#scene 01-15
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ガルニカの町の南東に位置する古代文明の遺跡。
一説には千年以上前に栄えた文明の遺跡と言われている。
法国から何人か神話や古代文明の専門家が派遣され、調査したらしいが、特に詳しいことはわからなかったらしい。
そもそも、ガルニカより南の土地は未開の地であり、どうしてこんなところに遺跡なんかがあるのか、という問題だが、それについては既に解が出ている。
この世界の神である大地の神 アデライダ。豊穣や慈愛なんかを司るとされ、教会でまつられているものである。
それと対をなすのが天空の神 ヘルミオネ。法や契約を司るとされ、基本的にはアデライダよりも高位の神とされる。そして、ヘルミオネのもう一つの役割が、この世界の初期化。
間違った方向に発展した文明を度々消滅させているらしい。
ヘルミオネによる初期化が行われたのは800年ほど前で、そのころからの記録を見る限り、こういった形式の遺跡が見られないため、現文明の物ではないとされた。
「それで、ここの遺跡はなんなの?」
「この町に来たときに軽く調査したんだけど、広場の中央に祭壇みたいなのがある以外は特になにもわからないな。もしかしたら、この広場に刻まれた溝がなんか魔法的な役割があるのかもと思ったけど、それなら法国の専門家が気づいてるだろうし」
地面に刻まれ、祭壇から放射状に延びている溝をさわりながらナギが言う。
「なんか封印されたりしてね」
「怖いこと言うな」
ナギが立ち上がり、地面の上に放り出していた機巧刀を拾い上げた。
「で、何賭ける?」
「私の方は、私自身とでも言っておきましょうか」
「なるほど、豪気なこった。じゃあオレの方は自分についての情報と装備一式とかかね」
「ええ、それでいいわ」
「でも、その前に。フェアになるようにオレの情報は先払いしてやろう」
「あら?いいのかしら?」
「どうせ勝っても負けても明かすしな、それともう一つ」
ポーションを3本。それと丸薬を5つクレハに手渡す。
「今回使っていいのはそれだけな。オレも同じ条件でやる」
「こっちのポーションはLv.8ね。それで、この丸薬は?」
「増血剤だな。まあ使い方は任せる。ただ一つ注意するとすれば、でかい傷口がある時にそれ飲んでも全部出るだけだぞ。かなり即効性だからな」
「わかったわ。それで、あなたの情報とやらは?」
「ああ、オレは錬金術師だというのは知っているだろう?」
「ええ」
クレハが真剣な顔でうなずく。
「そしてLv.10。一応、最高位なわけだ」
「……つまり、貴方の超越奥義が関係しているのね」
「そういうことだ」
ナギが取り出すのは真紅の魔宝石。
「この魔宝石にはお前の――剣術士 クレハ・ヒューゲルの情報が入っている」
「そういう事……それじゃあ、人の能力を複製するのが貴方の超越奥義なわけね?」
「そうなんだけど、ここから少しややこしくてな」
「?」
ナギが籠手をクレハに見せながら言う。
「これは駆動装置。ジジイが昔研究してたのを完成させたものだ」
「あなた、師匠のメンツとかホントに気にしないのね」
「効果は自分の魔法属性を変更することだ」
「……そんなこと可能なのかしら?」
「まあ、アレだ。元の属性によるというか、ぶっちゃけ幻属性の人間にしか使えない。ほとんどの人間が使うと自分の魔法属性と反発して……まあ、オブラートに包んでいえば――パァンってなる」
「それは――」
「時属性ならある程度はもつかもしれないけど、やってみるか?」
「……やめておくわ」
籠手を差し出そうとするが、クレハが断る。
「それ、本当に機巧装置が組み込まれているの?ただの籠手と言っても相当薄いし、軽そうに見えるけど」
「機巧式を組み立てて、その後錬金術で情報化して籠手の形に落とした。たぶんこれはオレにしかできないと思うが」
「あんまりすごい物作ると神様に消されるわよ?」
「だな。自重するよ」
それで、とクレハが切り出す。
「その装置が貴方の超越奥義となにか関係あるのかしら?」
「ああ、それがな。この装置がないとオレの作ったこの魔宝石が全く役に立たないらしい」
「普通に機巧装置で発動させればいいんじゃないの?」
「いや、それだと魔法の部分しか発動しなくてな。しかも余計な情報が多すぎたせいか機巧装置自体が処理の限界に達してぶっ壊れた」
「へぇ……つまり、貴方以外には完成させられなかったし、使えないという事よね?」
「そうなる。まあ、使用自体は幻属性の人間見つければできるかもしれないが」
「そんな人間早々見つからないわよ。私たちの属性は一応希少なんだから」
「ジジイは地属性だったからこの装置を完成させられなかったみたいだな。7番目の弟子が魔属性で勝手に試して実験中に四散して死んだって記録があったけど」
「……貴方の兄弟子ほんとにまともな死に方していないわね」
「ああ、オレが会ったことあるのは8番目の兄さんだけだが、あの人もルーツの独立運動に巻き込まれて死んだし」
1番目と2番目の弟子は、アウグストの才能を妬んだ他の錬金術師たちによって殺害され、反対に3番目の弟子はアウグストを暗殺しようとしたところを返り討ちに合い、そのまま処刑台へ。4番目と5番目の弟子は兄弟で、弟の才能を良く思わなかった兄が弟を殺害し、そのまま自分も自害。6番目の弟子は私利私欲のために錬金術を使い、大陸中を混乱させたため、アウグスト本人により誅殺された。
「まあ、それだけ死にまくってるのに懲りずに弟子を取るジジイも悪いと思うが」
「残っているのは貴方とあの娘だけ、ね」
「……ところで、その妹弟子の名前ぐらい教えてくれないか?」
「ええ、名前はキーリー。キーリー・シュヴランよ。確か歳は18ね」
ナギが驚いた顔をする。
「キーリーって、まさか茶髪でなんか関西弁みたいなの喋る奴か?」
「なんだ。知っているの?」
「ジジイに会いにブロッキの街に行ったときに会ったんだが、まさかあの時にはもう弟子入りしてたんだろうか……」
「弟子入りと養子縁組自体は最近みたいね。死ぬ直前に手持ちの技術と知識を預ける人間が欲しかったみたい。生前は才能があったから教えはしてたけど、正式な弟子入りは拒んでたみたいね」
「なるほどな……。可愛いから弟子入り赦したとかいう理由だったら墓消し飛ばしてやったんだが」
「向こうは名前も顔も知らないって言ってたけど、どういう事?」
「ああ、だって弟子だって明かしてないし」
「貴方がそこで明かしてたら、私こんな僻地まで来る必要なかったかもしれないんだけど?」
「知らねーよ……」
そろそろ始めましょうか、というとクレハがナギから距離を取る。
「おっと、その前に、これ」
ポケットから懐中時計を出すとクレハに向かって放り投げる。
それを受け取ったクレハは理由がわからず首をかしげる。
「ジジイが正式な弟子に贈る時計だ。開いたら中に証明が彫ってある」
クレハが時計を開くと、蓋の内側に“賢者を継ぐもの IX ナギ・C・シュヴラン”と彫られている。
「そういえばキーリーも似たようなものを持ってたわ」
「オレに会った証明に持って行け。どうせ持ってても使わんし。もう一個持ってるし」
「それはわかったけど、ミドルネーム、C?」
「苗字が三日月だからな、公式にはナギ・C・シュヴランになってるらしい。というか名前に関してはジジイが勝手にやったから知らん」
「へぇ……というか、腕輪見せるだけでも証明になると思うんだけど」
「まあ、それは――ここで死ぬかもしれないしな」
「いい覚悟ね」
クレハが剣を抜き、ナギは籠手に魔宝石を入れる。
そして、ナギが機巧刀に黒の魔宝石を入れ構える。
「ここからは」
「本気の殺し合いね」