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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#04 途上世界のクレセント
119/131

#scene04-17




シッファー伯は、国の宰相としての仕事、そして、隣に領地を持つ領主としての仕事をきっちりこなした後、シュヴランの屋敷の談話室にてくつろいでいた。

何分忙しい身なので、妻や娘とこういったゆっくりと過ごす時間を獲得するのは難しく、彼自身、めずらしく酒など飲みながら余暇を満喫していた。


「こうして、エストールまで逃げても来なければ、私が妻や、娘とゆっくり過ごす時間もないですからね」

「まあ、ゆっくりしていくといいよ。その分後でライズから文句を言われるだろうけど」

「そうですね。まあその位の文句はもう聞き流すことにしてますが」


「キーリーさん、あなたご結婚は?」

「そうですねぇ……う――私は、ナギ兄様のように貴族社会で生きていくのは難しそうですから……」

「そんなことはないと思いますけど」

「それに、師の養子であっただけで、兄との血縁もありませんし」

「そういうのは帝国ではあまり気にしないわよ。シュヴランの名前はこれからもっと大きくなるでしょうし、あなたに縁談が来ることも多くなると思うわ」

「そうなると、私は一度家を抜けて兄様の愛人にでもなりますから」

「ぅおい、お前、急に何言いだしてるんだ!?」


ルイテルの隣に座っていたナギが、シッファー伯爵夫人キーリーの発言に驚き立ち上がる。


「なんや、ナギ兄。守ってくれへんの?」

「いや、守るけどさぁ……言い方ってもんがあるじゃん――ああ、シッファー伯。失礼いたしました」

「いえいえ、構いませんよ。シュヴラン伯も大変ですが、これだけ強い女性が周りに居れば家は繁栄しそうですね」

「そういう問題ですかね?」


「まあ、これ以上際限なく奥さんを増やされても困るんだけれど」

「帝国貴族の血が入ってないというのは古い貴族にあまり好まれないかもしれませんが」

「といっても、ナギの師匠が家元なわけだから」

「まあ、いざとなれば紛争でも何でもして勝てばいいという考え方もありますが」

「それね」

「クレハさんとシャノンさんは何を物騒なことを言っているのですか?」

「気にしないで、ジーナ。ちょっと将来設計をね?」

「紛争の予定は建てないでくださいよ?」



ナギの屋敷の離れに一泊したシッファー伯御一考。

そして、翌日は街の視察を行う予定だった。


宰相でもあるシッファー伯が、妻と娘を連れて視察に来るなどというのはかなり前代未聞であり、それだけで、彼がナギに対して相当な信を置いているという証明になる。

だが、その反対に、ここで万が一、彼や彼の貴族に対して事故(・・)が起きれば、ナギとシュヴラン家の醜聞になるのだが、


「初めまして、シッファー伯爵閣下。エストール軍、桃月隊隊長、ナリス・ルーレイドと申します。こちらは部下5名です」


ナリスと男性の兵が2人、女性の兵が4人。

きっちりと黒に近いグレーの制服を着ているが、この街の兵は制服に入っているラインの色で所属がわかる。当然、6人ともピンクだ。


「シッファー伯、今日は一応護衛を呼んでおきました。主に、奥様と娘さんの」

「それはありがたいです」

「ナリス。ちなみに、昨晩はどんな感じだった?」

「そうですね、そもそも街の中に入られるようなことはなかったです。紅月隊が随分働いてくれていました」

「なるほど。マイカに臨時手当を出しとくように言っとくかね」

「そうしていただけると彼らも喜びます。今日は予定通りのルートで?」

「ああ、車の用意は?」

「勿論、できています」


「ルイテル様、今日はどこへ?」

「まずは、駅だね。細かな内装以外は仕上がってるから。その後はミカヅキのビルディング、軍港、海産市場、百貨店、高等学院なんかを周るって言ってたけど」

「それは楽しみですね」

「100%完成しているところは少ないけど、現段階でも見て面白いものだとは思うよ」

「ルイテル様がそう仰るなら、期待はできますね」


エストール駅は地上3階、地下6階建ての巨大施設である。

類似の施設を帝都にも建設中だが、上物を作るのが困難な帝都ではここまでの物は作ることが出来ない。


「地下2階が帝国東西線の線路ですね」


地下へと降りるエレベータの中でナギが施設の解説をしていく。


「地下1階は?」

「今は何も。商業施設とかで使う予定ではあります」

「なるほど」

「線路は、地下3階のオールディス支線も合わせて東西の農業区に出るあたりで高架に上がる形になりますね」

「ディンガーやリューベックの線路は2階に乗り場がある形になりますか?」

「そうですね。その形で今検討しています。フェッツに関しては、まだほとんど決まってませんけど」

「結局東西線はフェッツまで敷くんですね?」

「ええ、パウル子爵に頼まれていますから」

「それでもダンツィの阿呆はまだ動きませんか?」

「フェッツともほとんど交流がないみたいですからね。ほんとに何がしたいのか」

「そもそもあんな場所で貿易を断ってどうやって生きてるんでしょうね……」

「貴族の矜持とやらで領民の腹が膨れるならそれでもいいんじゃないですかね。おかげさまでうちの領地に結構な移民がきてますが」

「ああ、そうでしたか……面倒を掛けますね」

「あの馬鹿男爵、どこまで粘れるか見ものだね。僕がいるせいで表だって喧嘩吹っ掛けたりできないみたいだし、あの老獪――エッゲルト公がナギを支持しているせいで中央貴族たちも何にもできないし」

「まあ、それで挨拶にも来ず、交易路封鎖されているのは本当の馬鹿のすることだと思いますが……」

「アイツ、ディースブルグ候のことも大嫌いみたいだからねぇ……その癖に領地は手放さない」

「実際のところ、あの男爵は功績がショボすぎて次の代で何か利益上げなければ領地取り上げになりそうですが」


「クレハ様、この鉄道というのはどのくらいすごいものなんでしょうか?お父様が、うちの領地にも創り始めようとしているようなんですが」

「帝都からエストールまで鉄道が通れば、帝都からラングまで大体4時間と少し、ラングからエストールまでだと1時間ぐらいで行けるようになりますよ」

「凄いですね……」

「それが出来たら、うちの人ももっと頻繁に帰ってこれるようになりますね」

「ナギの計画している線路が全部引き終われば、1日あれば帝国の端から端まで移動できるようになるはずです」

「マテウスの御爺様のところにも行けるようになりますか?」

「マテウスであれば、一度副都まで出てから迂回する形で半日ぐらいで行けますね」

「鉄道ってすごいですね」


「ナギ兄、準備が整ったで」

「ありがとう、キーリー。それじゃあ、皆さん下に降りますね」


ナギの案内でさらに地下へ。

地下5階、メトロの乗り場へとたどり着く。


「本格的に動き始めたら、メトロと帝国鉄道の改札は別になる予定ですので」

「乗客の振り分けが面倒だもんね」

「なるほど。ちなみに、この地下空間の工事はどうやって?」

「ナギとキーリーが錬金術でやった」

「……参考にならない答えをありがとうございます、ルイテル様」


ホームには一両分の列車が停まっている。


「少し、メトロというものを体験していただこうと思いまして」

「それは少し面白そうですね」

「まず、これに乗って南に一駅移動します。その後、組合庁舎前駅で乗り換え、東に1駅移動します」

「乗り換える、とは?」

「効率的に線路を引くために直線の線路を格子状に配置しています。南北と東西の移動が別れるので路線を乗り換える必要があるんです」

「なるほどなるほど」

「僕もこれに乗るのは初めてだよ」

「自分で安全確認するまでルイテルとか乗せられませんからね……」

「それで、次の目的地はどこなんです?」

「“ミカヅキ”です」


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