%%n-00 管理者の二人言
天上にある己の住処で、下界の様子を観察していた女性は、異様な気配を持つ男が現れたのを見た。
「なんだ?アイツ」
「……どうしたの、お姉ちゃん」
ダイナミックに床で寝ていた妹が起きだし、自分と同じよう下界を覗いた。
「確かになんか変な奴いるね。どうするの?寄りにもよって錬金術師だけど」
「異界渡りしてきたのか……余計なもの持ち込まれる前に殺した方がいいのか?」
「わたしとしてはー……どっちでもいいけど。でもさ、最上位個体が死んじゃってるからさ、もうあれの指示通り動かなくてもいいんじゃない?」
「ん?」
「ん?じゃなくてさ。もうこの世界を、途上段階でリセットする仕事はしなくてもいいんじゃないかなって」
「うーむ、アデのくせに真っ当な意見だ」
「アデって呼ぶの辞めてくれない?かわいくないから。そんなんだから信者増えないんだよお姉ちゃん」
「やかましい。貴様の信者なんぞ私の一存で数万殺せるんだからな」
「もー、お姉ちゃんはすぐ殺すんだから」
姉の方は件の男の方へと視線を戻す。
時の流れはある程度好きにいじることができる。1年ほど早送ってみたが、もうすでにヤバいものをいくつか作ってきている。
「こいつ、No.0の住人じゃないな?」
「あの感じだと、No.1じゃないかな。あ、そういえば、少し前にNo.0から女の子落ちてきたなぁ」
「No.9で神殺しが起きてから境界がこわれやすくなってるからな」
「うちの世界は特に弱いもんねぇ。わたしの権能で大体は防いでるんだけど、最近は多くて……で、どうするのあの男」
「まあ、このまま発展させる方向に行くのを見守るのも一興か」
「いずれ世界の境界が完全に壊れたときにうちの世界だけ途上だと侵略されちゃうし」
「確かにそうだな……まあ、実際のところ、この大陸以外は全く開拓されてないから。もっと発展させてもいいのかもしれない」
「他の大陸への進出が遅れてるのはお姉ちゃんが船潰しまくったせいで外海に出ると神の怒りに触れる的なことを言われてるからだけどね」
「何でもかんでも私のせいにするな」
雑談の間にも時間は進んでいく。
「む、あっという間にNo.0レベルの生活水準の街を作りよったぞ。滅ぼすか?」
「そういうとこやぞ、お姉ちゃん。シェキナも特に何も言ってきてないし大丈夫でしょ?」
「あやつ、普通の猫みたいになっておらんか?神獣としての自覚はどうした」
「あ、いいな、わたしもあれ食べたいな」
「というか、ずっと思っておったのだが、お前のところの毛玉は……あれは何なのだ?」
「うさぎだよ?」
「うさぎぃ!?」
「逆に今まで何だと思ってたの?」
「動く毛玉だが?――む、なんだ」
「……なんかあの人間一人でこの世界の魔法のレベル3段階ぐらい引き上げていったんだけど」
「あいつ本当にNo.1出身か!?」
「No.7クラスの魔法行使力だね。科学のレベルもNo.2相当はある」
「どの世界でも異端児になるような奴をここに落とさんでくれんかな」
「あの人間も好きでこんなところに落ちてきたわけではないと思うけど」
「こんなところってお前」
観察中の人間の街はみるみるうちに完成していく。
「ガタガタの自動車が限界レベルだったところに、地下鉄走らせる様なアホがいるとは思わなかった」
「まあ、科学レベルならあの恐ろしく速い2輪車で限界は超えてたと思うけど」
「そろそろ滅ぼせと本能が言っている」
「露店掘削機作ったときは私でさえ滅ぼそうと思ってしまったよ」
「しかし、まあ、この街を基準にこの世界も発展していってくれたら」
「あ、お姉ちゃん。教会」
「どーせ、お前の方だけだろ?」
「いや立派なのが両方あるよ。しかも向かい合わせで」
「マジか。恐れを知らんな異世界人」
「お、嬉しそう」
「やかましい」
「そーいえばさ。Lv.10の奴がレベルアップしたらどうなるの?」
「この世界のシステムでは、Lv.10から上がった時点で打ち止めになって、2ジョブ目を取得する」
「そんなの見たことないけど」
「そもそもLv.10に達したのは少し前に来た異世界人だけだったけどな」
「ああ、あの超弱くて何かする前に暗殺された伝説の雑魚」
「とりあえずここまで到達した褒美にLvあげてみるか」
「いいの?職権乱用じゃない?」
「いいのいいの。私が実施トップだし」
「え?そこはわたしも同等では」
「私は姉である」
「妹の方が需要あるから」
「やはり地母神教は異教徒。滅ぶべき」
もう何千年も続けているやり取りをしながら、仲良し姉妹は引き続き地上の人間たちを観察することにした。
7年前に書き始めてからここまでで当初計画していたストーリーは結びとなりました。
少し歯切れが悪いかなと思う部分もありますので、この後のお話については外伝形式で追記していくこともあるかもしれませんが、一旦はここで区切らせていただきます。
ここまで読んでくださった皆様本当にありがとうございました。