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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#04 途上世界のクレセント
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#scene04-19



「と、いうわけで公国まで行ってこようと思うんだけど」

「そうか、じゃあ、今回ばかりは僕は留守番しておくよ」

「え?てっきりルイテルはついてくると思っていたが」


談話室で茶を飲みながらメンバー全員と会議をしているのはいつものことだが、話題にルイテルが乗ってこないのも珍しい。


「流石に国家間の情勢が超不安定なところに行くのはねぇ……僕が行ったせいで戦争になったとか言われるのも嫌だし」

「なるほど」

「その条件ならナギも不味くないの?」

「良くはないけど今しかタイミングないし……」

「あれだったらナギが一人で戦争して勝ってきてくれてもいいよ」

「それは面倒だから嫌だ」

「勝てないとは言わないんですね……」


ジーナがため息をつきながら、自分とクレハのカップに紅茶のお代わりを注ぐ。


「オレは同行しよう。護衛として」

「アーリックが行くなら、私も」

「アーリックとパンドラは待ってくれないか?」

「ん?どうした、ルイテル」

「いや、ちょっとこの間シッファー伯が来た時に話を貰ったんだけど、アーリックに領地無しで子爵位を上げようかって」

「……どうしてそんな話になる?」

「ナギと僕とで功績が多すぎて、分配する先がないんだよね。だからと言ってキーリーに分配すると面倒なことになるし」

「なるほど。オレは受けてもいいが」

「……へぇ、意外だね。嫌がると思ってた」

「この先爵位がないとナギの護衛としてついていけない場所もあるだろう。そもそも、クラウジス家はそういった経緯で今の爵位を持っているわけだ。それに、ルーツの実家には時折戻るかもしれないが、この先は帝国、エストールで生活を続ける予定だし、不都合はない」

「じゃあ、なおさらのこと、手続きとかがあるから残ってくれるかな?結婚式までに何とか爵位を付けておきたいしね」

「了解した。ナギ、すまないが、今回は」

「大丈夫だ。これから先を頼むよ。パンドラも」

「そうですね。私も、奥様方の護衛兼話し相手として精進しなければなりませんし」

「……いや、パンドラにそこまでは求めてないけど」

「まあ、いいじゃない。結局のところ、行くのは――」

「オレと、クレハとシャノン、エレノラだけかな?リュディはどうする?」

「今回は辞めておきます」

「まあ、リュディには少し危ないかもね」

「おーけー。ミカヅキのことはキーリーとアイヴィーに任せて大丈夫か?」

「問題ないですよ」

「なんか面白いもんあったらお土産に買ってきてな」

「わかった」



「なあ、ラート」

「どうしたのよ、ジスラン」

「また、クレハから手紙が来ているのだがね」

「ああ、いい加減に許してあげればいいのに。というか、あなたは今時古いのよ。それで、手紙にはなんと?」

「もう面倒だから直接会いに行くと」

「あの子らしいわね。旦那様もつれてくるのかしらね?」

「断じて、断じて認めんぞ!」

「はあ、面倒なオヤジよね、あなたは」

「息子と娘では可愛さの種類が違うのだよ、わかるかね?」

「わかるけれど――まあ、いいわ。それより、久々に帰ってくるのだから準備をしましょう」

「おお、そうだ。クレハを歓待せねば!公都にいる息子たちにも連絡を」

「やめなさい、仕事があるでしょう」

「ぐぬ、しかしな」

「まったく……少しは落ち着きなさいな。この手紙が着いたのが今日でしょう?」

「ああ、そうだ」

「エストール、聞いたことがない街だけどコーニッシュまで来ようと思ったら2週間はかかるわよ」



エストールからグンナル公国ヒューゲル領、コーニッシュの街までは、全力で馬を飛ばしても10日はかかる計算なのだが、ナギたちの機動力で言えば、その距離は大したことはなかった。


朝8時にエストール領を悠々と出た2台の二輪車は街道を爆走。

副都シュトフェルを過ぎたあたりの河原で早めの昼食を取り、再び移動。

14時ごろには国境の街トリカに到着し、グンナル公国へと入った。

そして、公国側の国境の街シビーユからさらに1時間ほど走り、公国の副都、バヘッジへと到着した。


このバヘッジは公国の首都ではない。

しかし、公国の中心にあり、公国の中で最も栄えている街だと言える。

故に公都バヘッジと呼ばれるのだが、


「……昔は、あんなに来たかったのに、エストールを見てるせいでショボく見える」

「珍しく長文を話したと思ったら……」


バヘッジの中心街を眺めながらエレノラがぼそりと呟き、それを聞いたナギが突っ込みを入れた。


「エレノラは殆ど実家から出してもらえなかったのよね?」

「うん。今はナギやクレハが色々連れて行ってくれるから楽しいけど」

「そっか」

「なんか、少し嬉しいわね」

「クレハ様が照れているのは珍しいですね」

「そうだな」

「あなたたち、からかうのは辞めてくれる?」


まずは今晩の宿を探す。

金銭的にはかなり余裕がある4人は迷わず一番高そうなホテルへと入ったが、


「ふむ、まあ、こんなものか」

「なんかあんまりパッとしないのよね」

「公国やアドリアではこういったものの品質はかなり低いですね」

「シンプルならナギの作るやつぐらいシンプルでいいし、豪華にしたいならキーリーが本気出したときぐらいのものにしてほしい」


案内係の口元がやや引きつっているが、高額な金を払っている客で、しかも身分証からは貴族であるという事なので大ぴらに文句を言う事も出来ない。

そして、4人が部屋に入って一息つく。

シャノン的には置かれている茶葉の質にすら文句があるようだったが。


「……あ、何も考えずに4人部屋取ったな。オレ」

「私は気にしない」

「いや、ダメでしょう」

「そうですね、エレノラ用にもう一室とりましょうか」

「別にいいのに……」


といったようなごたごたが発生したりしたが、概ね問題なく夜を越し、翌朝。

朝一番でエレノラの用事を片付けるために役所へと向かった。

カウンターに向かったエレノラは、受付の女性としばらく問答をしたのち、うなだれて戻ってきた。


「……どうだった?」

「貴族は家長の許可がないとできなって言われた」

「あー……面倒だな」

「うん、面倒」

「じゃあ、とりあえず、保留?」

「そうしかないでしょうね。お父様に会うのは嫌なんですよね?」

「うん、嫌」

「……エレノラの実家滅ぼした方が面倒なくないか?」

「ナギ、ナイスアイデア」

「ダメに決まってるでしょう」「それは流石に」


危険な発言を漏らすナギと便乗しようとするエレノラを制止して役場を出る。

街は昨日と変わりなく賑わっていた。


「じゃあ、コーニッシュに向かうか」

「そうね」


コーニッシュ方面へと続く西門。

そこを抜けようとしたところで背後からクレハに声を掛ける者が居た。


「おや、クレハ。クレハじゃないか」

「久しぶりだなぁ、何してたんだ?」


よく似た顔の二人の男性。

片方は役人のような服装、片方は騎士風の服装をしている。


「義兄さんたち、こんなところで揃ってどうしたの?」

「いや、公都に来たら偶然弟と会ったものだから話していたのだ。そうしたら妹もだ現れたものだから驚いてな」

「へえ、偶然ね。ああ、そうだ、紹介するわね。私の旦那様のナギ」

「しばらく見ないと思ったら、旦那様ときたか……ん?おい、待て」

「今衝撃的なことが聞こえたぞ。親父の心臓が止まりそうな、な」

「結婚したのよ」

「「はああああ!?」」

「義母さんと義父さんには報告してるわよ?事後だけど」

「ちょっと、待て、クレハ。一度、落ち着いて話をしよう」

「長くなりそうだから嫌」

「いやいやいや――って、そこの男もなんで自分関係ないみたいな顔で立ってるんだコノヤロウ。お前みたいな馬の骨に大事な妹はやらんぞ!」

「おお、そうだな!よく言った兄貴!」

「――初めまして、御両人。わたくし、ナギ・クレセント・シュヴランと申します。ヴァルデマル帝国にて伯爵位を頂いており、エストール領領主、機巧技術局ミカヅキの顧問をしております。また、先代、アウグスト・シュヴラン師より正式に第9の弟子として、シュヴランの錬金術を筆頭として継いでおります。以後お見知り置きを」

「「え、あ、はい」」


あまりの情報量に処理落ちする二人を放置して、クレハは門の外へと向かった。

それを見て3人も続くが、バイクに跨り走り出そうとしたところで2人の義兄が再起動する。


「おおお、おい―――待て、クレハ!」

「嫌よ。だって、また私の旦那様に文句を言うんでしょう」

「いや、お前旦那様とかいうキャラじゃねえだろ」

「ナギ、何か言った?」

「ナンデモナイデス」

「お前、まさか、この人を親父のところに連れていく気じゃないだろうな!?」

「そうよ?」

「おい、殺されるぞ?!」

「大丈夫よ。お父さん私より弱いじゃない」

「その基準はおかしい」

「問題ないわ。だってナギは私より強いから」


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