#scene 01-23
三人が町の中に入った直後、警備隊によって門が閉じられる。
一部の冒険者たちは避難を始めているようで、心なしか数が少ない気がする。
ジーナが、警備隊の隊長格と思しき人物に声をかける。何やら連絡事項があるようでいくつか口頭で伝えた後こちらに戻ってきた。
「本隊からから連絡があったようなので詳細を聞いてきました」
「本隊って言うと、どこになるんだ?」
「首都コルテスに常駐しているのが本隊になりますね。オーシプ自治州は共和国や王国のように大きな軍隊を持てないですから。ええ、不特定多数の意味で」
「自治を認める代わりに一定以上の戦力を保有できない――リスティラ自治条約だっけ?」
「はい。ですので各自治州は“軍”に代わる代替戦力を集めるのに必死なんですよ。オーシプなら傭兵や冒険者、すなわち“力”を、カレヴィは金融や商売によって“財”を、アドリアは学園や大学の経営によって“知”を。まあ警備隊を増やせない理由は単純に人が少ないのと、お金がないのもありますがね」
「ルーツ自治州が省かれたけど、なぜ?」
クレハの質問にナギが返答する。
「あそこは王国が邪魔をしなければ国に成れるんだ。元々王国に滅ぼされた国が再起しただけだから、それなりに戦力も持ってるし、法国としては過去の過ちの清算としてできるだけ擁護したいみたいだし」
「ルーツ自治州はヴェルカ人の国ですからね」
「なるほど、それで話は変わるけど、もう帰っていいの?」
「すいません、休んでいただきたいのは山々なんですが、今回の件についての詳細を支部長が聞きたいと」
「ん?まあ、それぐらいなら良いけど。どこ行けばいいの?ギルド?」
「いえ、それが。食事でもしながらと」
ジーナが居酒屋を指す。
「クレハも来るか?」
「じゃあ、着いていく」
ナギを筆頭に居酒屋の扉を開く。中はいつも冒険者たちでごった返しているのだが、今日の雰囲気は少し違った。
「なんか、暗いな」
「そうです、ね」
「まあ、いいや。とりあえず、話しようか。コイツらも詳細知りたいだろうし」
わざと大きな声を出しながらナギがジーナに言われたテーブルに着く。
そこには、眼鏡をかけた中年男性と受付嬢の一人が座っていた。
「思ったより若いな、支部長」
「良く言われます。それでは、ジーナ君、警備隊からの報告をお願いします」
「はい、警備隊は明日到着し、明後日より対象への攻撃を開始するそうです」
「そうか。よかった、一段落つきそうだね」
ほっとした顔をする支部長。周囲の冒険者たちも安堵の表情を浮かべている。
「ジーナ、警備隊の数と装備の詳細わかるか?」
「え?はい、おそらくですが中隊1つ、大体180人ぐらいだと思われます。装備は火薬式銃かと」
「そうか……」
「どうしたんですか、ナギさん」
「いや、明日のうちに町出た方がいいかな、と思ってな」
「え!?どういう、ことです?」
「恐らくだが、その部隊がどんなに優秀でも全滅するだろうし、ガルニカは壊滅するだろうし、最悪オーシプという国自体が潰れるクラスの大破壊が起きるな」
「せめて迫撃砲、とまでは言わないけど、機巧式の銃でもない限りはまともにダメージが通るとは思えないけど」
給仕が運んできた食事を口に運びながら、ナギとクレハがそれぞれ言うと、居酒屋の中の空気は一気に静まり返った。
緊張した顔で話を切りだすのは支部長。
「しかしだね、今この国の打てる最良の手なわけだよ?これ以外に方法がないのだから……「あるだろ」……?!」
ナギの言葉が支部長を斬る。
「帝国軍を派遣してもらえば何とかなる。兵の練度が段違いだし、装備の質も高い」
「しかし、そんなことをすればオーシプは……」
「帝国と王国の戦争に巻き込まれるだろうけど、このまま行ってもどの道滅ぶんだぞ?」
「警備隊を信じるしかないでしょう」
「……はぁ、だから、それは絶対無理だって言ってるだろうが」
「お前に何が――「ナギさん、どうしてそう言えるんですか?」
激昂する支部長を手で制し、ナギに尋ねるのはジーナ。
「高くつくぞ?」
「情報料はギルドからだします」
「一人、金貨一枚だからな。忘れんなよ?」
ナギが立ち上がる。
「まず、目標のスペックから話そうか。基本的に体表は鎧のような鱗で覆われているので物理攻撃も魔法攻撃も通さない。弱点があるとすれば、喉の辺りからしっぱの付け根辺りまでの腹側の部分だ。ただし、相手はほぼ不死のレベルの回復能力を持っている。固体属性は地属性だが、抗魔能力がかなり強いから風のAクラス以上の魔法でしかダメージは通らない。現在は魔法で無理やり眠らせているが、その期限はあと54時間ってところだな」
「――ここにいる全員と、到着した中隊で一斉に攻撃を掛ければ」
「支部長、それは無理です。私は実際に戦闘に関わりましたが、心臓を潰されて30秒で回復する化物が、たとえ一斉攻撃したところで死ぬとは思えません」
聞き耳を立てていた連中が息をのむ音が聞こえる。
「ナギさん、今日の分の戦闘の報酬としてお二人で聖貨1枚、100万Eをお支払いします。そして、討伐報酬として聖貨3枚をお出ししますので作戦をお願いします」
「ジーナ君!?そんなことしたら私の首が」
「支部長の首程度で済むならば安い買い物だと思ってください。それで、ナギさん……」
「――契約書、すぐ用意してくれ」
ナギがそういうと、支部長の横に座っていた受付嬢が居酒屋を出て、ギルドに書類を取りに戻る。
「倒す方法は一つだけ」
「それは……」
「目覚める前に、もう一度心臓を潰す。そして、回復する前に戦術級の超破壊魔法を撃ちこんで極限までダメージを与えた後、首を落とす。制限時間は30秒」
「そんなことが可能なんですか……?」
「ギルド風に言うなら、Lv.7以上10000人以上推奨、それぐらいの難易度だと思ってくれ」
「そんな無茶な……」
「なあ、術師の兄ちゃん」
「ん?」
周囲の冒険者の1人から声が上がる。
「その作戦、やっぱりベアルさんも参加するべきだよな?何せあの人はLv.7の斧術士だし……」
「いや?」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
男たちが一斉に疑問の声を上げる。
「お前ら今の話聞こえてなかったのかよ、制限時間30秒って言ってるだろうが。なんで魔法もまともに使えない脳筋鈍重を連れて行かなきゃならんのだ」
「そこはアンタがフォローすれば……」
「フォローできるような余裕があれば一人で倒せてるわ」
「あの、ナギさん。ベアルさん、部下を庇って大怪我されたようで……」
「で?」
「……いえ、なんでもありません。ナギさんは間違ってないですしね」
「ポーションを、ポーションを売ってくれ!」
「なんでだよ、昨日Lv.6を3つも売っただろうが」
「ベアルさんが、重症の新入り達に使ってやれって、だからもう全部使っちまったんだよ」
「――バカじゃないの?」
クレハが声を上げる。
「戦闘が終わってない以上、使える駒から優先して回復させるの常識でしょう?」
「クレハ、コイツらが戦術とかそういうこと考えて行動してると思うか?」
「まったく思わないけど」
「頼むよ!いくらでも出す!」
「出すと言われてもな、無いもんは売れない」
「そんな……」
「ポーションを使わなくても継続して回復の魔法を掛け続ければそのうち治ると思うけれど」
「そ、そうか!術師、魔宝石を売ってくれないか!?」
「そんなもん通りの店で買え」
「えっと、ナギさん。ここ一応僻地でして。そういう高級な魔宝石は取り扱ってないかと」
「マジかよ」
「頼む、この通りだ」
頭を下げる男たちにため息をつきながらナギが手持ちの魔宝石から適したものを探す。
「クラスB魔宝石だから75万に諸々込みで90万Eでどうだろう」
「くっ、足元見やがって」
「売らねーぞ?」
「買うよ!90万でも100万でも出すから!」
「じゃあ、100万な」
「勘弁してください」
嘘だよ、と笑いながら代金を受け取り、急いでホームに戻っていく男たちを見送る。




