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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#01黒の剣姫編
19/131

#scene 01-18

                  ☽


ナギとクレハが死闘を繰り広げているとき、ガルニカの町のギルドは大混乱に陥っていた。

ジーナもその混乱の渦中で慌ただしく動いている。

原因は異常事態。


つい先ほど軽い地震があった直後から、森中の魔物たちが一斉に移動を始めたという連絡が入った。


「すいません、ベアルさんたちは町の遊撃を中心にお願いします!警備隊の方にはギルドですでに連絡していますので、早めに連携を取れるように準備を」

「任された。ボドワン、指揮を頼む」

「了解しました」


“駆け馬”に所属する魔術師Lv.5・ボドワンが外で待機するギルドメンバーの元へと走る。


「こんな時にお二人はどこへ……」


ナギとクレハ。おそらくこの町にいる者の中でも最強格の二人の行方が分かっていない。


「ジーナちゃん、黒髪の二人なら、遺跡の方に行くのを見たぞ!」


冒険者の1人が声を上げる。


「ホントですか!?私、少し行ってきますね!」

「おい、危ないぞ!魔物の群れは遺跡に向かってるという情報もある!」


ベアルが止める。


「大丈夫です、自分の身ぐらい守れますから。それに、そっちに向かってるならなおさら伝えに行かないと」


ジーナがカウンターの下に消えたかと思うと、長槍を取り出す。


「それは……」

「ナギさんに機巧装置調整しておいてもらってよかったです。後は頼みますね!」


久しぶりに機巧装置を発動させる。

魔力を通わせるこの感覚も懐かしい。


順風(フリー)


風魔法で加速し、長槍を担いだジーナが街を駆け抜ける。


                  ☽


「はぁ、はぁあっ………は、ははは」

「く、は……んっ。はぁ……」


互いに、致命傷になりえる箇所へ深く傷を負ったまま、地面に膝をつく。


「これは、相打ちかな」

「……どうかしら、三本目飲めばもう一度ぐらいは斬り結べるけれど」

「もうやだよ、オレ」


ナギがよろよろと立ち上がる。

血塗れの手を祭壇に突き、体重を預ける。

クレハも同様に祭壇に軽く腰掛ける。


「それじゃあ、引き分けってことで。それで、“賭け”はどうするの?」

「……どっちも勝ち、じゃダメか?」

「ふふ、いいわよ。何だか機嫌がいいから」

「じゃあ、そういうことで」


ナギとクレハが同時に最後のポーションを飲む。

その後、お互い顔を顰めながら増血丸をかみ砕き、ナギの用意した水で流す。


「なんだか、くらくらするわ。血に酔ったのかしら」

「思うに、貧血じゃねーかな?」


立ち上がろうとしてふらつくクレハをナギが慌てて支える。


「それで、私は私のすべてを賭けたつもりだったけど、どうするの?」

「それはもしかして、ん!?」


目の前には黒色の瞳。さっきまで魔法が発動していたせいか。

唇には熱い柔らかい感触と、血の味が。


「私をこれだけボロボロにして、責任とってくれないの?」

「……結構自己責任も入ってると思うが。というか今はお互い正常な精神状態じゃないから明日話し合おう」

「……ええ、そうしましょうか。今ちょっと素に戻って恥ずかしさで死にたくなったし」

「おい」


クレハの手を取って、帰ろうとした瞬間二度目の地震が起こった。

先ほどよりも強く、そして長い。


「何が起きてるの?」

「ちょっと待てよ……」


振り返り、足元を見る。

今しがた流した血は、溝を伝い――祭壇の下へ。

たどり着いたのはごく微量ではあるが、祭壇に仕掛けられた何かしらの魔法を発動させるには十分だったようだ。


「あ、これ不味い奴だわ」

「何があったの?」

「なんかの魔法が発動したっぽい」

「え……だから、言ったじゃない」

「ここで、全部オレのせいにするの!?」


展開している魔法を解析する限り、まだ本格的には発動していない様子。


「どういう魔法?」

「引き寄せ、挑発、興奮、闘争……そんな感じの効果が混ざってる」

「それ最悪のパターンじゃない?」

「―――――ギさん!」


声が聞こえ、振り返る。

向こうからは、槍を背負ったジーナがこちらへ走ってくる。


「ナギさん!それにクレハさんも、こっちのほうに魔物の群れが……ってどうしたんですかこの血!」

「落ち着け、ジーナ。深呼吸だ」


ジーナをいったん落ち着かせ、それから喋らせる。


「どうしたんですか、この血痕。人一人分ぐらい散ってる気がしますけど。というか、なんでお二人ともそんなにボロボロなんですか?」

「あ、そっちから入るんだ」

「ちょっと、本気で死闘を」

「この大変な時に……」

「……というかその大変な現象、オレたちのせいだと思うなぁ」

「へ!?」


ナギが祭壇の上に出現している魔法陣を指して言う。


「さっき本格的に発動した」

「えええええ!?」

「どうするの?」


足音が聞こえ始めている。

砂埃が上がっているのも見える。


「そうだな、今から機巧魔法を待機させて、ギリギリまで引き寄せてから一掃するかな」

「それなら何となりそうね」

「だが、一つ問題があるとすれば」

「なんですか?」


ジーナが問いかける、クレハはどうやらわかったようで、ナギの代わりに答える。


「この下にあるかもしれない何かしらの封印が解ける可能性があるのね?」

「まあ、この遺跡自体の発動条件は“魔力”か“血”だろうからな。高位魔法でも数がいるから肉片一欠片、血の一滴も残さずに全部消滅させるのは難しい」

「でも、一縷の望みに掛けてやってみるしかないんじゃない?もうそこまで来てるし」

「だな。二人とも、オレから離れすぎるなよ。巻き込むぞ」


ナギは機巧刀ではなく機巧杖に持ち代えている。

そして、幻の魔宝石(ファントムジェム)を機巧装置にそ装填し、魔力を注ぎ込む。


「ここまで極大の魔法はあまり使う機会ないからな。ちょっとうれしい」

「ナギさん!?」

「私も、少し興奮してきた」

「クレハさんまで!?」


魔法陣に誘蛾灯に集う羽虫のごとく吸い寄せられ、3人はあっという間に周りは囲まれた。

魔法の起動式が完成するまではジーナが魔法で周囲を護る。


風魔法“風鎧(トルネ・アルマ)”。狭い範囲に限られるが、近づく者を斬り刻む結界を張ることができる高位の魔法だ。

もっともジーナは魔法への適性が高い方ではないので、機巧装置頼りで発動させているのだが。


「行くぞ!下がれ!」

「はい!」

「幻魔法で唯一と言っていい物理破壊魔法。それも戦術級大量破壊魔法だ。その名も――」


杖を中心に展開されていた式が収束し、天に極大の魔法陣が出現した。


「――死天墜撃(ハザ・ギ・レア)


魔法陣から真っ直ぐ打ち下ろされた白銀の魔力の塊が、一瞬にして魔物たちを滅ぼしていく。


「ナギさん、これ――――――!?」

「思ったより、すごいかも」


ナギの周囲は効果範囲から除外されているが、それでも大光量に視界は真っ白に焼き尽くされ、なかなか回復しない。


10秒ほどたち、ようやく視界が回復しはじめた彼らが見たのは無残に崩壊し、元の型のわからない肉片と化した魔物たちだった。

何かの獣だったのかもしれないし、虫型の何かだったのかもしれない。

地を駆ける者か、空を飛ぶ者か既に判別はつかない。

集まっていた魔物たちはほとんどこの末路をたどったらしい。

効果範囲外で免れた一部は踵を返して森へと戻っていく。


「消滅系かと思ったけど、そうでもなかったな」

「それよりどうする気?」


ズン、と足元で音が響く。


「何か目覚めたわよ?」


今までどうやっても傷1つつけられなかった地面に亀裂が走る。


「やっべ、とりあえず離れるぞ!」

「ええ」

「は、はい」


急いで、広場の外へと走る。

それを追うように亀裂走り、3人が広場を出た瞬間、地面が砕けた。

落下していく瓦礫の下に、巨大な牙をもつ巨体が現れる。


「GGGGGGGGGGGGGGGG―――――!」

「うわぁ、なんだアレ。でかっ」

「……不味いわね、これ。解析は?」

「牙竜亜種 デュアルタスクドラグ。体長13.6メートル、高さは6.8メートル。属性は地」

「これ死ぬの?」

「生きてるんだから死ぬんじゃないか?」

「お、お二人とも何冷静に分析してるんですか!?亜種とはいえ竜ですよ!ドラゴンですよ!」

「ジーナさん、今日ハイテンションだな」

「何かいいことでもあった?」

「気分的には最悪ですよ!」



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