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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#01黒の剣姫編
17/131

#scene 01-16

ほとんど二人同時に、時の魔法を展開する。

時の魔法“加速(アクセル)”。理論的には、移動速度を上げているわけではなく、移動時間の方を短縮している。

速度を殺さず、まっすぐ迫る。つばぜり合いになり、お互いの腕には速度分の衝撃が走る。

ナギが歯をくいしばって耐えるが、クレハの方はある程度慣れたものだ。


「相当再現されているわね」

「まあ、身体のスペックはオレの方が劣ってるから」

「でも、貴方には剣の補助があるんでしょう?」

「どうだかね」


常人には把握しづらいほどの速度で、互いに斬り結びあう。

クレハも完全に対応できるわけではないため、いくらか傷を負う。

動けなくなるまではポーションを使わないようにしようと決めたため、皮膚が少し裂けた程度では気に留めない。


左からナギの刃が迫る。

この程度なら躱せる筈だ、と左前に踏み込み、攻撃を行おうと剣を振るった瞬間、横腹に大きな衝撃が走った。


「っ!?」


咄嗟に真左に加速し、直撃を避けようとしたが、間に合わなかったようで、腹に打撃を食った。


「――どうした?」

「剣自体が加速したように見えたけど?」

「はは、さすがだな。その通りだ」


ナギの機巧剣にセットされているのは時の魔宝石。

機巧魔法を扱えるような機巧式ではないとしても、ある程度の属性は得られるようだ。


「続き行くぞ。長引くとオレの不利になるんでな」

「ええ、どうぞ。こちらも本気を出すまでよ」


加速の魔眼。

これの効果は基本的には“加速”と同じだが、こちらの方が持続性が高い。

加速と加速の二重掛けで、速度を極限まで上げている。

加速の魔眼の効果はそれだけではなく、こちらの挙動全てに補正がかかる。

移動速度だけを上げても、剣速が遅ければ意味がない。そういう意味ではクレハは大陸最速の剣士と言える。


その高速の剣を持って、ナギへと斬りかかる。

普通ならば通るこの一撃も、ナギの操る加速能力のある機巧剣によって防がれる。

クレハは口元に笑みを浮かべながら、次の攻撃へ移る。


「十の型――新月」


刀身が空に溶けるように消え、驚くナギ。

速度は落としていないため対応は難しいだろう。

すぐに、大きく距離を取るため後ろに飛ぼうとするナギ。

しかし、それは一瞬間に合わず、左肩から袈裟斬の要領で浅く切りつけられる。


「速さに気を取られ過ぎた、な」

「そのようね。血が出ているわよ?」

「このぐらい、気にしなくてもいい。というか、なんでこのベスト断てるんだよ」

「それ着てなかったら今頃死んでるわよ?」

「お前な」


ナギの来ているシャツが赤く染まっていくが、それほど多い出血量ではない。


「包帯巻くぐらいの時間は待ってあげるけど?」

「いや、次の機会にとっとくよ。しかし、今の技はどうなってんだ?」

「さあ?使えるようになったけど、仕組みは理解してないわ」

「無茶苦茶だな」


ナギが機巧刀から時の魔宝石を排出し、銀灰色の石を入れる。


「行くぞ、」

「ええ」


剣を下に構えたまま、ナギがまっすぐこちらに走る。

このまま素直に攻撃を仕掛けてくるような男ではないのはわかっているので、一応何が来ても対応できるように加速する準備は怠らない。


「なるほど、大体わかった」

「何がかしら?」

「十の型――新月」

「っ!?」


彼が放つ不可視の斬撃。

こちらの左腕を縦に裂く。


「どうよ」

「それで、仕組みは?」


かなり深く斬られたようで、血は地面へと流れ落ちる。

袖から腕をはずし、包帯を巻きながらクレハが問いかける。


「たぶん加速によって認識の外に持っていくとかそんな感じだと思うんだけど」

「全然わかってないじゃない」

「……それより、あまりにも自然とやり始めたからびっくりしたけど、相手が治療してる間って待つもんなの?」

「普通は待たないわね」

「だよな」


きつく傷口を縛り、腕を袖に通す。

利き手ではないためポーションを使うほどではない。


「三の型――瑞星」

「うわっ、あぶね!?」


地面を走る斬撃を放つ。

ナギが慌てて横に転がって躱すのが滑稽でつい笑ってしまった。


「笑ってんじゃねーよ。というか治療を待ってもらった相手に対する仕打ちかよ」

「別に攻撃してはいけないと言ってないけれど?」

「このアマ……」


ナギが口元を引き攣らせながらこちらへ突進する


「単調な動きだと斬ってくれと言っているようなものよ?」


ナギを挑発するようにジグザグにステップを踏みながら、下がる。


「くそ」

「隙あり、ね。五の型――遊星」

「くっ……ってうおっ!?」


急所を突く一撃を当てたと思ったが、ナギが突然視界から消えたため位置が大幅にずれた。

剣先が額を掠った程度の傷ですんだナギだが、滑った際に腰を強打したらしくよろよろと起き上がった。


ナギが滑った要因はクレハの落した血だったが、


「この地面、なんか水気を吸収しないみたいだな……」

「傾斜になってるし、祭壇に雨水でも集めるんじゃないかしら?」

「なるほど……とにかく滑り易いのは気を付けないと」


痛みが引かないらしく、腰をさすりながらナギが呟く。

額から派手に出血しているため、手早く止血処置を行う。


「お前、髪切るなよ……」

「大丈夫よ。変化はないわ」

「そうか?ならいいけど」


眼の方に流れてきていた血を手で拭うと、ナギがから攻撃を仕掛けてきた。


「七の型――流星」

「甘いわ」


ナギの放つ突きを軽く躱し、渾身の蹴りをナギへ打ち込む。


「ぅぐっ」


加速を5重にかける。


「七の型――流星」


ナギの胸の下あたりを貫通した刃を伝い、地面に血が流れる。

肝臓に達したようだ。ついでに血管も切れたのか相当量の血が出ている。

剣を引き抜くと、より出血は激しくなる。


「――――――――――ッ!!!」


声にならない悲鳴を上げながらも、無理やり体を動かし、ポーションの瓶を開けると一気に飲み干す。

10秒もしないうちに怪我のすべてが完治し、万全の状態へと戻った。


「でたらめな薬ね……」

「――っはぁ、はぁ……魔法薬、だからな」


増血丸を口に含んで噛み砕くナギ。にが、と顔を顰める。


「……というかさっきから確実に殺しに来てるよな」

「気のせいよ、きっと。それよりも流星はもっと速度上げないとだめよ?」

「助言感謝する」


それじゃあこちらからも一つと、ナギが言うと機巧刀に魔力を流した。


「「加速(アクセル)」」


速度としては圧倒的にクレハの方が速い。

しかし、ナギはギリギリ反応しきれているため、簡単に攻撃は通らない。


「四の型――丘月!」


クレハが地面を砕く一撃を放つが、上手くいかない。

どうやら魔法的保護が掛けられているようで、破壊することができないようだ。

ナギはそれに気づいていたようで、こちらの生んだ隙をにやりと笑った。


「十の型――新月〈(エイ)〉」

「!?」


自分の達していない境地。

しかし、それはナギの持つ機巧刀だからできる技でもあった。

ナギの動きは速くなく、右側から刃を振るう。

それに対応すべく、剣を右にあてると、ナギの姿自体がぼやけて消える。

幻魔法の代表格“幻像(ミラージュ)”。それをこの技に組み込んできたのだ。

気付いた時には左脇の下辺りを深く斬りつけられていた。


「……っ。止血ができないところを」

「これでお相子だろ」

「ふふふ、その技、次は視切って見せるわ」


ポーションを流し込み、怪我を癒す。

突如痛みがなくなるこの感覚は未だに慣れないが、悪くはない。

出血は彼ほど多くはないが一応、増血丸を使っておく。


「まったく、どうしてこんなことしてんのかね」

「油断してたら死なすわよ?」


急加速し、接近、上段から斬りつける。


「ほんとに怖い御嬢さんだわ」


ギリギリで防いだナギが冷や汗を流しながらこちらを押し返す。


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