#scene 01-20
「強力な風魔法というと、禍風ですか?」
「いやいや、そんな魔法オレが使うわけないだろ」
「いや、知りませんけど……」
「まあ、見てなって」
式が収束し、魔法陣が展開される。
「またこんなものを……」
「えっと、戦術級の大魔法ですか……?」
「そうそう、行くぞ」
杖を振るう。
魔法陣は猪竜の足元に描かれ、急速に光を帯びる。
「暴風暴刃」
巨大な瓦礫をも簡単に巻き上げる竜巻が竜の体表を削っていく。
「PGGGGGGGGGGGGGGGGGGGG!!?」
「おおお……効いてるなやっぱり」
鋭い風の刃によって全身を斬り刻まれ続ける猪竜は悲痛な声を上げ続けている。
「これだけで倒せるんじゃ?」
「いや、無理だろ……ほら見てみ?」
魔法が解け、竜巻が消え失せた後には傷だらけではあるが、割と平気そうな様子の竜の姿がある。
「弱点とかは?」
「そうだな……左前脚の少し奥。そこからなら心臓に届くかも知れん」
「やってみましょうか」
「というか、ナギさんはこんなの撃って魔力は残ってるんですか?」
「ん?ああ、まだあと一発ぐらいは撃てるけど?」
「私との勝負の時に使わなかったからかしら?」
「そうだけど、こんな魔法人間相手に使ったら原型残んないだろうが……」
「いや、まずこのクラスの魔法を一日に何発も撃てる時点でおかしい話なんですけど……」
「いやいや、精々5、6発だって」
「それがおかしいんですよ!……はぁ、もうなんか疲れてきた」
「まあ、とりあえず、行ってきてくれ。オレここから酸投げてるから」
ナギが瓶を構える。
「私に当てないようにね」
「努力する」
ナギが放った瓶は綺麗な放物線を描いて猪竜の頭に着弾し、割れた。
「GGGGGGGGGGG!?」
「あ、片眼潰れたかも」
「ナイス」
クレハが飛び込む。
狙うのは、先ほどナギから言われた場所。
斬りかかろうと踏み切ったところ、こちらの気配に気づいたのか竜がこちらへ大きく首を動かした。
「くっ!?」
「クレハさん!」
反対側からジーナが声を上げながら竜の首付近へ向かって強力な突きを放つ。
「PPPPPPPPPP?!」
「今です!」
「一の型――寒星〈空〉」
クレハの放つ斬撃が、心臓付近の肉を深く斬り落とすが、息の根を止めるには至らず、猪竜は大暴れを始める。
「浅かったか……」
「おい、お前ら離れろ!」
片耳にはめたイヤホンからナギの声が聞こえる。
すぐに後退をはじめながら、竜の方を見上げると、頭上には巨大な魔法陣が。
「ナギ!これ」
「無理だ!間に合わん、それより離れるぞ!」
大急ぎで先ほどまでの倍の距離を取る。
「ちっ、出て来るか」
「ナギさん、土砂ごと消滅させるのはできませんか!?」
「無理だな。ジーナはこのまま走って町に警戒するように伝えてくれ。最悪全員避難だ」
「は、はい!」
ジーナが加速し、町へと向かうのを見送る。
「さて、その起動しかけの魔法は何?」
「効くかわからないが強力な眠魔法だ。効くかわからんけど」
「二回言った……」
ドン、といった音が背後から上がる。
土を跳ね上げ、猪竜がこちらへ狙いをつける。
「早く、早く!」
「これ時間かかるんだよ、あと45秒ぐらい」
「ええ!?」
「走るぞ!」
ナギが杖を持っていない方の手でクレハの手を引き、走る。
竜はドドドド、と音を揚げながらこちらへと走ってくる。
「速い!?」
「傷負っててあれとかマジかよ……」
「魔法は!?」
「もう終わるっ!」
ナギが方向を変える。
それと同時に杖に魔法式が収束し、
「ナギ!」
「大丈夫だ。効いてくれよ―――誘眠花歌」
「PGGGG!?」
その巨体を取り囲むように大量の花の刻印が展開される。
「効いてるか!?」
「待って」
先ほどまでの勢いはないが、こちらへと足を進めて来る。
「まだ動いてる」
「ちっ……」
「でも、これぐらいなら、狙えるわ」
「――あと20センチぐらい奥だ。行けるか?」
「届かせてみせる」
「わかった」
ナギが魔宝石を代える。
「加速はオレが掛ける。刻印の上を真っ直ぐ走っていけ」
「ありがとう」
無理やり体を動かしている猪竜の足元まで真っ直ぐにナギが加速の魔法を仕掛ける。
「次は、斬る」
クレハが一歩目を踏み出し――加速。
二歩目でさらに――加速。
3歩目、4歩目と、こちらの歩幅を計算してか、完璧な位置に魔法が設置されている。
――これなら、
気付けばデュアルテスクドラグの正面に、しかし、相手はこちらを捉えきれていない。
――好機!
「十の型――新月」
機巧刀に限界まで魔力を注ぐ。
「いけ!」
薄緑色に輝く刃が心臓へと届き、血が噴き出す。
「GGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGG!!!?」
「クレハ!」
ナギがこちらに駆け寄ってくる。
全身の魔力が抜け、崩れ落ちるクレハ。
「おい、大丈夫か!?」
「魔力無くて、動け、ない」
「わかった、だが、コイツ倒れるから急いで離れるぞ」
そういうとナギはクレハの腰とひざ裏に手を入れると抱えあげ、一気にその場を離れた。
ずうん、と重い音を立てて猪竜が地面に倒れる。
「勝ったの?」
「……いや」
「――え?」
「心臓は潰した、が再生が早過ぎる。たぶん、すぐに起き上がるぞ」
「嘘でしょ……」
「やっぱり首落とすぐらいしないとダメなんだろうか」
「どうやって倒すのよ、ほんとに」
「だが、クレハのおかげで魔法抗力が弱まって、オレの魔法が効いたらしい。2、3日は起きないと思うからその間に何とか対策をしよう」
「……逃げないの?」
「逃げるか?」
「いいえ、もうここまで来たら倒すわ」
「そういうと思った。とりあえず、いったん町に行こう。近づかないようにしてもらわないと」
「……それはいいんだけど、いつまで私は抱えられているのかしら?」
「気が済むまで」
「誰の?」
「オレの」
「……まあいいけど」
竜の血を浴びたクレハを抱えているため、ナギまで血塗れだが気にしている様子はない。
そして無線からジーナの声が聞こえる。
「ナ、ナギさん。クレハさんも大丈夫ですか!?」
「そっちは大丈夫か?」
「はい、とりあえず混乱は収めてきましたが、……倒したんですか?ここからだと倒れているように見えるんですけど」
「いや、眠らせただけだ。目覚めたらトドメさしに行くが、2日ぐらいは余裕あると思うから、とりあえず休ませてくれ」
「えっと、じゃあ、私は誰も近づけないように南門の封鎖をしてきますね。ナギさんたちは無理せずゆっくり帰ってきてください」
「ああ、―――っと、切れたか」
「ゆっくりって言ってもね……」
左右を見渡し、荒野しかないことを再確認するクレハ。
ちなみに後ろには極大サイズの猪が眠っている。
血の流れが止まっているところを見ると、傷口はもう既に塞がっているらしい。
「風呂でも入るか?」
「え?」
「血塗れで気持ち悪いだろ」
「まあ、そうだけど……どこで?」
ナギが、地面を指す。
「……まさか、創る気?」
「それぐらいの余力はある」
「貴方ね……」




