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途上世界のクレセント  作者: 山吹十波
#04 途上世界のクレセント
117/131

#scene04-ex5


◇新年祭


12月30日。

この世界ではこの日が大晦日にあたる。


そして、そんな日の朝。ふらりと散歩していた市民が、中央公園の広場でステージの設営をしている領主の姿を発見した。


たぶん、悪いことは起こらないだろうなと思いつつも、市民は市役所と領軍紫月隊に通報。

しばらくして、両方の代表者が駆けつけてきたが、そのころにはナギの作業はおおむね終了し、作業しているのはキーリーに代わっていた。


「……あの、キーリー様、何をされているのです?」

「何回も言うけど、うちにはそんな畏まらんでええよ?様付けされるのも気持ち悪いし」

「はぁ……」


次々とステージの周りに装飾を施していくキーリーを見ながら、マイカが白いため息をつく。


「それで、これは何なのでしょうか?」

「これ?いつものナギ兄の思い付きやで」

「まあ、そうだろうなとは思いましたけど……」

「新年になったら教会に御祈りにいく敬虔な教徒も多少はおるやろうからって、仮設の教会や」

「我々の眼にはライブステージに見えるのですが?」

「カウントダウンライブでもするか、って」

「なんですか、それ……」

「今、ジーナとエレノラとナギ兄で歌詞作って、それにクレハとパンドラとルイテルで曲付けてるわ」

「なんですかその無駄な才能。というか、また警備とかいるじゃないですか」

「まあ、すでに桃月隊には強制召集してるはずやけど」

「ああ、あの招集そのための奴だったんですか……領主館で仕事って聞いてますけど」

「ナリスはこちら側に引き込んであるからそう報告させとる」

「買収!?――というか、こういった催しをされる際はこちらに報告をください」

「市長には話と追ってるはずやで?一昨日ぐらいに思いついてたから。あとサプライズでやらんと面白くないやろ?」

「せめて私には報告くださいって言ってるんです……あと、先週祭したところなんですけどそれは?」

「どうせナギ兄のポケットマネーやから」

「金銭的な問題ではなく……」

「何にせよ、君ら軍の人間も独身多いし、一緒に新年迎える奴がおらん奴は適当に飲み明かそうや、って言う企画やね」

「独身は放っておいてください。たしかに、一人寂しく年末を迎えるというのは割と心に来るものがありますが……」

「やろ?」

「それを4人も奥さんの居る人が煽りに来るんですか」

「まあ、そういう事や」


と、いう事で、基本的に秘密裏に勧められていたカウントダウンライブだが、目ざとく気付いた商人たちが、夜に向けて最後に一儲けしようと酒や肴類の屋台を準備し始める。

もうそろそろ日も暮れるという時間になって、まだまだかと様子をうかがう市民たちがちらほら現れたところで、エレノラが現れ、ステージの前に立て看板を差して帰っていった。


『23時からやるから。何をとは言わないけど byナギ』


この雑さである。

ここで、一旦、夕食を食いに帰る者と、帰っても誰もいないし、ここで仲間とぐだぐだしとこう組(独身組)に分かれた。

なお、広場は広域暖房結界がおかれているため外よりはかなり温かい仕様になっている。


そして、22時半頃になると、ステージ周辺にはかなりの人が集まっていた。


仲間内でわーわーと騒いで笑っているもの、家族連れやカップルもそれなりにいる。

そんななか、一応制服を着たままマイカが歩いていた。


「はぁ、皆さん元気ですね」


特に誘い合わせてもいないので、一人なのだが、その肩をたたく者が居た。


「よお、マイカ」

「ボルス白月将。お疲れ様です」

「今はオフだ。ガルガンでいい」

「……それでは、ガルガンさん。おひとりですか?」

「ああ、部下に誘われてきたはいいけど、思ったよりの人出ではぐれてな」

「そうでしたか」

「マイカは今日も仕事か?」

「いえ、別にそんなことはないのですが、することもないのでパトロールついでに観覧に来ました」

「お堅いなぁ……まあ、悪いことじゃねぇけど。制服だから酒はダメか?」

「いえ、勤務中でもないのでそこまでは気にしませんが」

「じゃあ、いっぱい奢るからその辺でのもうや」

「じゃあ、御馳走になります」

「おう、たまには気抜けよ。そうだ、向こうに新しい菓子の屋台が出てたんだがな……」

「甘いものお好きでしたよね?買わないんですか?」

「いや、こんなオッサンが一人で買いに行ったら気持ち悪いだろ?」

「そうでしょうか?じゃあ、一緒に行きましょうか?」

「すまねぇ、恩に着る」

「ふふ、お安い御用です」


軍部の大人組が何やらいい空気を作っている中、ナギたちがステージに楽器を運び始め、観客たちが湧く。


「待たせたな!」

「いや、ナギ兄。また、こんなこといきなりやって、そろそろ市民もついていけなくなるで」

「いやでも、これオレのポケットマネーでやってるから趣味の一環よ?」

「じゃあええんかな?」

「とりあえず、ルイテルたちの調整が終わるまでちょっとまってくれよ」

「というか、どこから楽器調達してきたん?」

「ルイテルの馬鹿みたいに高いバイオリンとかは自前の奴だよ」

「それはわかる」

「クレハのギターとオレのベースは作った。あと、ドラムも作ったけど誰も習得できなかった。ペトラがピアノ弾けたんだけど、流石にピアノなんて作る暇はなかったからアイヴィーにそれっぽいものを用意してもらった」

「いつも通り才能の無駄遣いやな」

「で、音響と照明は?」

「ばっちりやで。何時でも使えるようにセッティングしてある」

「お前も人のこと言えないな。じゃあ、アイヴィー、テストよろしく!」


ナギの声の直後、ライトの色が目まぐるしく変わり始めた。


「おっと、いい感じだな」

「よし、じゃあ、メインボーカルは、うちの嫁のクレハだ。ああ、でも最初はオレとルイテルで歌う。まずは一曲目、ルイテルがアレンジした不死鳥讃歌。まあ、国歌だな。正直俺も聞きなれないけど」


わはは、と観客から笑い声が上がった直後、国歌の荘厳なイメージとは程遠いアップテンポの曲が始まった。

元々の曲を知っている軍人組は驚愕したが、これをやったのは王族のルイテルなので誰も文句は言うまい。

市民一同呆然としていたが、それなりの盛り上がりを見せ、ナギが歌詞を配ったこともあり最後は大合唱となった。


「いやぁ、予想外の盛り上がりだな、ルイテル」

「だね。式典の時もこれぐらいやってくれれば退屈せずに済むんだけどな」

「まあ、陛下がノリノリでこれ歌ってる姿とか想像できないけどな」

「今度歌わせてみようか?」

「絶対笑うからやめてくれ」

「さて、それじゃあ、次の曲行ってみようかな。次の曲はどんな歌かな、DJアイヴィー」

「え?DJだったの?」

「そうらしいですよ。次の曲は、クレハさんとナギさんの馴れ初めを描いた『紅蓮恋歌』です」

「あー、それか」

「それか、って、エレノラに唆されて歌詞描いたのあなたでしょうに」

「こっぱずかしいんだよなぁ」

「歌うのは私なんだけどね?」


次の曲も、今までの耳にはなれないアップテンポの曲だった。

だがしかし、最初の曲で掴みはとれていたので、会場が一層大きくわきがあった。


「いやー、ナギって結構詩人だよね?」

「やめろよ。辞めてください」

「何テレてんのさ」

「じゃあ、ここで突然のイベントコーナー――ナリス君、カモン」


ステージの下からアーリックとパンドラ+リュディに引きずられてナリスがステージに揚げられる。


「え?本当にやるんですか?」

「やるんだよなぁ」

「うわ、ルイテルがすごい悪い顔してる」

「それはいいから、ナギ、趣旨を説明して」

「はい、じゃあ、その前に、アイリス・フロッドさんにもステージへ上がってもらいましょうか」


会場の隅にいたアイリスが速やかに連れてこられる。


「さて、それでは、皆さん静粛に」

「え?なにこれ?」

「…………」

「ナリス君、どうぞ」


息をのむ会場。


「アイリスさん、僕と結婚を前提にお付き合いお願いします!」

「……え?」


湧き上がる歓声。

しかし、すぐにナギがそれを抑える。


「あの、えーっと……一つ先に聞きたいんだけど、結婚した後も、今の仕事していい?」

「それはもちろん、僕もしばらくは仕事が忙しいでしょうし、お互い仕事も頑張りましょう」

「うん、じゃあ、お願いします!」


わああああああああ!と歓声が上がる。

街の美人で有名な二人のめでたい話に飛び交う祝いの声と、男衆からの怒声。


「よっし、うまくいったな?言っただろ、大丈夫だって、という事で、お祝いも込めて次の曲は、アイヴィー?」

「はい、それでは、最高にハイテンションな曲を――『月の魔法』です!」


曲が始まると同時に、エレノラとパンドラが魔法を打ち上げ、夜空に光が輝く。

年が代わるその瞬間まで曲は絶えず鳴り続けた。


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