#scene 01-19
猪型の竜がすぐに暴れはじめるのではないかと緊張したのも束の間、脚が短く、羽もないため、大穴から上がって来れずじたばたするデュアルタスクドラグ。
「……おい、こいつどうする?」
「ほっておいてもいいんじゃない?そのうち餓死するかもしれないし」
「なんというか……こうやっている間に封印されたんだなっていうのがわかりますね」
3人で温かい目でもがく猪竜を見つめる。
「といっても、封印術なんて使えないしな」
「教会に連絡する?」
「法国から聖騎士を派遣してもらっても着くまでに一週間ぐらいかかると思いますよ」
「その間に外壁壊されて登って来るかもな」
「早めに町を出ましょうか」
「そうだな」
「ええ?!お二人ともガルニカを見捨てるんですか!?」
ジーナが涙目でナギの胸元を掴んで揺さぶる。
「いや、そんなこと、言われても、これ、人間には、倒せない、だろ……というか揺さぶるの、やめて、吐く」
「さすがにこれだけ大きいとね」
「――……これが目覚めたのってお二人のせいではなかったでしょうか」
「「……………」」
目を逸らす二人。
「責任とって何とかしてくださいよぉ!」
「いや、オレたちのせいだとは限らないんじゃないかな?」
「そうね。展開していた魔法陣の内容もよくわからないものだったし……」
「もし、逃げるというなら。私は警備隊に証言しますよ……」
「そうなる前に、ジーナさんの記憶を改ざんすることぐらいは可能だ。よし」
「よし、じゃないです!」
再び、もがく猪竜の方を見る。
未だに、なにかを起こす気配はなく、必死でもがいている。
「ナギさんが錬金術でここに蓋をしてしまうっていうのはどうでしょう?」
「範囲が広すぎる。それに、もしできるとしてもほとんど魔力が残ってないし、根本的に何を材料として蓋をするのかっていうのもあるし、魔力が全快状態でもたぶんその質量だと無理。そもそも、蓋をしたところでコイツ自体の封印が解けちゃってるからすぐにぶち破られるだろうし、魔法的抗力が働いてるせいで場所に対する改変がまったく受け付けないから―――まあ、無理だな」
「――らしいわよ?」
「ええ、聞いてましたけど……」
ずん、と重い音が響く。
猪竜が壁に突進を仕掛けた音だ。
「おわ、今すごい揺れたな」
「そうね、早く出ましょうか」
「ああ」
「なんで帰ること前提で話進めてるんですか……」
「いやだって、倒しても報酬とかでないんだろ?」
「そうですけど……ほら、そこは善意で」
「善意だけで命懸けれるほど御目出度い頭はしてないのだけど」
クレハがやれやれと言った表情でため息をつくのを呆然として見るジーナ。
「わ、判りました。私が報酬出してもらえるように掛け合いますから」
「いくらぐらい?」
「き、金貨30枚ぐらいでしょうか」
「クレハ、亜竜一匹の最低報酬ってどれぐらいだ?」
「この前翼竜亜種のワイバーンを単独で狩った時は金貨40枚ぐらいだったかしら」
「まあ、確実にワイバーンよりは強いだろうし、聖貨1枚、100万Eは頑張ってくれ」
「えええ!?絶対無理ですよ!?オーシプはそこまで財政よくないんですから」
「えええー」
「というか、ワイバーン倒せたならアレも倒せませんか!?」
「ワイバーンなんて翅さえ斬ればただの雑魚なのよ。アレは違うじゃない」
「なあ、クレハ。普通はその羽を切るのが難しいんじゃないかな、うん」
再び重い音が周囲に響き、地面が大きく揺れる。
「まあ、魔法的保護がかかってるからそう簡単には壊れないだろう。時間はある」
「とりあえず一回戻る?」
「そうだなー……――ん?」
ナギが真剣な表情になり、竜を見つめる。
「ヤバいかも」
「「?」」
ナギの見ている方向へと視線を向ける2人。その瞬間、猪竜を中心に極大の魔法陣が浮き上がる。
「間に合えよ!」
杖を構えるナギ。
「あの刻印初めて見るんですが……まずいのはわかります」
「そうね……私、集中力乱すために叩きに行こうか?」
「いや、もういい。とりあえず今回はこっちで何とかする」
ナギの周囲を回転していた魔法式が収束し、杖へと集まる。
「詠唱解除」
ナギが放つ白銀の光が魔法陣にぶつかり、魔法陣が砕けていく。
「何の魔法だったの?」
「土砂崩れ」
「壊せないから足場作る気でいるのね……」
「時間無いじゃないですか!?」
「大丈夫だ、あのクラスの魔法だとそうホイホイは撃てないだ、ろ?」
ナギがそういった瞬間、再び魔法陣が展開された。
「おいおい、マジか」
「ナギ、もう一回さっきの」
「いや、クレハ。オレが止めるから解除頼む」
「止める?――まあいいわ」
「頼んだ」
ナギが杖のスロットに黒い魔宝石を入れ、魔法を起動させる。
クレハは剣を構え、ダメージが通りそうなところを探す。
「クレハ、喉だ」
「了解」
クレハが駆けだすのと同時に、猪竜の魔法陣が輝きだす。
「ナギさん!」
「わかってるよ――詠唱停止」
輝きながら回転していた魔法陣が停止する。
その間に、クレハが急接近し咽喉へ斬撃を叩き込む。
「三の型――瑞星」
空を走る斬撃が、竜の咽喉へと達した瞬間、悲鳴と共に魔法陣が消える。
「どうするんですか!?」
「にげるか?」
「そうね」
「倒してくださいよ!クレハさんの攻撃効いてるじゃないですか!」
「どれぐらい削れてるの?」
「詳しいことはわからんが、アレで1%ぐらいじゃないか?」
「らしいわよ、無理じゃない?」
「二人で無理ならだれにも倒せませんよ……」
「いや、帝国軍の迫撃砲を1000発ぐらいブチ込めば沈むんじゃないか?」
「帝国軍なんか動かしたら、いよいよオーシプが地図から消えますって……確実に王国と戦争起きますし」
「というかオレたちでも無理だと思うぞ?万全な状態なら可能性はあるかもしれんが、今ほら、ボロボロだし」
「うん」
「なんで私闘でそこまでするんですか!?」
最早何に怒っていいのかわからなくなってきたジーナが半泣きでナギに食いつく。
「――まあ、やれるだけやってみてもいいけど。報酬の打診はしてもらうからな」
「タダ働きは嫌よ?」
「え!?本当ですか?」
「最低でも聖貨1枚だがな。2人だから2枚か。あと、ジーナにも手伝ってもらうから」
「勝てないと判断したら逃げるからね」
「うわ、なんかすごく不利な契約をさせられているような……」
「ドンマイ」
「ええ!?」
ナギが腕輪からいろいろ道具を取り出す。
「とりあえず、これ全員つけろ」
「なんですか、これ」
「短距離無線。あとは、そうだな……クレハこれ持って行け」
「いいの?」
「ああ。お前が使った方がいい」
機巧刀をクレハに渡す。
「それから、風の魔宝石も一人一個持って行け。一応最高等級よりも5段ぐらい等級高いと思ってくれていい。ジーナはオレの予備の機巧装置を使ってくれ。自前の奴じゃ古すぎて魔宝石が価値をなさない」
「ううう、言われると思ってました」
手のひらに収まるサイズの円盤の様な形の機巧装置を受け取る。そこに魔宝石を入れ、魔力を流し感覚を確かめるジーナ。
「これ、すごすぎませんか……今まで使ってたのが玩具のように感じます」
「まあ、ジーナのは実際古すぎると思うが。一応、市場に出回ってる奴よりも2世代ぐらい後の装置だと考えてくれ」
「技術革命起こす気ですか……」
「やってもいいけど、やり過ぎたら(神様に)怒られそうだからやめとく」
ナギも杖の設定を終え、竜へと向き直る。
「とりあえず作戦だけど、前衛はクレハ、遊撃はジーナで行くぞ。オレは後衛な」
「はい」「構わないわ」
ナギが猪竜の背を指して言う。
「とりあえず、オレが魔法であの装甲削れるか試す。削れたら弱点探してクレハに伝えるからそこを狙ってくれ。魔力ほぼないんだから技の連発は控えてくれ」
「ええ、できるだけ使わないようにするけれど。この太刀に食われる魔力はどれほどなの?」
「そうだな、斬る時だけ流すようにすれば技一発分も使わないと思う。というか、いあっまでお前が使ってた両刃剣と違うけど行けるか?」
「大丈夫」
「ジーナさんは距離保ちながらクレハがヤバかったら気を引くぐらいの感じでいい」
「わ、判りました」
ナギが杖に魔力を込めると同時に、魔法式が展開される。
「手始めに極大の魔法打ち込んでやるよ」




