表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#04 途上世界のクレセント
126/131

#04-ex6

失踪はしてないつもりですが、更新は超超不定期になります。

申し訳ありません。




◇ヴァルデマル鉄道で東部にいこう!キャンペーン


 本格的な春の訪れを目前にして、遂に鉄道が開通した。

 第1期の開通は、ダールベルグからフェッツまでの東西線(東側)、ダールベルグからペルシュまでの南北線(北側)、ロッシュからザームエルまでのザームエル支線(北側)、エストールからハインまでのオールディス支線(全線開通済み)。ごく短い期間であったが、18の都市に立派な駅が作られ、旅客鉄道が本格的に開通することとなる。

 料金としては、今までの都市間の馬車よりも割高にはなるが、速さと快適さについては比較にはならないレベルだ。途中の村等に寄る必要が無い者はほぼ間違いなくこれを利用することになるだろう。


 そして記念すべき第一便の出発式典がここダールベルグで行われている。実際のところ、オールディス支線については1週間ほど早く利用が始まっているため、真の意味で第一便かというと怪しいところはあるのだが。


 式典では、国の出資のもとでの竣工のため、皇帝自ら開通祝いを行い、運よくチケットを手に入れた乗客たちが列車へと乗り込んでいった。


 多くの市民が目指すのは副都シュトフェル。前皇の弟であるクロート公爵が治める人気の観光都市である。

従来であればとても日帰りで行けるような距離ではなかったのだが、鉄道の開通により、なんと首都から2時間半で副都まで行けるようになった。


「しかし、実際に乗ってみるとこれはとんでもない発明だな」


窓の外を流れていく景色を見ながら、初老男性がつぶやいた。その声に向かいに座っていた女性たちが答える。


「ライズがかなりの額を投資したときはどうしたものかと思いましたが」

「まあ、半分以上はルイテルに唆されたのでしょうけど」


服装などは裕福な商人風の格好だが、こちらは前皇とその妃二名である。

外部はなんやかんやといざこざを起こしているが、この3人自体の仲は別に悪くはない。


「それで、もう少しすればグビッシュでしょう?」

「速いですね。馬車と違って揺れも少ないのであまり疲れませんし……」

「息子の様子を見に行くためとはいえ、記念すべき第一便の1等車両の席をかなり取ってしまったからな。悪いことした」


当たり前と言えば当たり前だが、車両には数名の護衛や従者も乗っている。前皇とはいえ、王族を未知の街へ護衛なしで向かわせるのはやや無理があった。

 ただし、この仕事に当たったものとしては幸運だったのだろう。自身の仕事は全うしつつも、この特別な列車に乗ることが出来たのだから。


エストールまでの道のりは約5時間半。

長いといえば長いが、今回は副都で一端下車し、久々に弟との昼食の予定がある。

そのあと、再び列車に乗り、夕方にはエストールの入る計画だ。


道路整備の都合上、まだ自動車では通れない箇所もあるため、これよりも長時間の移動を強いられることは割とよくある。3時間半、このすわり心地の良い椅子に座っているぐらい苦ではない。


そんなこんなで、エストールに到着した。

1等車両の席を随分確保したため、それなりに金は使ったが、馬車旅だと何泊かすることになる距離なので、それを考えるとかなり安く収まっている。


「ふむ、次から遠方への移動はこれだな」

「西側には続いていないようですが?」

「そうであったな。まあ、これを体験すれば意地でもひいてくれと言いだすに決まっておるが」

「うちの実家の方は打診自体はしているようですが、ギルベルト候が首を縦に振らないようですね」

「あやつもいつまで当主の座に居座るつもりなのか。もう80近いであろう?」

「フローエ候はこの計画に協力的ですから、グビッシュとマルタを通る支線を先に整備すればよろしいのでは?」

「それではライズに離宮から直接そちらに乗り入れる線路を作るように言っておきます」

「お主ら、その費用はどこからでるんじゃ?」

バルテン公(あに)を強請りますわ」「ザイフェルト公(いとこ)を強請りますわ」

「ほんとうに実家に容赦ないな」


駅のVIP用の待合所でそんな物騒な話をしているところ、駅出口の方から見慣れた顔が入ってきた。


「やあ、父上。まさか本当に来るとは思わなかった」

「ひどい言い草だな息子よ」

「ご無沙汰しております、陛下……」

「ペトラ嬢も久しぶりであるな。あと、そこまで畏まらなくともよいぞ」

「で、何しに来たの?」

「親が子供の顔見に来ただけだが」

「いや、僕のとこくるとなんかまた、第一皇子支持派(笑)が騒ぎ始めるよほんとに」

「まあ、それぐらいならシッファー伯が何とかしてくれるだろう」

「次シッファー伯に会ったら後任探してさっさと領地に引きこもれって伝えとくね」


前皇妃二人に囲まれてうろたえているペトラを放置して、ルイテルは父親を案内する。


「なんだか随分上っているが……」

「ここ地下三階だからね」

「もしかしなくてもここの駅は帝都よりもでかいのでは?」

「恐らくそうだろうね」


「ペトラ、久しぶりですね」

「か、カタリーナ様。お久しぶりです」

「あら、私には?」

「クリスティアーネ様も、お久しぶりです!」

「クリス、あまりいじめてあげないでよ。うちの息子の嫁なんだから」

「冗談ですよ、冗談」


「ようやく地上が見えてきたな。というかこの昇降機は便利だな。城にもほしい」

「ミカヅキに発注してくれる?あ、外に車待たせてるから」


関係者用の出口から外に出ると、新型の四輪機巧車が停車していた。

また、周囲には桃色のラインの入った制服を着た兵士たちが多く控えている。


「これ、ザイフェルトの車じゃないわね?」

「ああ、うん。ミカヅキで特注で作ってもらったやつだからね。魔法も銃弾も弾くよ」


物珍しそうに車を眺めている実母を車に押し込み、自身も乗り込むルイテル。

それに続いて前皇、前皇妃、ペトラが乗り込む。


「こういうのは私を先の載せるのではないかね?」

「何でもいいでしょ?――とりあえず領主館に頼むよ。CC-F13Wね」

「畏まりました」


ルイテルが声を掛けると車が発進。人混みを抜けるまではあまりスピードは出さずに、目的地へと向かう。


「さっきのCCなんとかってのはなんだ?」

「住所だね。それで、どれぐらいこっちにいる予定?宿とか必要ならすぐにホテル用意するけど」

「お前の邸宅があるだろう?」

「あることにはあるけど、僕はあんまり帰らないよ?観光区も商業区もうちからは遠いし不便だと思うけど」

「ルイテル。お前、どうやって生活しているんだ?」

「だいたい、ナギのところにいるかな。仕事も基本的には2ブロック隣の政務館でしてるし。家に帰るのは寝る時ぐらい?」

「食事の時はほぼ確実にナギさんと一緒ですもんね」

「まあ、その方が美味しいもの出てくるっていうのもあるけど、普通に仕事の話とか遊びの話とかできるし」

「公爵の自覚はないのか……」

「別にほしくて貰ったわけじゃないしねぇ……ほら、もう着くよ」


車はエストール市役所の横を通り、謎の施設が並んでいるエリアに入る。


「……ここは?」

「ナギの研究所かな。たまに爆発したりしているけど、結界が張ってあるから害はないよ」


そんなことを言っているとき、まさに小規模な爆発が起きた。

ルイテルが右耳に手を当て、声を掛ける。


「今爆発したけど、外出て大丈夫な奴かい?煙とか」

『今日はウチじゃないから大丈夫やでー』

『ちょっと機巧式を書き前違えました。お騒がせしました』

『いいから速く浄化魔法使おうな?』

『はいな』

「まあ、害はないっぽいよ?」

「本当に大丈夫なのか……?」


そして、邸宅の前に車は停車する。

特にこれといって特異性のない屋敷ではあるが、外壁等の素材が何でできているのかはわからなかった。

そして父親がいてもいつも通りフリーダムなルイテルはまっすぐ屋敷に入っていった。

気質が基本的に似通っている母親、カタリーナもそれに続く。


「ナギ、着いたよ」

「自由か。というか前皇陛下は?」

「まだ来てない」

「なんで置いて来た?」

「初めまして、ルイテルの母のカタリーナ・レギーナ・ザイフェルト・ヴィーラントです」

「ナギ・クレセント・シュヴランです。初めまして――じゃなくて、挨拶の順番これでいいのか?」

「まあ、あんまりよくないね。でも、まあ気にしなくていいよ。どうせ父上だし」

「そうねぇ」

「あ、ダメだ。この親子フリーダムだわ」


玄関を入ってわちゃわちゃしていると、ペトラが扉を開き、新たに2名客人を迎え入れる


「なぜ普通に置いていった?」

「え?なんかぼーっとしてたから……それより、ナギ。たぶん結婚式までうちの屋敷にいるだろうからよろしくね」

「とりあえず、座ってもらおうぜ?――陛下、こちらにどうぞ」

「う、うむ」


とりあえず貴賓室に入ってもらい、シャノンがお茶を配る。


「それで、どうすればいいんですかね?これ」

「いや、特に考えてなかった」

「おい、ルイテル……」

「とりあえず、自己紹介でもしとけばいいんじゃないかな」

「えー……ナギ・クレセント・シュヴランと申します」

「うむ。貴殿の活躍は聞き及んでおる。ヨハネス・ジークハルト・ヴィーラントという。まあ、ヨハネスとでも呼んでくれ」

「わたくしは、クリスティアーネ・ディアナ・バルテン・ヴィーラントと申しますわ」

「うーん……で、どうしたらいいの?正直、皇族だからどうこうとかまるで考えてないよ?そもそも来ること自体さっき聞いたばっかりだし……」

「まあ、今は皇帝じゃないから気にしなくていいよ。というか辞めるのが速いんだよ」

「息子からの扱いの雑さに若干切なさを感じるが、まあ、基本的には気にしなくてもよい。適当にルイテルの屋敷で生活しておるから」

「まあ、陛下がそういうならもうそれでいいか……」

「――失礼します。ナギ様、こちらを」

「ああ、シャノン。ありがとう。キーリーにも礼を言っといて」


シャノンがトレイの上に三枚のカードを乗せて運んできた。


「しばらく滞在されるという事でしたので、臨時の市民証です。そもそも、おひとりで行動されることはないと思うのであまり使わないと思いますが……」


白いカードに金の不死鳥の刻印が押されているカードにはそれぞれの名前が書かれている。


「いや、母上は結構抜け出すし、父上もわりと暴走するからね。落ち着いているのはクリスティアーネ母様ぐらいさ」

「……やはり血筋なのでは?」

「あ、気づいた?この両親から生まれた子供に皇帝なんて務まるわけないんだよね」

「ルイテル様、後で怒られますよ?」

「というか今日行くことはだいぶ前に手紙で知らせていたと思うのだが」

「冗談かなって思って」

「流石にそれはないだろう……というか父はそろそろ泣くぞ」

「まあ、とりあえず、晩餐の準備をしてくるから……」

「お、ありがとう。僕もいったん戻ってお酒でも取ってくるよ。父上たちの荷物もあるし、母上たちは着替えたりする?」

「まあ、ドレスは何点かありますけど」

「着替えますか?」

「いや、いいよ別に。大変でしょう?それにお二人ともまだ若くてきれいだからそんな無理に着飾らなくても」

「父と母で扱いが違うのは何ともならんのか?ルイテル」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ