#scene 01-01
人が住んでいるエリアのみカウントした際、大陸の南端に位置するといえるオーシプ自治州。
そのさらに南端。
冒険者たちが集う街ガルニカ。お世辞にも綺麗とは言えない街だが、腕に覚えのある冒険者たちはここを目指す。
その理由というのも、ここより南は未開拓の区域で強い魔物や珍しい魔物がうようよいる。
つまりは、それなりに腕がある者にとっては絶好の稼ぎ場となっているのである。
もちろん、こんなに辺境であっても統轄ギルドは存在する。
統轄ギルドとはミロスラヴァ共和国初代大統領――異世界人という記録も残るシン・カミナが設立したもので、全国各地にまばらに存在していたギルドを統括する機関として作られた。これによって国・自治体からの定期的な依頼が1つのギルドに集中することはなくなったが、今でも大手のギルドでは指名依頼が入ることが多い。
統轄ギルドの下には商会ギルド・公益ギルド・職人ギルドなど大きな括りの物と個人ギルドがあり、特に商会や職人たちはそういったギルドに所属している。
一方、“冒険者”と呼ばれる人種の多くは公益ギルド“青い翼”に所属しているが、一部の戦闘のスペシャリスト達は傭兵ギルドとの掛け持ちを行っている。
基本的に国や自治体の出している魔物の討伐などの依頼で得られる金銭は統轄ギルドから“青い翼”を通して支払われるため、“青い翼”内に存在するクエストボードは個人ギルドに所属する者たちも利用し、“青い翼”を一度通すという形で報酬を得ている。しかし、その際は、個人ギルドに所属していないものと同じく、いくらかの手数料を取られることも追記しておく。
個人ギルドを設立するメリットとしては、統轄ギルドや依頼主から直接依頼が来たり、強大な魔物の討伐のために国から招集がかかったりする際、一切の減額なしに100%の報酬を得られるほか、報酬の額を依頼主と交渉して決めたりするなど、自由度が少し増す点である。一応は統轄ギルドへの報告の義務があるが、記録に残さないアウトローな仕事を行うギルドも多い。
そして、ここは“青い翼”サウスゲート支部。
ガルニカという町が正式にできるよりも前にここに存在するためガルニカ支部ではなく、サウスゲート支部となっている。ちなみに直す予定はないらしい。
この町は超超発展途上というべきか必要なものはあるがそれ以上のものはないという感じである。
娯楽は娼館が一つあるのみ。こんなものを娯楽としてカウントするのもどうかと思うのだが。
しかし、ここに来るのは冒険者たちがメインで、その他には酔狂な旅行者が来るのみとなっている。
一応、自治州の警備隊が常駐しているが、数も少ないため治安維持の効果があるかというとそうでもない。
バンダナを付けた青年・ナギはクエストボードを眺めていた。
今日でている依頼はブラッドウルフとかいう狼の毛皮を集めるという依頼のみである。
「なあ、ジーナさん。これどういう事?」
受付で書類を整理していた女性に声を掛ける。
既に昼前。他の冒険者たちは既に狩りに出ている時間だ。
「ええっと、確かイネス王国の方からの依頼で、王の即位30周年に合わせて近衛たちに新しい制服をとかなんとか……」
「へぇ……さすが王国。金の使い方が下手だな」
「えっと……いつも思ってるんですけど、ナギさんは何をしてるんですか?働かなくていいんですか?」
「ストレートに来たな……」
「ええ、たまに魔物の素材を売りに来たりするだけで、とても生活していけるような金銭を稼いでるようには見えないんですけど……」
「いやいや、オレ錬金術師だから。戦闘系じゃないのよ?わかる?」
「この間、Lv6・3人以上推奨の魔物キラーベアを一人で狩ってきてませんでしたっけ?」
「ああー、そんなこともあったな……。アレ?それ報告してねーぞ、オレ」
「目撃者からの情報提供がありまして」
へぇ、見られてたのか。と別に焦る様子もなくつぶやくナギ。
「そもそも錬金術師って戦闘しないですよね?職人じゃないんですか?」
「まあ、基本的にはそうだな」
「じゃあ、ポーションでも売って生計建ててるんですか」
「お、やっと気づいたか。そうそう。ぼろ儲けだぜ?そんで、たまに素材を集めるために、草取りに行ったり、水汲みに行ったり、熊狩ってみたりするわけだよ。ほら、ちゃんと錬金術師してるだろ?」
「最後のがおかしいような……」
ジーナはため息をつくと、持っていた資料をそろえて、机に置いた。
そして、続ける。
「とにかく、戦闘職じゃないなら、ちゃんとした護衛を雇ってください。危険です」
「うーん……じゃあ、ジーナさん着いてきてくれない?」
「……え?」
「オレの見立てでは、この町で一番強いのはアンタなんだけどなぁ……」
「え!?いえいえいえ、私は唯の受付嬢ですから!それに強さならやっぱりベアルさんじゃないですかね。“駆け馬”のギルドマスターの」
「どうだかねぇ……」
「何を言い出すんですか突然……ああ、びっくりした」
「ははは、じゃあオレも狩りに行ってくるかなぁ」
「今の話聞いてましたか!?」
外に出ようとするナギの腕を掴んで引き戻すジーナ。
「大丈夫だって、たぶん」
「たぶんって言ってるじゃないですか!」
「信用しろよ、オレを」
「今までの行動の中に私を信用させるに足る要素がありましたか?」
ジーナに睨まれ、ナギが笑ってごまかす。
「しかし、アレだな。オーシプは帝国の保護受けてからある程度平和になったと思ったけど、辺境まで来るとそうでもないのな」
「そうですね……ナギさんは共和国の出身でしたっけ?」
「ん、まあ、そういうことになってるな」
「?……どういう事でしょう?」
「まあ、オレの事はいいんだよ」
それより、というとナギがカウンターから身を乗り出してジーナに問いかける。
「ジーナさんはどこ出身?というかここに来る前何してたの?凄腕の傭兵かなんか?」
「なんで私が強い前提で話す進んでるんですか!?」
「え、強くないの?」
「何度も言ってますが、私は唯の受付嬢ですよ?」
「うぐぐ……なかなか頑なだな」
「私に何をさせたいんですか全く」
ジーナは手元に置いてあったポットを手に取ると、カップに注いだ。
「飲みます?」
「うん、もらう」
黒い液体の入ったカップを受け取り口に含む。
見た目からして珈琲だと判断し、勢いよく飲み込んだが、違った。
「うげ……えほっ、えほっ!何これ!?」
「体にいいハーブティーです」
「いや、そうなのかも知れなんだけど……畦道みたいな味するよコレ!?」
「痩せるんですよ」
「えええ、この世界の女の子は大変だな。こんなもんダイエットに使うのか……」
「ええ、オーブリーではこれが普通でしたよ」
「オーブリーってことは、王国出身か……」
「あ……」
「確か、ルーツ自治州の国境に近い街だったよな?」
「私としたことがつい口を滑らせて……」
「……そんなに知られたくなかったのか?安心しろよ、誰にも言わないから」
「ありがとうございます……」
ここは礼を言われる場所なのか少し迷ったが、受け取っておくことにして、
「そうそう、ギルド創ろうと思うんだけど、ジーナさん入らない?」
「えええ!?急にどうしたんですか?」
「いや、別に。先月ぐらいから考えてたんだけど……」
「いや、知りませんよ……」
確か、ギルド設立の書類は……といいながら、棚を漁りはじめたジーナ。
そして1分もたたないうちに一枚の用紙を持ってくる。
「これを統轄ギルド“剣と車輪”に持って行ってください。というか設立に費用が要りますけど……あるんですか?」
「今手持ちに300万ぐらいしかないけど足りる?」
「……なんでそんなに持ってるんですか。登録料は2万Eですよ。金貨2枚です。わかりますか?」
「ああ、うん。オレってそんなにダメそうに見える?」
「いえ、そうではありませんが……」
「ん、じゃあ明日にでも行ってくるわ」
そういうと受け取った書類を何処かに片付けるナギ。
「前々から思ってたんですけど、それって賢者の腕輪ですか?」
「ああ、これね。そうだけど」
「天才錬金術師アウグスト・シュヴランが生み出したと言われる魔道具ですよね。かなり高価なものだとか……ナギさん、あなた何者ですか?」
「んー……、今のところ一般人のつもりだけど」
「それでごまかし切れると思ってませんよね?」
「まあね」
そんなことをしているうちに、朝早くから出ている冒険者たちが帰ってくる時間になったようで、乱暴にギルドの扉が開かれ、喧しい3人組が入ってきた。