、さっき言った方法で首を落とすところまで行くだろ?」

「ええ」「はい」「…………」

「その後からオレが魔法の待機時間に入るからそれまでの間警備隊の連中にひたすら撃ち続けてもらおうかと」

「なるほど。万が一殺し切れなくてもさすがに戦術級の大魔法を二発も喰らえば沈みますよね?」

「断言はできないけど、たぶん大丈夫じゃないかしら?」

「という事で、ジーナくん。警備隊との橋渡しは任せた」

「なんでですか!?ナギさんが直接言えばいいじゃないですか」

「アホか。そんなことしたら最悪バトルに発展するわ」

「なんだ。自分の性格わきまえてるのね」

「まあな」


ナギがグラスに残っていたエール(あまり冷えてなく不味い。というかそもそも炭酸が弱い)を飲み干す。


「そういえば連絡取れるってことは警備隊には通信設備があるのか?」

「はい。共和国発祥の物で帝国が改良して実用化に至ったそうです。なんでも音を魔力の波長に変換して指定されたあどれす?に送るとか。一応統轄ギルドにもあるはずです。本部との連絡や銀行とのやり取りがありますから」

「なるほど」

「街道わきに1キロ間隔ぐらいで刺さってる白いポールがその中継をしているみたいですね。魔力を発してるせいか周りに魔物が良く集まって来るんですけど」

「あのポールそんな道具だったのね……」

「なるほど。その通信機は今度見せてもらうとして、そろそろ宿に戻るかな」

「そうね」


ナギとクレハが席を立つ。


「それではお金は明日お支払いしますのでギルドの方に………ってなんですかこの額!?」

「何も間違ってないけど?」

「いやいやいやいや」


ジーナが請求額を指しながら言う。


「情報量:58人分 58万Eって!」

「この居酒屋に58人がいたからな」

「そんな」

「ジジジジ、ジーナくん!?これ以上はホントに私の首が」

「じゃあ、そんな支部長さんに免じて割引だ」

「本当かい!?」

「55万Eでいいぞ」

「割引って3万だけですか!?」

「不満か?」

「それはもう」

「そりゃ、残念だったな」


ナギが銀貨を数枚テーブルにおいて居酒屋を出て行く。


「……自分とクレハさんの分だけきっちり払っていきましたよあの人」

「食事代を持ったからという理由で値引く作戦が……というか、この損害はジーナくんのせいじゃないかな!?」

「気のせいですよ」


そう言い切ったジーナも自分の部屋に戻るため席を立った。


                  ☽


「なんで慈善事業のためにこんなに厄介なことになってんだか」

「あれだけ暴利をむさぼっておいて慈善事業って、笑わせてくれるわね」

「笑っていいぞ」

「冗談よ」


活気を失ったように感じるが、この町が元通りになるかどうかはナギの双肩にかかっていると言っても過言ではない。


「火力が足りないな」

「そうね。せめてもう何人か同じ程度の戦闘能力がある人間がいれば……」

「そういえばキーリーは錬金術師なのか?オレが視た時は商人Lv.3だったけど」

「自己申告だけど錬金術師Lv.8だって言ってたわ。“強行錬成”も使ってたから嘘ではないと思う」

「本当に適正あったんだな……」

「それよりも、商人なんて職業あるんだ……」

「ああ、いろんなのがあるぞ。冒険者って書いてある奴も見たことあるけど、どうなってんのかなこの世界」

「固有職業:冒険者ってダメ人間にしか見えないんだけど」

「一時期ジジイが熱を上げてた女は女狐Lv.5だったけど、Lv.8になったらどんな奥義取得するのか気になってな」

「国を滅ぼしうる職業ね、それは」


そんな話をしているうちに宿“虎の子亭”へ到着する。


「戻ったぞ」

「なんかすごい魔物が出たらしいな」

「魔物じゃなくて亜竜な」

「違いが良くわからんが、まあ気をつけろよ。ところで食事は?」

「食って来た」

「そうか。湯はいるか?」

「それも済ませてきたからいい。すまんな」

「気にするな。じゃあゆっくり休んでくれ」

「ああ」


階段を昇り、すっかりなじみ始めた狭い部屋に入る。


「おい、何自然に入ってきてる」

「気にしないで」

「まったく……まだしばらく寝ないぞ?」

「ええ。作業するなら見てるわ」

「視て楽しいもんじゃないと思うけど……そうだ装備創るなら寸法とか……まてまて、何脱ぎ始めてんだ!」


服を脱ぎ始めたクレハを慌てて止めるナギ。


「測るんじゃないの?」

「……素晴らしい提案だがオレ視たらわかるんだ」

「そう。遠慮しなくていいのに。お風呂で全部見られているし」

「そうだけど、なんかこうあるんだよ。色々」

「良くわからないわ」

「そうかい。それで、装備はどんな感じにする?」

「貴方と同じコートとベスト、下はショートパンツでいいわ」

「さすがにスカートはないか」

「ええ。確実に捲れるから。動きやすさもだけど、一応年頃の婦女子としては可愛さも重視で」

「わかった。だが、基本的にデザインに自信がないから、よくなかったら指摘してくれ。可能な限り期待に応える。他にはないか?」

「そうね、靴とニーハイソックス、あとはタイツと、下着一式かしらね」

「えっと……靴はいいとしてだな、そこから後はオレの身経験のゾーンになるんだけど、市販品じゃダメなのか?」

「可愛くない。あとすぐ破けたりするから」

「なるほど……理由はわかったけど、それオレじゃなきゃダメか?キーリーに頼んだりとか」

「うまく伝わらないのよね……世界観が違うから。そもそもこの世界にはタイツなんてないし」

「そうだっけ?まあ、何とかしてみるけど、なんか厚さとか柄とか色とかいろいろあるじゃん?その辺はどうする?」

「とりあえず黒で作って。寒くなるし透けない奴で。そう簡単には破れない仕様で、通気性は良くしてほしいわ」

「無茶苦茶言うな」

「下着もそんな感じでいいわ」

「まあ、何とかしてみるよ」


ナギがいくつかの布を取り出して作業を始める。


「そういえば、機巧装置は持たなくて良いのか?使いこなせれば発動速度と魔力の燃費が良くなるぞ」

「それはわかってるけど。アレ高いじゃない。持ってて当然のように言うけど」

「そうだったな。じゃあ、そっちも用意するか……」


ナギは会話をしながらも着々と作業を進めていく。


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