#scene04-20
#scene04-20
「おま、お前、自分より強いから結婚したとかいう理由だったらやめとけ?」
「そうだぞ、クレハ。思考が母さん寄りになってるぞ。親父、母さんよりだいぶ弱いけど」
「もういいでしょ、ナギ。出して」
「え?いいの?」
「ダメだ、待て。クレハよりそっちの男を説得した方がいい様な気がするぞ、兄貴」
「そうだな――というかそっちのお嬢さんは、もしかしなくてもエレノラ・ザヴィアー嬢では……」
「ぎく」
「バカかお前は」
「ナギ、役人にバレた。逃げよう」
「よし、逃げよう」
「ほら、早く出して」
一瞬で加速したナギたちを追う事も出来ず、2人は門の前に取り残される。
「……いろいろ言いたいことはあるけど、兄貴。エレノラ嬢って?」
「ああ、学園都市から脱走だか誘拐だかされたとかで捜索願が出ててな……」
「ザヴィアー伯爵とかなんでそんな大物が娘に逃げられるなんてこと」
「魔力特性が魔特化だとかで、軟禁されてたようだ」
「そりゃ逃げるわ……」
「しかし、あの男、死ななきゃいいけど」
「ほんとにクレハより強いなら親父はどうとでもなるだろうけど」
「弟よ、うちの母親の性格を忘れたわけではなかろう?」
「あー……バーサーカーだもんなうちの母親」
◇
公都から全速力で2時間と少し飛ばして、ヒューゲル伯爵領コーニッシュへと入った4人。
クレハ曰く、特に見て回って楽しいところもないという事で伯爵の屋敷へと直行した。
ヒューゲル伯爵家の功は主に、現行当主のラーテグント・ヒューゲルが打ち立てたもので、公国唯一の女性当主(叙勲時は男装していた)でもある。よって、その旦那の権限たるや無に等しいものがあるのだが、
「お母さん、帰ったわよ」
「えええ?!クレハお嬢様!?手紙が来てから数日しかたっていないのに?!」
「ミーナ。お母さんは?」
「ラーテ様でしたら、今の時間は外で剣を振ってらっしゃいますね」
「そうだと思ってたわ。部屋の準備をお願い4人分ね」
「畏まりました!」
メイドさんがバタバタと走っていったのを見送って、クレハはまっすぐ中庭へと向かった。
そこでは母を含め数人が剣を振っている。
「お母さん」
「あら、クレハ。はやかったのね?」
「ラーテ、早かったとかそういう次元じゃないぞこれ」
「クレハが戻ったってことは、そちらの男性が?」
「うん、旦那様」
「そう。良かったわね。うんうん、見た感じ文官っぽいけど」
「彼は錬金術師なの。アウグスト・シュヴランの9番目の弟子で現行当主」
「なるほど、あの爺の弟子ならば弱くはないわね」
「え?お母さん戦ったことあるの?」
「3回ほどあるわよ」
「マジか」「それはちょっと予想してなかった」
「そんなことより、ラーテ」
「なによ、今私が話しているでしょう?」
「いや、しかしだな、ここは父親として」
「父上、どうせ母上には逆らえないんですからじっとしててください」
「え?あ、はい」
「それで、旦那様の資産力は?」
「予想外に堅実的な質問が来た……」
「領地持ちの伯爵位、国家プロジェクトへの関与、機巧装置の工房と薬の工房持ってるわよ。総資産で言うと、自治州ぐらいなら買える」
「え?オレそんなに金持ってたっけ?」
「ナギ様、自分で帳簿つけるのに気づかないんですか?」
「そもそも自治州の値段とか知らんし……」
「うーん、そこまでだと私が文句を言えるところは一つもないわね。それだけ資産あれば滅多なことで自滅しないでしょうし」
「帝国内の派閥で言えば、新興派の筆頭であるディースブルグ侯爵の直下で、さらにシッファー宰相との親交が深いわね。それと中央派のエッゲルト公爵とも交友があるからそれなりに意見の通る位置にいるわね」
「まあ、開発が忙しくて中央会議には出たことないんですがね」
「よくそんな無茶苦茶な男捕まえたわね……」
「というより、私と婚約してから一気にここまで駒を進めた」
「あなた結構あげまん気質だったのかしら……まあ何はともあれ、私はいいと思うわ」
「じゃあ、春になったら街の完成式典と結婚式するから来てくれる?」
「ええ、情勢が最悪だから帝国にはかなり早めに入ることになりそうだけど。ちなみに側室はいるのね?」
「流石にいるわね。でも納得はしてるわ。ちなみに私がちゃんと正室よ。ヒューゲルの名前は帝国でもそこそこ重かったみたいね」
「あなたがいいなら構わないわよ。ちなみに、どういう素性?」
「そこにいる、アーケイン・レヴェリッジの孫娘と……」
「シャノン・レヴェリッジと申します。ちなみに位階には3番目という感じです」
「また、癖の強いのを……という事は、間に一人貴族がいるのね?レヴェリッジ家は商家としてはトップクラスですし」
「はい、2番目はルーツ王国アルティエリ子爵家からですね。表向きには政略結婚です」
「それと、アイヴィー・サイアーズ。機巧術の関連でそのあたりの家から多くお嫁さんがきてる感じだと思っておいて」
「最近サイアーズは落ち目だと言われているけれど……媚売りかしら?」
「どっちかというと、ナギがサイアーズから筆頭技術士であるアイヴィーを奪ったからこうなったみたいね?」
「なるほど、そういう裏事情があったのね?」
「あと、関係はまだないんだけど、愛人扱いで妹弟子のキーリー・シュヴラン。本人が婚約を望んでないからそういう扱いにしてほしいってことで相談を受けた結果ね」
「結構気の多い方ね、大丈夫?」
「大丈夫よ。他の人を知らないけど夜は強いみたいだし」
「絶倫ですね」
「おい、お前ら」
「貴族の子女に、結婚前に手を出すだと、貴様」
「父上落ち着いて」
「これが落ち着いていられるか。止めるな、ジーク!」
「ナギ」
「マジか」
突然の奇襲に焦る様子もなく、素手で剣を受けたナギは、そのまま剣を分解し、砂へと変えた。
「!?」
「それ、アウグストの爺さんにもされたことあるわー。シュヴラン伯、本気でやっても構わないわよ?」
「本気でやったら殺しちゃうので1割ぐらいで」
どこからともなく剣を抜いたナギが構える。
「!!――ジーク!」
「はい、父上!」
三男から予備の剣を受け取り、ナギの剣に備える。
ナギの剣の振り下ろしを、たやすく受け止めたジスランは、その剣を押し返し、攻撃のモーションに入る。
「――瑞星〈裂〉!」
斬撃を飛ばす、とかいう無茶苦茶な攻撃がまっすぐナギへと向かっていった。
魔力があってこそできる業だが、
「あーあ、もう使っちゃうのね。勝ち目なくなったわね、お父さん」
ナギはその攻撃をギリギリといった様子で躱す。
「なるほどね」
ナギは自分の剣に風の魔宝石を入れる。
「行きますよお父さん」
「誰がお父さんだ!」
「瑞星〈名称未定〉」
先ほどジスランの放った剣閃に雷が付与され、速く鋭く殺傷性を高めた攻撃がジスランの胴を裂いた。
「ぅぐぁ!?」
「父上?!」
「ナギ、今の技、あとで教えてね」
「了解」
「――今の技、今見て盗んだのか?」
「もともとナギは私の瑞星を見てるから解析も簡単だったんじゃない?」
「クレハ、あなた、今いくつ使える?」
「10の型のうち、お母さんに見せてないのも含めて7つ」
「見せてないものも皆伝を得られるという自信があるという事かい?」
「そうね」
「あなたとあの旦那様の相性は最悪のようね」
「敵からすればそう映るんじゃない?正直、お母さんの擬音系の解説より、ナギの解析込みの解説の方がわかりやすいし」
「うぐ……」
「父上に代わり――不肖、ジークハルトがお相手をお願いする!」
「なんで!?」
「いざ、参ります、義弟殿!」
「マジかよ!?」
闘志に火が付いた三男相手になぜか連戦を行う事となったナギは再び剣を構えた。
ちなみジスランはかなり雑に転がされている。
「さあ、どこからでもどうぞ!」
「三男ってことは……ああ、カウンター系か」
花月、正式にはクレハがアレンジを加えた〈刹〉を放ち様子を見る。
流石にこの程度では、仕留めることはできなそうだ。
「なるほど、クレハの技ですか。なるほど――って、まだ喋って?!」
「いいからいいから」
そういいつつ、連撃を加える。
一瞬、下がり、魔宝石の入れ替え、再攻撃。
「それを待っていました!」
「銀月か」
「銀月です、ただし、私の技はクレハより鋭い!」
「カウンターにチェインしてカウンターっていうのも面白いよな」
「なに!?」
ナギの剣を受け流し、一瞬で後ろを取ったジークハルトの攻撃を、ナギは更に受け流し、彼の背を斬った。
「まさか、そんな」
「数センチだけ、体の位置をずらして見せた。まあその程度でも攻撃にはかなり支障が出る」
「へえ、そういう風に使ってたんだ。次からは斬るわ」
「自分の娘ながら疑問に思うんだけど、あなた、ほんとに旦那様と仲いいのよね?」
「いいわよ?でも、うちのメンバーそれなりに戦闘力高いから」
「そうなの?」
「少なくとも全員父さんより強いわよ」